189話 双子の兄妹先輩
「え? 一緒に訓練を?」
こちらの言葉に、セルア先輩は驚いたような顔に。
俺、そんなに驚くようなことを言っただろうか?
「それは願ったり叶ったりだけど、いいのかな? 邪魔にならない?」
「邪魔なんて、そんなことありません。むしろ、一緒に訓練をしてもらえる方がありがたいです」
一人で訓練をしていても、あまり捗らない。
身体能力向上のための訓練ならともかく、俺が磨きたいのは、対人戦の戦闘技術だ。
誰かに相手になってもらった方が、何倍もいい。
「ああ。もちろん、先輩方が迷惑でなければ、ですが」
「迷惑なんて、そんなことはないよ。ねえ、セリス」
「そうね。こちらも一緒に訓練する相手が欲しいと思っていたところだから、むしろ、こちらからお願いしたいわ」
「お願いします」
二人の先輩と握手を交わして、一緒に訓練をすることに。
セルア先輩は、背負っていた大きなカバンを地面に置いた。
中から、長い棒を四本、取り出す。
なんだろう?
と不思議に思い見ていると、四つの棒を取り出した。
棒の端には接続具のようなものが。
セルア先輩は、慣れた様子で四つの棒を連結させて、一本の長大な棒に変化させる。
「それはなんですか?」
「これが、僕の武器なんだ」
「棒が……?」
刃が仕込んであるようには見えない。
頑丈そうではあるが、それ以外は特になんてことのない、普通の棒だ。
「あはは、やっぱり棒術は知らないか」
「セルアの棒術はマイナーだもの」
「うっ……わかっていたことだけど、実際に直面すると寂しいかも」
「棒術?」
棒を使って戦うということなのか?
聞いたことがない戦術だ。
それだけに、一度手合わせしたい、という気持ちが湧いてくる。
「セリス先輩は、どんな武器を使うんですか?」
セリス先輩はなにも用意することなく、その場に立ったまま。
「私はコレよ」
そう言い、セリス先輩は拳を構えた。
しかし、その手に武器は見当たらない。
ということは、もしかして……
「素手、ということですか?」
「ええ」
格闘術、ということか。
こちらは学院の授業にも組み込まれているため、さすがに知っている。
壊れたり弾き飛ばされたり、なにかしらのトラブルで武器を損失することは少なからず起きる。
武器を失い、もう戦うことができない……なんてお粗末な事態を避けるために、素手でも戦うことができる、格闘術が講義に組み込まれている。
ただ、そこまで本格的なものではない。
あくまでも次の武器を得るまでの一時しのぎで、格闘術をメインにする人はいない。
ゼロというわけじゃないが、生徒講師を含めて、今までに会ったことがないのも事実。
それくらいに、マイナーな戦術だ。
「なんていうか……セルア先輩もセリス先輩も、珍しい戦い方をするんですね」
「あはは、よく言われるよ」
「アルトは、どんな武器を使うのかしら?」
「俺は、オーソドックスに槍ですよ」
「なるほど」
じーっと、セリス先輩に見つめられる。
「えっと?」
「もしかしてあなた、あのアルト・エステニア?」
「え? あ、はい。そう自己紹介しましたよね?」
「ごめんなさい。さらりと流していたのだけど、よく考えたら、かなりの有名人なのね」
「セリス、どういうことだい?」
「セルアも聞いたことはあるでしょう? 竜の王女さまのパートナー。そして、いくつもの勲章を授かっている、あの、アルト・エステニアよ」
「えっと……ご、ごめん。僕、そういう話は詳しくなくて」
「まったく。我が兄ながら、世間に疎すぎて心配になるわ」
セリス先輩はため息を一つ。
それからこちらを見て、申しわけなさそうな顔に。
「ごめんなさい。気づくのに遅れていたとはいえ、雑な扱いをしてしまって」
「いえ、そんな。謝るようなことではありませんから」
「そう? アルモートの若き英雄に対して、失礼だと思うのだけど」
「なんですか、それ?」
「あなた、そう呼ばれているのよ?」
初耳だ。
「上級生どころか、教師たちも敬っているという話ね」
「えっと……先輩方は気にしないでいただけると。俺は、そんな大した人じゃありませんから」
「謙虚なのね」
「増長するよりはマシかと」
「ふふっ、そうね。あなたのこと、気に入ったわ」
セリス先輩が小さく笑う。
その笑顔はとても綺麗で、思わず見惚れてしまうほどだ。
あまり表情を変えないこともあり、笑顔の破壊力は抜群。
「ところで、俺も今更なんですが……二人は兄妹なんですか? さきほど、セルア先輩のことを兄、と」
名字が同じだった時点で察しろよ、という話なのだけど、俺もついつい聞き流してしまった。
「ええ、そうよ。私が妹で」
「一応、僕が兄になるんだ」
「双子……なんですよね?」
「うん、そうだね。双子は珍しい?」
「そうですね……友達にも双子がいるんですけど、でも、外見はぜんぜん違うので。先輩方のように、外見もそっくりな双子は、あまり見たことがありません。あ、失礼な話でしたね」
「ううん、気にしていないから。それと、褒め言葉だと思っているから、そう言ってもらえることはうれしいよ」
「褒め言葉、ですか?」
「うん、まあ。色々とあってね」
セルア先輩は軽く視線を逸らして、言葉を濁してしまう。
あまり触れられたくない部分なのだろう。
深く追求するようなことはしないで、俺も訓練の準備をする。
槍の矛先に布を巻いて、衝撃を分散させるようにした。
元々、訓練用の槍なので刃は落とされている。
しかし、訓練のために重さは通常の倍以上にしている。
それにユスティーナの特訓のおかげもあり、俺の身体能力はそこそこのものだ。
刃を落としていても怪我をさせてしまうことがあるため、最近では念の為に、こうしてさらにガードをすることにしていた。
「よし、おまたせ」
「私も準備完了よ」
セルア先輩は長い棒を手にして、セリス先輩はその場で軽くステップを踏む。
「せっかくだから、三人同時に戦ってみない」
「と、いうと?」
「乱戦よ。あまりない経験だけに、得られるものは大きいと思うの。それに、一人一人、相手の実力を確かめていたら、待つ方はとてもヒマよ」
「まったく、セリスはせっかちなんだから」
「あら。噂に名高いアルトの実力を早く知りたいと思うのは、自然でしょう? セルアだってそう思っているくせに」
「まあ、それは」
セルア先輩は否定しない。
図星らしい。
「なら、乱戦といきましょうか」
「話が早くて助かるわ」
セリス先輩が不敵に笑い、セルア先輩は棒を構えた。
俺も槍を構えて……三人、同時に地面を蹴る。
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