210話 大会2日目
大会2日目。
今日は、準決勝と決勝以外の全ての試合を消化することになる。
そして、最終日である3日目に準決勝と決勝が行われて、大会が最大限に盛り上げられる……という仕組みだ。
順調に勝ち進むことができれば、俺は今日、2回戦うことになる。
相手は……ジニーとミリフェリアだ。
気をつけるべきは、ミリフェリア戦。
セルア先輩とセリス先輩のこともあり、絶対に負けることはできない。
そして、二人を解放するためにも、ユスティーナの言う策を絶対に成功させなければならない。
なかなかのプレッシャーではあるが……
しかし、怯んだり逃げたいと思うようなことはない。
絶対に、そんなことはない。
先輩ではあるが、二人のことは友達だと思っている。
なればこそ、全力を尽くしたい。
俺にできることがあるのならば、なんでもやるだけだ。
「ただ……ジニーと戦うことも、やや憂鬱ではあるんだよな」
告白をされて、振って……
しかしもう一度告白をされて……
どう接していいのか、かなり迷うところがある。
大会でも同じだ。
このような迷いを抱いたまま戦えば、どうなることか。
ジニーとぶつかる方が先なので、負けるわけにはいかないのだけど……
しかし、こんな精神状態なので不安が残る。
「せめて、誰かに相談できれば……」
ただ、その相手がいない。
というか、内容的に相談できるものじゃない。
ジニーに告白されたのだけど、どうすればいい?
なんて相談できるわけがない。
彼女の想いを勝手に暴露するようなもので、そんなことは絶対にしてはならない。
「アルトー」
控え室で悩んでいると、ユスティーナが現れた。
当たり前のように隣に座るのだけど……少し近くないだろうか?
少し動いただけで肩と肩が触れてしまいそうだ。
それに、ふわりと甘い匂いもする。
今までは、そんなことは気にならなかったのだけど……
彼女に対する好意を自覚したせいか、ものすごく意識してしまう。
くっ……落ち着け、俺。
こんなことで動揺していたら、うまくいくものもいかなくなってしまう。
「どうしたの、アルト? なんだか、難しい顔をしているけど」
「……これは、単なる好奇心による質問なのだけど」
「うんうん」
「例えば俺が、ユスティーナの一挙一動が気になると言ったら、どう思う? そんな細かいところまで気にするなんて、やはり、気持ち悪いと思うか?」
「え? そんなことないよ。むしろ、うれしいかな」
「うれしい……のか?」
「だって、それだけボクのことを気にしてくれている、っていうことだよね? そんなの、うれしいに決まっているじゃん。もう、ニヤニヤしてにへら~ってなって、笑顔が止まらなくなっちゃう」
「そう、なのか」
よかった。
少なくとも、嫌われることはなさそうだ。
「そんな質問をするっていうことは、もしかしてアルト……」
「もう一つ聞きたいことがあるのだけど、いいか?」
ごまかすために、俺は質問を重ねた。
ユスティーナは少し不満そうにしつつも、コクリと頷いてくれる。
それから、質問をどうぞ、というような目を向けてきた。
「えっと、なんていうか……」
ジニーのことについて相談をしたい。
しかし、直接的な内容を口にするわけにはいかない。
例え話を考えるのだけど、うまいこと思い浮かばない。
俺の知り合いの話なのだけど……なんて切り出しても、すぐにバレてしまうだろう。
どうしたものか?
「もしかして、ジニーのこと?」
「えっ」
「もしも違っていたら、ごめんね。ジニーに告白されたことで、あれこれと悩んでいるのかな、って思うんだけど……どう?」
「……」
俺の顔は今、ぽかんと間抜けなものになっているだろう。
「どうして……」
思わずそうつぶやいて、すぐに失言を悟る。
そのようなことを口にしたら、認めたも同然じゃないか。
ここは、なんのことだ? とごまかさなくてはいけないところなのに。
「ふふっ。アルトってば、本当に素直なんだから」
「……たぶん、褒め言葉なのだろうけど、今は辛いな」
意図したことではないとはいえ、よりにもよって、ユスティーナにジニーの告白を暴露してしまった。
俺は、なんてことをしてしまったのだろうか?
自責の念で、どうにかなってしまいそうだ。
「あ、変に自分を責めたりしないでね? アルトの言葉がなくても、ボク、なんとなくわかっていたから」
「そう……なのか?」
「うん。最近、ジニーの様子がちょっとおかしかったし、一歩踏み込んだのかな? って思っていたの。あ、アルトに恋していた、っていうのは、もっと前から気づいていたよ」
「それは初耳だ……どうして、そのことを?」
「見ればわかるよ。だって、同じ人に恋しているんだもん」
にっこりと笑いながら、そんなことを言われてしまう。
当の本人としては、恥ずかしいやらうれしいやら、ものすごく複雑だ。
「アルトは、ジニーに告白されて困っているの? それで、悩んでいるの?」
「困っているわけではない。ただ……どうすればいいか、悩ましいとは思う」
見抜かれているのなら仕方ないと、簡潔に最近の出来事を説明した。
「ほむほむ、なるほどー。ジニーもそうだけど、アレクシアもやるね。側室もアリなんて、なかなか言えることじゃないと思うな。本当に、アルトのことが好きなんだね」
「どうして、俺のことを……」
「そういうものだよ。細かい理由とか、そういうものはないの。好きになったから、好き。ただ、それだけだと思うな」
ユスティーナの言葉はひどくシンプルで、それ故に納得できた。
確かに、俺は難しく考えすぎていたのかもしれないな。
なぜ? とか、どうして? と考えるのではなくて、理由を求める必要はない。
そこに思考を囚われてしまっては、先に進むことができない。
俺がするべきことは、なぜ? と迷うことではなくて、ジニーやアレクシアに対してどう向き合うか? ということを考えることだ。
もちろん、それはそれで難しいことであり、簡単に答えが出ることはないだろう。
それでも、今までと比べて少し楽になったような気がする。
「ありがとう、ユスティーナ」
「んにゃ? ボク、なんでお礼を言われているの?」
当たり前のことを言っているだけ、と思っている彼女は、お礼を言われる理由が思い浮かばないらしい。
ユスティーナらしいところに、少し笑みがこぼれる。
「むぅ、なぜか笑われているし」
「すまない。決して、バカにしているとか、そういうわけじゃないんだ。ただ、ユスティーナは、いつでもどんな時でもらしいな、と思って」
「ふふーん、それがボクの取り柄だからね! ……って、あれ? これ、褒められているのかな?」
小首を傾げるユスティーナを見て、俺の心は晴れていくのだった。
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