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206話 助けて

「こんにちは。そういえば、二人も出場しているんでしたね。ブロックはどこですか?」

「……」


 軽い挨拶をするのだけど、反応がない。

 かといって、こちらの話が聞こえていないという様子でもない。


 ただ、挨拶をするためにやってきたわけではなさそうだ。

 大事な話があるように見える。

 俺は、自然と緊張するのだけど……


「あっ、セルアだ。やっほー、元気してた?」


 ユスティーナはなにも気にしていないらしく、気軽に笑顔を振りまいていた。


 豪胆なのか。

 それとも、細かいことはまったく気にしていないのか。

 どちらにしても、彼女の心は鋼のようだ。


 ユスティーナのような心があれば、告白するかどうかで悩むこともないだろう。

 少しうらやましい。

 ついつい、そんなことを考えてしまう。


「アルト、エルトセルクさん。少し話がしたいんだけど、いいかな?」

「とても大事な話なの」

「わかりました。人のいないところがいいですよね?」

「ありがとう、助かるよ」


 二人はほっとした様子だ。

 ひょっとしたら、話を聞いてもらえないかも、と不安に思っていたらしい。


 セルア先輩とセリス先輩と知り合い、日は浅いものの、それなりに仲良くやっているつもりだ。

 それなのに、話を聞かないなんていう選択肢はない。


「えっと……」


 少し考えた後、学院の教室へ移動した。

 外は一般に解放されているが、校舎は解放されていない。


 大会期間中は休日のようなものなので、校舎に入る生徒は少ない。

 密談をするとしたら、教室が一番だろう。


「ここなら誰も来ないと思うし、話を聞かれることはないはずです」


 念には念を入れて、今は使われていない教室を使うことにした。

 鍵がかかっていたものの、セルア先輩がピッキングで扉を開けた。


 どこでそんな技術を身に着けたのか?

 気になるものの……

 たぶん、そういうことを含めた話なのだろう。


「僕からお願いしておいてなんだけど、アルトたちは、試合は大丈夫かな?」

「問題ありません。初戦は終わったので、次は午後になると思うので」

「ボクも問題ないよ」

「なら、よかった。僕たちのせいで、試合を邪魔してしまった、なんてことになったら申しわけないから」

「気にしないでください。今回の試合で色々とやりたいことはありますが……でも、セルア先輩たちが困っているのなら、俺は力になりたいです。試合を放棄することになったとしても、構いません」


 ユスティーナに告白することは、正直、いつでもできる。

 対等な関係であることを証明するにしても、私的に決闘をすればいいだけのこと。

 できることならば、大会という大きな舞台の方がいいという思いはあるが、それにこだわっているわけでもない。


 それよりも、二人のことだ。

 なにかしら問題を抱えているというのなら、力になりたい。

 なにができるか、それはわからないが、全力を尽くしたい。


「ありがとう。そこまで言ってもらえるなんて思っていなかったから……うん、すごくうれしいよ」

「もしもアルトが困っている時、私たちにできることがあれば、なんでも言って。その時は、絶対に力になるわ」

「頼りにさせてもらいます……って、さすがに早いですよ。まずは、お二人が抱えている問題を解決しないと」

「あはは、そうだね」


 セルア先輩が小さく笑い、セリス先輩も若干柔らかい表情に。

 ひとまず、場の雰囲気は和らいだようだ。


「それじゃあ、話を聞かせてもらってもいいですか?」

「うん。実は……」




――――――――――




「なぁにそれぇえええええっ!!!?」


 二人の事情を聞いたところで、ユスティーナが声を荒げた。

 ビリビリとした圧が放たれていて、怒りの対象がこちらでないことがわかっているのだけど、思わず震えてしまいそうになる。


「アルトにそんなストーカー女がいるなんて……ぐるるるるるぅ!!!」


 そう。

 二人の話によると、俺に想いを寄せる女子生徒がいるらしい。


 ミリフェリア・グラスハイム。

 なんと、五大貴族の娘だという。

 セルア先輩とセリス先輩は、そんなグラスハイム家に代々仕えているらしい。


 ミリフェリアはやや思い込みの激しい性格をしており、また、自覚なしに悪意をばら撒く厄介な性格をしているという。

 セドリックなどは、自分が悪いことをしているという自覚はあっただろう。

 しかし、ミリフェリアにはその自覚はなく、周囲を翻弄して厄介事に巻き込み、たくさんの人を泣かせてきたという。


「俺、そんな子に好かれているのか?」

「アルト、浮気?」

「違う。というか、接点らしい接点は思いつかないほどなのだけど」

「あの人は、思い込みがとても激しいんだよ。アルトは、ここ最近で色々と有名になったじゃないか? だから、そんなアルトなら自分にふさわしい、って思っているんじゃないかな」

「ミリフェリアは、理屈で動かないの。理不尽で身勝手極まりない感情で動いているから、常識と照らし合わせても無駄よ」


 俺には女難の相でもあるのだろうか?

 ついついそんなことを考えてしまう。


「そして、お二人は、そんなミリフェリアに無茶難題を押しつけられている……」


 立場上、二人はミリフェリアに逆らうことができない。

 今までずっと、彼女の言いなりになってきたらしい。


 ある意味で俺と似ていた。

 セドリックの言いなりになってきた俺。

 ミリフェリアの言いなりになるしかない、セルア先輩とセリス先輩。

 妙な共感を覚えて、なんとか力になりたいと思う。


「彼女は僕たちに、エルトセルクさんと、もう一人……ジニー・ステイルさんを大会から排除するように命令した。ジニー・ステイルさんは、アルトの友達かな?」

「ええ、そうですね」

「ミリフェリアは、二人を排除すれば、アルトは自分のものになると思い込んでいるみたい。たぶん、排除した上で、なにかしらの策を考えているのだろうけど……」

「でも、僕たちはもうそんなことはしたくないんだ。どうしようもないことばかりを繰り返して、それが、この先もずっと続くなんて考えたら……もう、どうしていいか」

「だから、一か八かの賭けに出ることにしたの」


 セリス先輩が俺を見る。

 セルア先輩が俺を見る。


「ごめん。先輩として情けない限りだけど、自分たちだけじゃあ、打開策がまったく見つからなくて……」

「でも、アルトとエルトセルクさんの力を借りることができるのなら、なんとかなるかもしれない。だから……」


 二人は声を揃えて、同時に頭を下げる。


「「力を貸してください」」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 彼女のわがままを見ない振りでいた教師たち。 以前ユスティーナにあれだけ脅され、更にはそのお姉さんが教師側で目を光らせているというのに、その不正を黙認している。 今回の件が終わったら、人…
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