212話 VSジニー・その1
先の事件の時から、ジニーは武器を双剣に切り替えている。
刃はやや短く、刀身は細い。
長時間の戦いに備えて、極力、体への負担を少なくしているのだろう。
故に、一撃一撃の威力は低い。
逆に速度はかなりのもので、注意しなければ、気がつかないうちにやられていた、なんてこともありえるかもしれない。
「ふっ! やぁ!」
先手はジニーが掴んだ。
風のように速く動いて、一切の無駄なく剣を振るう。
右の剣が斜めに振り下ろされて、次いで、左の剣が水平に払われる。
懐に入り込まれているため、回避は難しい。
槍を盾代わりにして、二つの斬撃を受け止めた。
ギギィンッ!
ジニーの膂力は極端に高いわけではないが、パワー不足を補うために、ありったけの速度をプラスしている。
鈍い衝撃が走り、思わず眉をしかめてしまう。
そんな俺の反応を見逃すことなく、ジニーが得意そうな顔に。
「ふふんっ、先手は私がもらったわね!」
「先手は、な。勝利までプレゼントするつもりはない!」
「きゃっ」
あえて、こちらから踏み込む。
思わぬ行動にジニーがバランスを崩したところで、力強くさらに前へ踏み込み、体全体を使って叩きつけるようにして吹き飛ばす。
ジニーがわずかに宙に浮いた。
そこを見逃すことなく、槍を突き出す。
地に足がついていないため、避けるのは難しいはず。
また、タイミングもバッチリだ。
これで勝負が決まるとは思わないが、それなりのダメージを与えることができるに違いない。
そう思っていたのだけど、
「ふっ!」
「な!?」
ジニーは器用に体をひねり、紙一重のところで刺突を避けてみせた。
さらにこちらの槍を蹴り、追撃を防ぐと同時に、遠くへ跳んでみせる。
なんて器用な真似を。
曲芸師だろうか?
驚くよりも感心してしまうような、そんなすごい動きだ。
これは、迂闊に踏み込むことはできないな。
最大限の注意を払いつつ、隙を探して睨みつけるように視線を飛ばす。
「ふふんっ、驚いた?」
「いつの間に、そんなことができるように?」
「女の子は、日々、成長するものなのよ。ましてや、恋する乙女は無敵なんだから」
自信たっぷりに言って、
「……ごめん。今の台詞は、聞かなかったことにして」
恥ずかしくなったらしく、赤い顔でそんなことを言う。
「うん? なぜ、今の台詞が恥ずかしいんだ? 誇るべきところじゃないのか?」
「いや、だから……自分で、恋する乙女は無敵とか……」
「悪いことではないだろう?」
「えっと、その……あーもうっ、とにかく、恥ずかしいものは恥ずかしいの! そういうところ、ちゃんとわかってよね!? アルト君のばか!」
「す、すまない?」
今の怒られ方は理不尽ではないかと思うが、勢いに押されて、反射的に謝罪してしまう。
むう。
女の子は、やはりというか、色々と難しいものだな。
それとも、俺の配慮が足りないだけなのだろうか?
後者のような気もして、なにも言えない。
「と、とにかく!」
しきりなおすように、ジニーがこほんと咳払いをする。
「今日のあたしは、今までのあたしじゃないわ。甘く見ないことね」
「甘くなんて見ていないさ」
槍をしっかりと構える。
こうして相対すると、よくわかる。
どれだけの鍛錬を重ねたのか?
どのような訓練をしてきたのか?
今のジニーは、俺が知る頃よりも、一回りも二回りも大きく成長していた。
その力を完全に把握することはできない。
このくらいだろうか? と想像することで精一杯だ。
つまり、彼女の力は未知数。
そして、強大。
下手をしたら、ここで俺が終わる可能性もある。
気を抜くことはできない。
油断なんてもってのほか。
ジニーを最大限の強敵と認め、全力で戦わないといけない。
いけないのだけど……
対ユスティーナの切り札だけは、できることなら使わないでおきたい。
一度見たからといって、そうそう簡単に破れる技ではないのだけど……
でも、ユスティーナに二度目は通用しない気もする。
彼女は、それほどまでに規格外なのだ。
「よし」
切り札は温存する。
その上で、勝つ。
決意を固めて、試合を再開した。
「いくぞっ、ジニー!」
「ええ!」
同時に床を蹴り、真正面から激突した。
槍と双剣がギリギリと交差して、競り合う。
さすがに、力は俺の方が上だ。
腕力で押し切ろうとするが、
「くぅ、このっ……!」
ジニーは全身をうまく使うことで、こちらに対抗していた。
巨大な軟体生物を相手にしているかのようで、なかなか押し込むことができない。
逆に、一瞬でも気を抜けば、そのまま押し返されてしまいそうだ。
俺も腕力だけではなくて、足や腰を使い、しっかりと体を支える。
その上で押し込む。
「くっ……さすがに、辛いわね」
「このまま、押し切られてくれるとうれしいけどな」
「悪いけど、それはダメ……よ!」
「っ!?」
瞬間、ゾクリと悪い予感がした。
慌てて競り合いを止めて、逃げるように後ろへ大きく跳ぶ。
直後………
さきほどまで立っていた場所を斬撃が駆け抜ける。
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