211話 賭け
セルア先輩とセリス先輩のため、ミリフェリア・グラスハイムと対決することを決めた。
しかし、元々の目的である、ユスティーナに勝利することも諦めてはいない。
両方の目的を達成してみせる。
欲張りすぎて失敗しないように、細心の注意を払わないといけないが……
今の俺なら、なんとかなるだろうという自信もあった。
もちろん、油断大敵だ。
慢心することなく、一つ一つのことに全力を注いでいきたい。
大会2日目。
最初に訪れた試練は……
「いよいよ、ね」
俺の対戦相手は、ジニーだった。
この時を待ち望んでいたというように、不敵な笑みを浮かべている。
「この時を待っていたわよ、アルト君。この大会で、アルト君とぶつかるために、ここまで勝ち上がってきたんだから」
「そこまでして俺と……?」
「ええ、戦いたかったわ。やっぱり、アルト君に想いを伝えるには、こうすることが一番だと思ったの」
「この前の……あの出来事でも、十分に伝わったと思うのだけど」
「ううん。あんなのはダメ。アルト君にとってはまったくの不意打ちだし、あと、あたしも全然覚悟を決めていなかったし。その後でちょっと話したけど、やっぱりこう、不完全燃焼というか……色々と伝わっていない気がするの」
「……」
「だから今度こそ、っていうわけ。そのために、わざわざ出場したんだから」
「そのために、わざわざ……?」
「あたしにとっては……ううん、あたしたちにとっては、それくらい重要なことなのよ」
ジニーとアレクシアの二人、ということか。
「そう……だな」
思えば、ユスティーナのことを考えてばかりで、きちんとジニーとアレクシアのことを考えていなかった。
気にしないで、と言われて、その言葉に甘えてしまい思考を放棄していた。
今頃になって気がついたのだけど、なんてバカなことをしていたのか。
まず最初に、なによりも二人と向き合わないといけない。
そうしなければ、ユスティーナに想いを伝えることなんて、してはいけない。
「わかった。今日の対決で、ジニーと……それと、アレクシアの想い、しっかりと受け止めさせてもらう」
「さすがね。アルト君なら、断らないと思っていたわ」
「鈍いかもしれないが……一応、男だからな」
「ふふっ、そういうところが好き」
「っ」
不意打ちの告白に、ついつい動揺してしまう。
そんな俺の動揺を察したらしく、ジニーが慌てる。
「あ、ごめんね。今のはアルト君を動揺させる作戦とかじゃなくて、ただ単に、素直な感想で……うっ、あたし恥ずかしいことを言っている?」
「そう、だな……かなり恥ずかしいことを言っていると思う」
「アルト君、顔が赤いわね」
「それは、まあ……」
「ふふっ、よかった」
なぜか、ジニーが笑顔に。
「照れる、っていうことは、少しはあたしのことを意識してくれているんでしょう?」
「それは……そうだろう。ジニーのようなかわいい女の子に告白されて、意識しない男なんて、世界中探しても一人もいないと思うぞ」
「うっ……逆にカウンターを喰らうなんて」
「?」
「ま、まあいいわ。それよりも……試合を始める前に、話しておきたいことがあるの」
「話しておきたいこと?」
「っていうよりは、提案かしら?」
ジニーは不敵に笑いつつ、宣戦布告をするように、剣を突きつけてくる。
「アルト君、あたしと賭けをしない?」
「……どんな内容だ?」
ジニーのことだから、無意味に賭けを持ち出してくることはないだろう。
きっと、なにか重要な意味があるはず。
そう考えて、ひとまず話に乗ることにした。
「内容はシンプルに、勝った方が負けた方に好きな命令を一つ、することができる」
「それは、また……」
「もちろん、できる範囲で。誰かに迷惑をかけるような内容もダメ。あたしたちの間で完結して、なおかつ、無理がない範囲の命令よ」
「好きな命令、っていうわりに制限が多いんだな」
「常識を考えると、こうしておかないといけないでしょう? それとも……アルト君は、無制限にしたい? あたしになんでも好きなことをさせたい?」
「い、いや……そんなことは、さすがにないが」
これも、ジニーの作戦なのだろうか?
心が揺さぶられてしまう。
ただ、言った本人も照れているところを見ると、勢いに任せた言葉なのだろうと推測できた。
「どう?」
「俺が賭けに乗るメリットは?」
「ぶっちゃけるけど、ないわ」
「本当にハッキリと言うんだな」
「嘘ついても仕方ないもの。アルト君なら、適当な嘘ついても見破られそうだし」
「でも、そうなると俺がわざわざ賭けに乗る必要はないな。負けたら、なんでも命令させられるんだろう?」
「でも、勝てばあたしにどんな命令をしてもいい」
「……」
「例えば、エルトセルクさんとの仲を応援してほしい、とか」
「それは……」
思わぬ話が出てきたことに、戸惑いを覚えた。
先日、ジニーとアレクシアは諦めないと言ったが……
今の発言は、それと矛盾している。
いや。
それほどの覚悟を持って挑んでいる、ということか。
ジニーと……そして、アレクシアの強い想いを感じた。
「わかった。賭けの話、受ける」
「いいの?」
「ああ、男に二言はない」
「ありがとう、アルト君。そういうところは、やっぱり……あ、ううん、なんでもない」
その後の台詞は想像がついたため、少し照れてしまう。
とはいえ……
俺がその台詞を口にする相手は、一人だ。
ジニーとアレクシアには申しわけないと思うが、今はまだ、側室とか考えられない。
一人の女の子だけに、想いを注ぎたい。
「よし、それじゃあ賭けは成立ね。後でやっぱりなし、って言ってもダメだからね?」
「わかっている。そんなことは言わないさ」
「うんうん。アルト君、そういうところは男らしくて、きっちりしているから、信頼しているわ」
「ただ……早くも勝ったつもりなのか? 賭けは受けたものの、負けるつもりはこれっぽっちもないぞ」
「あら。あたしがなにも勝算なしに挑むと思う? 賭けを持ちかけるんだから、もちろん、勝つための秘策があるわ」
秘策……か。
ただのハッタリと思わない方がいいな。
ジニーは、そういうつまらないことは口にしないタイプだ。
あると言えば、確かにあるのだろう。
一応、俺にも秘策はある。
ただ、それは対ユスティーナ用のもので、事前に使いたくない。
ほぼほぼ不可避の策ではあると思うのだけど……
ユスティーナの底は知れないから、下手したら、一度見ただけで対処法を思いついてしまうかもしれない。
できる限り、こちらの秘策を見せることなく勝ちたいのだけど……
うまくいくだろうか?
「両者、構え」
俺たちの話が終わったところで、審判が声をあげる。
わざわざ待っていてくれたのだろう、良い人だ。
「「……」」
俺とジニーは不敵に笑い、睨み合い……
「はじめ!」
それぞれ武器を構えて、同時にリングを蹴った。
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