204話 裏で……
ジニーとアレクシアが側室になります宣言をしている最中のこと。
セルアとセリスは個室に呼び出されていた。
本来ならば、出場者に個室なんてものは用意されない。
ただ、ミリフェリアは別だ。
己の持つ権力を独自のルートを駆使して、個室を用意させた。
そこに特に深い意味はない。
ただ単に、他の選手と同じ部屋で過ごすことがイヤ、というわがままによるものだ。
そんなわがままも、グラスハイム家であるミリフェリアにとっては、簡単に実行できてしまう。
そのような横暴を許してしまう辺り、学院は、貴族の影響力から逃れることはできていない。
ユスティーナが目を光らせて……
さらに、最近になってフレイシアも加わった。
迂闊なことはできないし、後ろめたいことを隠していることもリスクが高い。
もしもバレた時、どうなるか?
学院もわかってはいるが、わかってはいるのだけど、そうそう簡単に甘い汁を吸うことをやめられない。
「二人共、おつかれさま。試合、終えたばかりなのよね? どうだったのかしら?」
「僕もセリスも、もちろん、勝利いたしました」
「よかったわ。もしも、負けるなんてことになっていたら、わたくしの計画が狂ってしまうもの。でも、そんな心配はしていないわ」
ミリフェリアは笑いながら、膝をついて頭を下げるセルアとセリスに信頼の眼差しを送る。
「だって、あなたたちはとても優秀だもの。私の命令に背くような真似、するはずがないわね」
「もちろんです」
「ただ……」
セリスは頭を下げたまま、主の機嫌損ねないように、慎重に言葉を選びつつ問いかける。
「戦術武闘大会に出場すること。それがミリフェリアさまのオーダーですが、それ以上のことは未だ聞いておらず……この先は、どのようにすればいいのでしょうか?」
「あら? 話していなかったかしら?」
「……もしも私の勘違いだとしたら、伏して謝罪いたします」
「んー」
ミリフェリアは顎に指先をあてて、考える仕草をとる。
ややって、あっ、と小さな声をこぼす。
「そういえば、まだ話していなかったわね。いけない、いけない。やっと当日を迎えたものだから、浮かれていたみたい」
セルアとセリスは、表情には出さず、ほっとした。
ミリフェリアはわがままで、横暴で、暴君だ。
記憶違いをしていたとしても、本人がそれを正しいと思いこめば正しくなる。
何度か、彼女の間違いや記憶違いを指摘したことがあったが……
その時は、彼女の機嫌は急降下して、ひどく当たり散らかされたものだ。
「そうね、どこから話したものかしら……うん。やっぱり、目的を話すのが一番ね。というわけで、わたくしの目的なのだけど……アルトさまと結ばれることよ」
「「は?」」
兄妹は、ついつい素で問い返してしまう。
それほどまでに衝撃的な話だった。
「その……アルトさまというのは、アルト・エステニアのことでしょうか?」
「セルア」
ミリフェリアが不機嫌そうに目を細くした。
「あなたごときが、アルトさまを呼び捨てにしないでくれる? 己の分をわきまえなさい」
「……失礼いたしました。ミリフェリアさまは、アルト・エステニアさまとお知り合いなのですか?」
「いいえ。知り合いと言えるほどの仲ではないわ」
「???」
セルアとセリスはますます混乱した。
顔見知りですらないというのに、アルトと結ばれる?
無茶振りとわがままが当たり前で、子供のようで、なにを考えているかわからないところのある主ではあるが……
今まで接してきた中で、一番、意味がわからないことを口にしていた。
とはいえ、口を挟んだり、先を促したりするようなことはできない。
あくまでもグラスハイム家に従う者として、従順な姿勢を見せなければならない。
「そうね……わたくしは、アルトさまのことをお慕いしているの。彼と結ばれたいと思っているわ」
「そう、なのですね」
「アルトさまは、いくつもの勲章を授かり、先の事件でも一番の活躍をした英雄。そんな方とわたくし、ならば、お似合いだと思わない?」
「……はい、その通りかと」
「わたくし、アルトさまを見た時に、体中に電気が走るような感覚を覚えたわ。甘美で、それでいて刺激的で……あぁ、あれは間違いなく一目惚れだったわ。彼の勇ましくも優しい姿に、わたくしの心は射抜かれたの」
なんて厄介な。
セルアは、内心でとても苦い顔をした。
アルトとは出会ったばかりだけど、それなりに親交を深めている。
やや不器用なところが見られるものの、とてもまっすぐな好青年だ。
英雄というミリフェリアの言葉に納得はできる。
ただ、ミリフェリアとお似合いかというと、そんなわけがない、というのが結論になる。
知り合って少しではあるが、セルアは、それなりにアルトの性格を把握しているつもりだ。
とてもまっすぐな性格をしていて、困っている人を見たら手を差し伸べずにはいられない。
今までの功績もあり、英雄と呼ばれるにふさわしい。
ただ、それだけではない。
彼は不器用なところがあり、恋愛面において、特にそれが顕著に現れている。
アルトを慕う者は多いが、未だ誰とも結ばれていない。
噂の竜の王女にストレートに好意をぶつけられ続けているらしいが、それでもまだ、結ばれる気配がない。
失礼なことを言うが……
恋愛面においては、かなり残念なのだ。
ただ、言い換えれば、即決するようなことはせず、深く何度も考える。
それだけ相手のことを考えるという、真摯な面がある……とも言える。
そんなアルトがミリフェリアと結ばれる?
ありえない、とセルアは心の中で断言した。
いくらアルトが恋愛面に疎いとしても、ミリフェリアを選ぶことはない。
アルトの性格を知るからこそ、二人は水と油のように、決して交わらないということがわかるのだ。
それなのに……この主は、いったいなにを言っているのだろうか?
セリスも同じ考えらしく、思わず怪訝な顔をしてしまう。
「どうしたの、二人共?」
「いえ……ミリフェリアさまのお心はわかりましたが、しかし、それと大会がどのように関係するか、理解できず」
「深く考える必要はないの。とても簡単な話よ」
ミリフェリアは優しく笑う。
ただ、その笑みがとても危険なものであることを、セルアとセリスは、今までの付き合いから理解していた。
彼女の心は子供と変わらない。
欲しいものがあれば、なにがなんでも手に入れようとする。
諦めるということを知らず……
手段を選ばないのだ。
「アルトさまに想いを寄せる女は多いわ。でも、みんな、ふさわしくないわ。一番にふさわしいのは、このわたくし……ミリフェリア・グラスハイムよ。そうでしょう?」
「……」
はっきりと肯定することはできず、二人は無言で頷く程度に留めておいた。
それでも気分をよくしたらしく、ミリフェリアは高い声で言う。
「わたくしは寛大なの。アルトさまを想うくらいならば、まあ、そのままにしておいてもよかったのだけど……なにを勘違いしたのか、告白した子がいるらしいの」
「そのようなことが?」
「あの竜の王女もそう。アルトさまはわたくしのものなのに、我が者顔をして、いつもいつもつきまとい……本当に目障りなのよ。ええ、本当に……イライラするわ」
ギリリ、とミリフェリアは奥歯を噛んだ。
「と、いうわけで……あなたたちは、邪魔者を排除してちょうだい」
「排除……といいますと?」
「ジニー・ステイル。そして、竜の王女、ユスティーナ・エルトセルク……どんな手を使ってもいいから、このニ人を大会から引きずりおろしなさい。そうすることで邪魔者はいなくなり、わたくしとアルトさまは結ばれるのよ」
どこをどのように考えれば、そのような結論に達するのか?
セルアとセリスは、主の頭がおかしいのではないかと真剣に考えるが……それはもう今更の話だ。
彼女は歪みきってしまっている。
そして、自分たちは逆らうことはできない。
「かしこまりました」
「ミリフェリアさまの敵を排除します」
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