203話 再びの……
「その様子だと、あたしの試合を見てくれたみたいね?」
「あ、ああ……驚いた。まさか、ジニーも出場していたなんて」
「アルトさま、私も参加しているのですよ」
さらに、アレクシアも姿を見せた。
「え? アレクシアも参加しているのか?」
「はい。正確に言うと、ジニーさんのアシスタントになりますが。試合中のアドバイスから、試合後のメディカルチェックなどなど、後方でジニーさんを援護させていただいています」
「なるほど」
確かに、アシスタントをつけることは、ルール上許可されている。
全ての選手とは言わないが、半数くらいはアシスタントを用意しているらしい。
俺は、自分の力を証明するために出場しているから、アシスタントは用意していない。
ユスティーナが何度も立候補してきたが……それでは意味がないため、断った。
「驚いた。まさか、二人が出場しているなんて。でも、どうして?」
告白の件もあり、気まずくなってしまい、最近はジニーとあまり話をしていないのだけど……
それでも、彼女が戦術武闘大会に興味を持っていたという様子はない。
なかった……はず。
それなのに、急にどうしたのだろうか?
「優勝賞品のペアチケット狙いよ」
「私とジニーさんで山分けをしようと」
「そう、なのか?」
「なんて、それはウソ」
おい。
「本当は……私たちの想いの丈をアルトくんに理解してもらうためよ」
「それはどういう……?」
「私は、アルトくんが好きよ」
「私も、アルトさまが好きです」
再びの告白をされてしまう。
しかも、アレクシアも一緒に。
俺の答えは決まっているのだけど……
ただ、あまりに突然のことに、どう反応していいかわからなくて口を閉じてしまう。
不器用すぎる。
こういうところも訓練していかないといけないな。
そんな俺を見て、二人は苦笑しつつ、話を続ける。
「アルトくんの気持ちはわかっているわ。エルトセルクさんが好き。だから、私たちの想いに答えられない」
「それは……」
その話は、まだアレクシアにしていない。
何度か機会を伺っていたのだけど、話をしようとすると、なぜか避けられてしまい、結局話をすることができなかったのだ。
思えば、俺が話そうとしている内容に気がついていたのかもしれない。
ただ、いざその事実を告げられても、アレクシアは驚いていない。
あらかじめ予期していた様子だ。
「そういうことなら仕方ないわ。アルトくんのことは好きだけど、でも、困らせるつもりはないの。すぐに気持ちの整理をつけることはできないけど……どうにかして自分を納得させて、身を引こうと思っていたの」
「っ……」
反射的に、すまない、と謝りそうになってしまう。
慌てて口を閉じた。
ここで謝るなんてことをして、それは俺のためでしかない。
それに、余計に彼女を傷つけるだけだ。
俺にできることは、目を逸らすことなく、彼女たちの言葉をきちんと受け止めること。
なのだけど……
「ですが、私たちは考えました。本当に、このまま身を引いてもいいのか? ここで諦めることが正解なのか?」
「あたしたちは、アルトくんのことが好き。本当に好き。それなのに、一度、振られたくらいで諦めてしまうのか? その程度の想いなのか?」
「いいえ、そのようなことはありません。私たちのアルトさまに対する想いは、どんなことをしても消せないくらいに燃え上がっているのです」
「だからあたしたちは、諦めないことにしたの」
「それは……」
なんて応えたらいいかわからず、口を開いて、しかしすぐに閉じてしまう。
ジニーとアレクシアに、そこまで想ってもらえるなんて、とてもうれしい。
普通なら、彼女たちの気持ちに応えていただろう。
でも……それはもうできない。
俺は、ユスティーナと出会った。
彼女に心を奪われた。
だから……
「「俺が好きなのはユスティーナだ」」
「っ!?」
突然、俺の台詞を先読みされてしまう。
今まさに、そう口にしようとしていただけに、驚きは大きい。
そんな俺を見て、二人がくすくすと笑う。
「言っちゃなんだけど、アルトくんって、こと恋愛に関しては本当にダメダメよね」
「考えていることが、手に取るようにわかります。なので、台詞を先読みすることも簡単です」
「むぅ」
「って、別に茶化すつもりはないの。不快に感じたら、ごめんね。ただ、あたしたちはこう言いたいだけ」
「エルトセルクさまに心を奪われていたとしても、しかし、それで私たちが諦める理由にはなりません……と」
そういう……ものなのか?
好きな人に別の好きな人がいたら、普通は、諦めるものじゃないか?
それでも諦めないということは……
略奪愛?
もしくは、泥沼の恋愛戦争?
物語で読んだ、ドロドロの展開を連想するが、二人はそれを否定するように笑う。
とても爽やかな笑顔で、争いを好んだり、望んでいるようにはとてもじゃないけれど見えない。
「大丈夫。別に、泥沼展開を望んでいるわけじゃないから」
「どうしてそれを……?」
「だから、アルトくんはわかりやすいんだって」
「私たちは、私たちになりにアルトさまのことを理解しています。好きな方のことは、乙女はたくさん知っているものなのですよ?」
「えっと……待ってくれ。ようするに、二人はどうするつもりなんだ?」
俺のことを諦めないと言っているように聞こえるが……
しかし、話を聞く限り、ユスティーナと争うつもりはないように見える。
争うことなく、己の恋心を成就させる。
そんなことが可能なのだろうか?
不可能に思えるが……いったい、なにを考えているのだろう?
「あたしたちが考えていることは、わりと単純よ。ズバリ……」
「私たちを、アルトさまの側室に入れてもらうこと……です!」
「……側室?」
たぶん、今の俺はぽかんと間抜けな顔をしているだろう。
そうなってしまうくらいに、二人の話が理解できなかった。
「アルトさまは、ご存知ありませんか? アルモートでは、一夫多妻が認められているのですよ?」
「その血を多く残した方がいいと判断される、一部の貴族や権力者、英雄などに適用されるものだけど……でも、アルトくんなら問題ないわよね」
「はい。なにしろ、まだ学生の身でありながら、数々の勲章を授かり、国王陛下に内密の話をされるほど。一夫多妻制を申請したとしても、問題なく受理されるでしょう」
「……どこでその話を?」
国王陛下と話をしたことは、それなりの秘密なのだが。
「ふふっ、私は、これでも五大貴族の娘なのですよ? それくらいの情報、いくらでも入手することができます」
恐ろしい。
「でも、俺は……」
「わかってる。アルトくんはそれを望んでいないし、たぶん、エルトセルクさんも望まない。だから、これはあたしたちのわがまま。わがままなんだけど……」
「ですが、押し通らせてもらいます。だって……やっぱり、アルトさまのことを諦めるなんて、到底、できそうにありませんから」
ジニーとアレクシアは、じっとこちらを見つめて、
「これは、あたしたちからの宣戦布告」
「必ず、側室に加えていただきますからね」
そんなことを言うのだった。
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