208話 どうしてそこまで?
「考えっていうのは?」
「アルトに負担をかけちゃうから、ボクとしては、単純にグラスハイム家を叩き潰しちゃった方が早いと思うんだけど……」
「さすがに、それはやめてくれ」
子の暴走を、ある程度、容認しているのは間違いないと思うが……
だからといって、即座に悪人と定めることは早計だ。
もしかしたら、気が弱いために、暴走する子を止められないのかもしれない。
いつか目を覚ましてくれると信じて、強い行動に出れないだけなのかもしれない。
それに、五大貴族が取り潰されるようなことになれば、社会に大きな混乱が出る。
腐っても五大貴族なのだ。
その影響は大きく、また、国の運営にも大きく関わっている。
いくらなんでも、娘がストーカーをしているというだけで、取り潰すことはできない。
「残念」
ユスティーナは、本気で残念そうだった。
俺のストーカーというところで、内心、かなり頭に来ているのだろう。
その気持ちはうれしいのだけど、過激な行動に出ることは我慢してほしい。
「まあ、アルトがそう言うのなら、ちょっと遠回りするね」
「その方法は?」
「やることは二つ。まずは、ボクがグラスハイム家に圧力をかける」
「それは……」
「大丈夫。潰すとか、そういうことは考えていないから。あくまでも、圧力をかけるだけ」
ユスティーナ曰く……
ミリフェリアではなくて、彼女の両親に圧力をかけるという。
あなたの娘がとんでもないことをしているのだけど、知っているのだろうか?
知っているとしたら、グラスハイム家は、彼女の愚かな行為に加担しているという認識で構わないのか。
知らないとしたら、監督不行き届きではないのか。
そのような感じで圧力をかけて、グラスハイム家に動いてもらう。
アストハイム家の一件もあり、ユスティーナの機嫌を損ねるようなことは、よほどの理由がない限りはしないだろうとのこと。
竜の王女の制裁を避けるために、我が子だろうと、必死になって管理しようとするだろう……との見解だ。
「納得だな。五大貴族ともなれば、権力も大きくなるが、敵も多くなる。子供がなにかやらかして竜に目をつけられるとなれば、かなりの失態だ。それを避けるために、自分達の手で、しっかりとミリフェリアを管理するだろうな」
「うんうん、そういうこと。さすが、アルト。ボクの考えをすぐに理解してくれて、うれしいな」
「長い付き合いだからな」
「えへ、えへへへ。付き合い……うへへ」
妙な想像をしたらしく、ユスティーナがなんともいえない笑顔に。
彼女に好意を抱いている俺でも、その笑顔はどうなのか? と思ってしまう。
「それで、もう一つのやるべきことは?」
「あ、うん。こっちは、アルトにがんばってもらわないといけないんだけど……うーん。本当は、あまり推奨したくないんだよね」
「危険なことなのか?」
「ある意味で」
ユスティーナがそう言うのだから、覚悟しなければいけないのだろう。
ただ、覚悟ならばとっくに済ませている。
「聞かせてくれないか」
「まったく迷わないんだね。でも、それでこそアルトだよ」
ユスティーナはうれしそうな顔をした後、俺がやるべきことを話した。
その内容は、俺が想像していたものとまったく違い……
色々な意味で難易度が高い内容だった。
とはいえ、怯んでいられない。
今更、撤回もしたくない。
難しいかもしれないが、問題なく、そして確実に達成できるようにがんばろう。
ユスティーナに試合で勝つこと。
セルア先輩とセリス先輩の力になること。
今回の大会でやるべきことが増えて、なかなかに忙しくなりそうだ。
「今の話、セルア先輩とセリス先輩は、どう思いました?」
「え?」
「問題ないかどうか、奇譚のない意見を聞かせてもらえれば」
「そうだね……うん、問題はないと思うよ」
「今話していた通りにできたのなら、全部の問題が解決すると思う。私たちは、ミリフェリアに悩まされているのであって、グラスハイム家に仕えること自体は、拒絶していないのだから」
「よかった」
そう言うわりに、二人は微妙な顔をしていた。
幽霊を見たかのような感じで、目を丸くしている。
「どうしたんですか?」
「いや……」
「なんていえばいいのかしら……」
セルア先輩とセリス先輩は、互いに顔を見て……
それから、不思議そうに問いかけてくる。
「どうして、アルトとエルトセルクさんは、そこまでしてくれるんだい?」
「え?」
「僕たちの頼み事は、どう考えても厄介なものだろう?」
「それに、お礼も期待できないわ。ああ、もちろん、なにもしないなんてつもりはないの。できる限りのことはするつもりだけど、それでも、労力と対価は見合わないと思うわ」
それなのに、どうして?
二人は声を揃えて、そんなことを尋ねてきた。
どうして、と問われても困る。
俺としては、普通に行動しているつもりで……こうすることは、当たり前のことだと思う。
それでも、強いて理由を挙げるとするのなら、
「友達だから、です」
先輩なのに友達とか、馴れ馴れしすぎるかもしれないのだけど、これが俺の本心だ。
二人に対して親しみを覚えている。
友達と感じている。
まあ、出会って間もないから、二人にはそう思われていないかもしれないが……
しかし俺の気持ちは変わらない。
「……」
「……」
セルア先輩とセリス先輩は、意表をつかれたらしくぽかんとして、
「ぷっ」
「ふふっ」
やがて、おかしいというように笑い出した。
「まさか、そんな理由でここまでのことをしてくれるなんて」
「なんていうか、さすがに想定外だったわ」
「えっと……やっぱり、おかしいですか?」
「ううん、そんなことはないと思うよ。アルトの行動理念は、とても素晴らしいものだと思う」
「それに、きちんと、私たちもアルトのことを友達だと思っているわ」
その言葉にうれしくなる。
同じ気持ちでいてくれたこと、友達になってくれたこと。
こうして輪が広がっていくことは、とてもうれしく、素敵なことだと思うのだ。
「アルト」
セルア先輩が手を差し出してきた。
それに続いて、セリス先輩も手を差し出してくる。
「ありがとう」
「それと、これからもよろしくね」
「はいっ」
俺は、順に二人と握手を交わすのだった。
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