200話 戦術武闘大会、開催
戦術武闘大会は、3日間に渡って開催される。
力を競う大会ではあるものの、お祭り的な要素も含まれているらしい。
基本的に、学院は部外者の立ち入りは禁止だ。
しかし、この3日間は入場が可能となり、大会の観戦ができる。
生徒の武を示すことで、学院の存在意義を多くの人に知ってもらう、という目的があるらしい。
ただ単に、外からの客を受け入れるだけではなくて、大会期間限定で屋台を出すことも許可されている。
生徒たちによる屋台の運営も許可されている。
なので、一種のお祭りだ。
力を試したい生徒は大会に出場して……
そうでない生徒は、運営スタッフとして参加したり、あるいは屋台を出す。
そんな内容となっているために、戦術武闘大会は、王都では広く知られたものとなり、たくさんの人が来場する。
そう聞いていたのだけど……
「これは……すごいな」
朝。
登校すると、たくさんの生徒があちらこちらを行き交っていた。
まだそこそこ暑いのだけど、汗が流れるのも構わず、屋台運営の準備らしきものをしている。
それは生徒だけではなくて、外からの参加者らしき大人も見えた。
慣れた様子で屋台を組み立てて、食材を搬入する。
大きな声で連絡を取り合い、大会が開催される数時間前だというのに、本番かと勘違いするほどに熱気に満ち溢れていた。
「これ、ホントに武術大会なのかな? お祭りって言う方が適当だよね?」
隣のユスティーナが、そんなことを言う。
俺も同じことを思っていたため、頷いた。
「って……ノルンは?」
「え?」
二人揃って、目を丸くした。
一緒に登校しているはずのノルンがいない。
「……あうー」
人波に飲み込まれて、ノルンが流されていくのが見えた。
「「ノルンっ!?」」
俺とユスティーナは、慌てて追いかけて、ノルンを掴まえた。
「あぅううう」
怖かったらしく、ノルンがひしっとしがみついてきた。
落ち着かせるために、その頭を撫でてやると、
「むぅ……」
ユスティーナが、少しだけではあるがおもしろくなさそうな顔をする。
妬いているのかもしれないが、今は勘弁してほしい。
ただ、そんな彼女の気持ちもうれしいと思う辺り、俺は、とことん心を奪われているのだろう。
「早くグランとテオドールと合流しないといけないな」
二人は大会に出場しないし、屋台などを運営することもない。
なので、ノルンを預かってもらう予定だ。
ただ、これだけの人混み。
学院の入り口で、と待ち合わせの約束をしていたものの、どうやって見つければいいものか。
「よぅ、お二人さん」
「すまないね。この人混みだから、遅くなってしまったよ」
「グラン、テオドール」
どこからともなく、二人が現れた。
無事にこちらを見つけることができたらしいが、いったい、どうやって?
そのことを尋ねてみると、
「二人はとても目立つからな」
なんて答えを返された。
ユスティーナやノルンはともかく、俺は目立つことはないと思うが。
まあ、無事に合流できたのだから、よしとしておこう。
「じゃあ、ノルンを頼む」
「おう、任せておけ」
「さあ、僕たちと一緒に行こうではないか」
「あうー」
やだ、という感じで、ノルンが俺に抱きついた。
「今日は色々な屋台が出ているからね。後で、色々な食べ物をごちそうするよ」
「あう!」
ノルンは目をキラキラとさせて、テオドールのところへ。
「……」
元々、二人に預ける予定だったため、これはこれで問題ないのだけど……
なんというか、釈然としない。
俺は食べ物に負けたのだろうか?
「アルト」
ぽん、とユスティーナに肩を叩かれる。
「子供は、食欲を一番にしちゃうものなんだよ」
「むう」
ユスティーナが言うと、謎の説得力があった。
「まあいいか。二人共、ノルンを頼む」
「おう、任せておけ」
「彼女も立派なレディだからね。男として、しっかりとエスコートさせてもらおう」
「あうっ」
レディ扱いされてご機嫌らしく、ノルンが笑顔で頷いた。
こういうところを見ると、テオドールはさすがだと思う。
女性の扱いに、良い意味で慣れていて、決して不快感を与えることはない。
ユスティーナに対する告白がうまくいったとして……
しかし、そこで終わりではない。
むしろ、そこからがスタート。
関係が壊れないように、色々なことをがんばらないといけないだろう。
そんなことは、可能だろうか?
俺は鈍いところがあるし、恋愛も疎い。
うまくできるかどうかと問われると、首を傾げてしまうところがあり……
「……って、今から弱気でどうする」
自分を叱咤した。
まずは、ユスティーナに勝利して、告白を成功させる。
そして、ずっと一緒にいる。
それくらいの意気込みでいないとダメだ。
「どうしたの、アルト?」
「いや、大したことじゃないが……そうだな。ユスティーナ」
「うん、なーに?」
「俺、絶対に負けないから」
「むむっ? 突然の宣戦布告……アルト、やる気だね?」
ユスティーナは、驚いたように目を丸くして……
次いで、不敵な笑みを浮かべた。
「でもでも、ボクも負けないからね? アルトのことは大好きで、愛してて、なんでもしてあげたいけど、えへへ……でもでも、真剣勝負って言ったからね。全力でいくよ!」
「ああ、俺も負けない」
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