20話 忍び寄る悪意
放課後。
寮の部屋に戻り、鞄などを置いて……
「ふう」
吐息を一つ、こぼした。
嫌なことがあったわけではなくて、疲れているだけだ。
というのも、先日から再び竜の枷をつけているからだ。
しかも、前回とは違い、今回は重力3倍だ。
単純計算で今までの倍の負担が体にかかっている。
2倍に慣れてしまったので、さらなる成長を求めて3倍にしたが……
これはきついな。
2倍の時よりも疲労が溜まりやすくなっているような気がした。
「アルト、大丈夫?」
ユスティーナが心配そうに言う。
「ああ、大丈夫……とは簡単に言えないが、がんばってみようと思う」
「うんうん、さすが男の子! ボクにできることがあれば、なんでも協力するからね」
「ありがとう」
ふと思う。
俺とユスティーナは同い年のはずなのに、なぜ、ユスティーナは年上っぽく振る舞うのだろうか?
そういう年頃なのだろうか?
ただ、妙な包容力というか母性のようなものを感じるから、真正面から否定することができない。
むしろ、ユスティーナはそうあるべきと思ってしまうというか……
いかん。
ちょっと混乱してきたぞ。
同い年なのに、年上っぽいところがあるユスティーナ。
いったい、なにが影響してこうなっているのか?
「うん?」
コンコンと、寮の部屋の扉をノックする音が響いた。
はいと返事をしてから入り口に向かい、扉を開ける。
「よぉ」
「やっほー」
グランとジニーだった。
一度部屋に戻り着替えたらしく、二人共私服姿だった。
「どうしたんだ、二人共?」
「あっ、ボク、わかったよ。兄妹で仲良くデートだね!」
「「ちがう!!」」
さすが双子、息がぴったりだ。
「アルトとエルトセルクさんは、今、ヒマか?」
「もしよかったら、遊びに行かない?」
「……」
「アルト、どうしたの?」
「いや……まさか、友達に遊びに誘われるなんてイベントを経験することになるなんて。そういうの、完全に諦めていたからな……」
「うぅ……アルト、かわいそう! 大丈夫だよ! ボクがいるからね、ボクはアルトとずっと一緒だからね!」
「ふぐっ!?」
妙なところを刺激したらしく、ユスティーナに抱きしめられた。
胸が……!
ささやかだけど、ハッキリとした膨らみと柔らかさが……!?
「あっ、ごめんね、アルト。苦しかった?」
「い、いや……大丈夫だ」
ユスティーナに解放された俺は、顔が赤くなっていた。
酸欠なのか別の要因なのか……追求はしないでほしい。
見ると、グランとジニーはニヤニヤと笑っていた。
二人にはお見通しらしい。
くっ……これは恥ずかしいな。
「それで、どうなんだ? 特に予定がないなら遊びに行かないか?」
「せっかくだから、一緒させてもらうか」
「そうこないとな! エルトセルクさんも来るよな?」
「あ、うん。アルトが行くなら、ボクも一緒に行くよ」
「それじゃあ、準備をするからちょっとまっててくれ」
一度、扉を閉めた。
私服を手に取り、キッチンへ移動する。
ユスティーナと同じ場所で着替えるわけにはいかないから、いつもここで着替えている。
「ねえねえ、アルト」
「うん?」
「大丈夫? 枷があるから、辛いんじゃないの?」
「確かに体は重いが……遊ぶくらいなら問題ないと思う。ありがとな、心配してくれて」
「そっか。アルトは強いね。さすが、ボクが好きになった人だよ」
ユスティーナはいつものように好意をストレートにぶつけてきて……
俺はそれに照れてしまうのであった。
――――――――――
学院では、学生に小遣いが与えられる。
竜騎士としての力を身につけるだけではなくて、自立心を養うため、という教育方針なのだ。
「おまたせ」
「ボクたち、準備バッチリだよ!」
私服に着替えた後、財布を手にグランとジニーと合流した。
私服姿のユスティーナを見て、グランがだらしない顔になる。
「おぉ……エルトセルクさんの私服って、すごくかわいいな」
「ありがと。でも……」
ユスティーナが、意味ありげな目でこちらを見る。
「そのセリフ、誰かの口からも聞きたいな?」
「アルト君」
ジニーに促されるまでもなく、ユスティーナが求めるところは理解していた。
しているが、いざ実行に移すとなると妙に恥ずかしい。
ただ、がっかりさせるようなことはしたくない。
「……俺も、ユスティーナの私服はいいと思う」
「ホント!?」
「ウソなんて言わない。なんだ、その……かわいい」
「やった! えへへっ、アルトにかわいいって言われちゃった。ボク、すごくうれしいかも」
俺の言葉一つで笑顔になってくれる。
俺にはもったいない女の子だなあ、なんてことを思う。
もっとも、そんなことを思うのはともかく、口にするのはさすがに失礼なので心に秘めておくが。
「うしっ。じゃ、行くか」
グランが先導する形で、俺たちは街に出た。
住宅街を抜けて、色々な商店が並ぶ通りに移動した。
「今回の目的は?」
「ん? 特にねえぞ」
「そうなのか?」
「特に目的地は決めず、ふらふらと食べ歩きをする。これぞ放課後の正しい過ごし方ってものさ」
そういうものなのだろうか?
微妙な感じがするが、俺には、この学院で友達がいたことがないからわからない。
「っと」
歩いていると、商人らしき男の人がぶつかってきた。
「あっ、すまん! 悪いな、兄ちゃん」
「いえ、大したことないので気にせず」
特に悪気はないみたいなので、軽く流しておく。
「ホントに悪いな。妙な連中に絡まれて、逃げてたから前を見てなかったんだ」
「妙な連中?」
「なんか、黒づくめでうさんくさい連中でな。外で絡まれたんだが、なんか、竜を排除しろとか狂ったことを言ってて……怖くなって逃げたんだよ」
「そうですか。いざとなれば、騎士に通報するといいですよ」
「おう、そうさせてもらうぜ。心配してくれてありがとな」
商人らしき男の人と手を振って別れる。
気になる話だった。
黒づくめで、竜を排除しろと言う……どこかで聞いたことがある話だった。
「ねえねえ!」
ユスティーナに呼びかけられて、思考が霧散してしまう。
「アルト、アルト! はいっ、これ」
ユスティーナがアイスを差し出してきた。
俺とグランが話をしている間に買っていたらしい。
でも、なぜそれを俺に差し出す?
「これ、すごくおいしいよ! アルトにも一口あげるね」
「いいのか?」
「うん! おいしいものは好きな人と共有したいんだ」
ちょくちょく好きと言われるが、やはりアピールしているのだろうか?
そんなことを考えながら、アイスを一口もらう。
「うん、うまいな」
「だよね、だよね? アルトも買おう。それで、一口ずつ交換しよう」
「それもいいかもな」
「俺たちもやるか?」
「けっ」
「ひどくねえ!? お前、妹だろ。兄を敬え」
「グランを敬うなんて、世界の終わりが来てもありえないわ」
「やっぱりひどくねえ!?」
「あははっ」
双子のやりとりを見て、ユスティーナが楽しそうに笑っていた。
俺も、声はあげないものの笑っていた。
楽しい。
こんな気分になったのは久しぶりかもしれない。
ユスティーナが傍にいてくれると、それはそれで癒やされるのだけど……
友達っていう感覚がないから、こんなに軽い気分になることはなかった。
できることならば、これからもずっと……
そんな思いを抱くのだけど、夢というものは長続きしない。
仮に夢が続いたとしても……
それは、いつ悪夢に切り替わるかわからない。
「やあ、エステニアじゃありませんか」
にこにこと……気味が悪いほどの笑顔を浮かべて俺の前に現れたのは、ジャス・ラクスティンだった。
セドリックの取り巻きの一人で……
俺をいじめていた相手。
もう二度と会いたくないと思っていた相手。
……過去の亡霊のように、ジャスの悪意がつきまとってくるのだった。
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