209話 ミリフェリア包囲網
「……ちっ」
選手の控え室で待機するミリフェリアは、舌打ちをした。
苛立ちを隠そうともせず、爪を噛んでいる。
すでに第二、第三試合が行われていた。
ミリフェリアがセルアとセリスに指示を出してから、二時間が経過している。
それなのに……
未だ、ジニーもユスティーナも健在だ。
二人は順調に勝ち続けている。
セルアとセリスの姿はない。
未だ、二人を引きずり下ろそうと画策しているのか。
あるいは失敗して、会わせる顔がないと逃げているのか。
どちらにしても腹立たしい。
与えたオーダーをきちんと実行しないなんて、どういうことなのか。
グラスハイム家に仕える者として失格だ。
「捨ててしまおうかしら?」
セルアとセリスは、ミリフェリアが幼い頃から仕えてくれていた。
彼女の無茶難題に何度も応えてきた。
しかし、その功績を評価することはない。
感謝もしない。
使えない駒ならば、いらない。
捨てて、新しいものを手に入れるだけだ。
「どちらにしても、今は大会を優先させないといけませんね」
使えない駒を捨てるのはいつでもできる。
ただ、大会は今しかない。
名声を手に入れて、アルトと結ばれる絶好の機会。
これを利用しない手はない。
「ふふっ。つまらない者の処分は後にいたしましょう。今は、アルトさまに真にふさわしいのが誰か、学院に……いいえ。国中に示しましょう」
ミリフェリアが笑う。
とても幸せそうに笑う。
――――――――――
大会一日目は何事もなく終了。
ミリフェリアは会場を後にして、寮に戻った。
「……いないわね」
もしかしたら、セルアとセリスが戻っているかもしれない。
そう考えて二人の部屋を訪ねたのだけど、誰もいない。
隣部屋の生徒やロビーにいる生徒達に話を聞いてみたものの、やはりというか、誰も二人を見ていないらしい。
はて?
ミリフェリアは首を傾げた。
二人の姿が見えないのはどういうことだろうか?
やはり、与えられたオーダーを実行できず、会わせる顔がないと逃げているのだろうか?
ミリフェリアは二人のことについて考えて、
「……まあ、どうでもいいですね」
すぐに思考を放棄した。
使えないのなら捨てればいい、それだけのこと。
二人がなにをしているのか、なにを考えているのか。
そんなことに興味はない。
……ここで、二人の行動について調べていれば、ミリフェリアは破滅を免れたかもしれない。
しかし、高慢なミリフェリアは他者を気にすることなく、気にかけることもなく、どうでもいいと思考を放棄してしまう。
「さて。明日に備えて、今日は早く寝ましょう」
致命的なミスを犯していることを自覚することなく、ミリフェリアは自室へ向かう。
彼女の計画では、明日、アルトと結ばれる。
そして、国中から祝福されることに。
そんな夢を思い描いていた。
「ふふっ」
ミリフェリアは気分良く、自室へ戻り……
その途中で、おや? と表情を変える。
「お嬢さま、おかえりなさいませ」
「あら? あなたは確か、ウチに仕えている執事ですね」
「はい。ご無沙汰しております」
「どうしたのですか? わざわざ、こんなところにやってくるなんて」
「それが、その……」
グラスハイム家の執事は迷う素振りを見せた後、ゆっくりと言う。
「旦那さまと奥さまが、お嬢さまとお話がしたい……と」
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