201話 一回戦
1時間後……講堂で大会の開催が宣言された。
先の事件もあり、テロが起きるのでは? という懸念もあったけれど、そのようなことはなくて、無事に終了する。
さすがに、短期間で二度もテロを起こされたりしたら、騎士の面目は丸つぶれで、国としての信用も失ってしまう。
徹底的な対策が行われたのだろう。
そして、舞台は闘技場となる、屋内訓練場へ。
中央に大きなリング。
その周囲を囲むように、観客席が広がっている。
俺は今、そのリングの上に立っていた。
大会初日。
最初の一回戦。
その試合に、俺は出場することに。
基本的に、対戦の組み合わせはくじで選ばれるのだけど……
初日の一回戦は、俺が出場することが決まっていた。
大事な大会の、大事な初戦。
しっかりと盛り上げたいということで、初戦に出てほしいというオファーを学院側から受けた。
もちろん、対戦相手はくじで決められる。
判定は公平で、誰かの意図が組み込まれることはない。
俺でいいのだろうか? という疑問はあるが……
ただ、大会を盛り上げる役に選ばれたことは、素直に喜びたいと思う。
あまり実感はないのだけど、それなりの力がついてきたという証拠。
周囲の評価も改善されている。
俺が憧れている英雄に一歩、近づいているのだろう。
「よし」
それなりの自信を胸に、舞台に立つ。
ほどなくして、対戦相手がリングに登る。
大きな体に、大きなハルバードを手にしている。
訓練用のものなので刃は落とされているが、それでも、重厚感を覚えるほどだ。
「俺は、三年のレイズだ」
「一年、アルト・エステニアです」
「ほう……お前が、エステニアか。竜の王女に認められた力、いつか、手合わせしたいと思っていたところだ。俺は、運が良いらしいな」
レイズ先輩は不敵に笑い、ハルバードを構えた。
手強いな。
圧を感じた俺は、決して油断することなく、己の心を引き締めて、訓練用の槍を構えた。
互いに睨み合い……
「第一試合……始め!」
審判の合図と共に、俺とレイズ先輩は、同時に地面を蹴る。
そんな俺たちを包み込むように、観客の盛大な歓声が響いた。
まずは様子見だ。
槍を右から左に払い、牽制の一撃を叩き込む。
さて、レイズ先輩はどう出る?
防御するか、あるいは回避するか。
まずは、相手の戦術の分析を試みるのだけど……
「おおおぉっ!」
「っ!?」
こちらの攻撃を気にすることなく、レイズ先輩は突撃してきた。
ハルバードを豪快に振り回して、カウンターを叩き込んでくる。
カウンターといっても、こちらの攻撃は確実にヒットしているから、捨て身のような一撃なのだけど……
こちらは、牽制の一撃。
レイズ先輩は、渾身の一撃。
どちらのダメージが大きいか、考えるまでもない。
「ぐっ」
かろうじて直撃は避けたものの、脇腹の辺りをかすめる。
それだけでも、かなりの衝撃が響いた。
思わず顔をしかめてしまいそうになるが、気合で我慢。
ダメージを受けたという弱味を見せたくないため、何事もないフリをしつつ、一度、距離を取る。
レイズ先輩は追撃をしかけてこないで、こちらの様子をうかがっている。
調子に乗り、簡単に追撃をしてきたのならば、今度はこちらが手痛いカウンターを繰り出してやろうと思っていたのだが……
さすがに、そんな簡単にはいかないらしい。
まいったな。
一回戦から、これだけの相手と戦うことになるなんて、想定外だ。
レイズ先輩が特別なのか、あるいは、これが当たり前なのか。
ユスティーナの対策ばかり考えていたのだけど、失敗だったかもしれない。
他にもたくさんの強敵がいる。
ユスティーナ以外なら、よほど運が悪くない限り、なんとかなるだろうと考えていたのだけど……
少し自惚れていたのかもしれないな。
「よし」
気を引き締め直した。
槍をしっかりと握り、レイズ先輩をまっすぐに見る。
今は、後のことは考えない。
全力で、レイズ先輩を倒すことだけを考える。
「ふっ」
「む!?」
大きく踏み込むと同時に、突きを放つ。
レイズ先輩は、ハルバードを盾のようにして防いだ。
しかし、甘い。
すぐに槍を引き戻して、再び突きを放つ。
それの繰り返して、三連撃。
「ぐぅ!?」
一撃目と二撃目は防がれてしまうが、三撃目が右肩を捉えた。
防具の上からなので、大きなダメージではないだろう。
それでも、レイズ先輩の動きを封じるのには十分。
ハルバードが振るわれるものの、その動きは目に見えて鈍くなっている。
上体を傾けることで避けて、さらに懐に潜り込み……
「はぁっ!!!」
ゼロ距離での刺突。
レイズ先輩は避けることも防ぐこともできず、まともに俺の攻撃を受けた。
ビシリ、とレイズ先輩の鎧にヒビが入る。
頑丈に作られているはずの訓練用の鎧にヒビが入るということは、それだけの衝撃が伝わったということ。
レイズ先輩は、それだけの衝撃に耐えることができず、ぐらりとよろめいて……
しかし、最後の意地なのか、ハルバードを杖のようにして、なんとか膝をつくだけに留めた。
「……俺の負けだ」
審判がカウントを始めるが、その途中で、レイズ先輩がハルバードを床に置いた。
「勝者、アルト・エステニア!」
審判が俺の勝利を告げて……
観客たちは、今までで一番の歓声を響かせた。
「良い試合だった。またやろう」
「はい」
歓声と拍手に包まれる中、俺とレイズ先輩はしっかりと握手を交わすのだった。
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