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187話 私も

「え? ククルも参加するの?」

「はい。自分の力を試す、良いチャンスだと思うのであります」

「んー?」


 ユスティーナは小首を傾げる。


 確かに、ククルは常に鍛錬を積み、修行を忘れない生真面目な性格をしている。

 大会に興味を持ってもおかしくはない。


 ただ、聖騎士という立場をわきまえている。

 必要以上に目立つことはしないし、その力をひけらかすこともしない。

 それなのに、なぜ大会に?


「……」

「ど、どうしたのでありますか?」


 ユスティーナにジト目を向けられて、ククルが焦る。

 構うことなく、ユスティーナはそのまま、じーっと見つめる。

 見つめ続ける。


「うっ」

「じー……」

「うううぅ」

「じー……」


 耐えかねた様子で、ククルが目を逸らす。

 やましいことを考えています、と告白したようなものだ。


「もしかして、なんだけど」

「な、なんでしょうか」

「ククルも、旅行ペアチケットを狙っている」

「っ!?」

「アルトと一緒に行きたいな、とか考えている?」

「そっ、そそそ、そんなことはあり、ありま、ありませんでありますですです!?」


 どこからどう見ても図星だった。

 ククルはその性格故に、隠し事ができない。

 ものすごく苦手なのだ。


「やっぱり」

「うっ……」


 ククルはあちらこちらに視線を泳がせた。

 妙な汗をたくさんかいた。

 なにか言おうとして、しかし口を閉じるという行為を繰り返した。


 ややあって……


「……も、申しわけないのであります」


 犯行を自供する犯人のように、がっくりとうなだれた。


「エルトセルク殿や、まだ見ぬ強者と戦うことで、いい鍛錬になると思ったというのもあるのですが……そういうったことを考えなかったというと、ウソになります」

「やっぱり」

「うぅ、申しわけないのであります。なぜかわからないのですが、アルト殿と一緒に行ったら楽しそうだな、と思ってしまい、つい」

「なぜかわからない?」


 ククルの台詞がわからないという様子で、ユスティーナは再び小首を傾げた。

 そんな彼女に、ククルはしどろもどろにではあるが、自分の素直な気持ちを口にする。


「いえ、なんというか……アルト殿と一緒にいると、楽しいと思うようになりました。いえ、楽しいだけではなくて、温かい、というのでしょうか。そのような気持ちになるのです」

「あー……」

「だから、つい、このようなことを考えてしまったのだと思います」

「……またライバルが増えた」


 ククルは己の心をさっぱり理解していないが、ユスティーナはすぐに察した。

 あぁ、惚れているのだな……と。


 同じ人を想うのであれば、すぐに気づく。

 だってククルの反応は、鏡で自分を見ているようなものなのだから。


「うぅ、申しわけありません。聖騎士とあろうものが、個人の感情を優先させて、深い考えを持たず大会に参加しようとするなんて。反省すべきことです。今の言葉は、どうか忘れていただけると……」

「いいんじゃないかな」

「え?」


 ユスティーナがあっさりと言い、ククルが目を丸くする。


「今、なんて?」

「だから、ククルが大会に参加してもいいんじゃない?」

「し、しかし自分は、欲を優先させるという愚かなことを……」

「それが悪いなんてこと、ないと思うよ。それを言うなら、ボクだって、アルトと旅行に行きたいから参加するわけだし、悪いってことになっちゃうよ」

「それは、しかし……」

「ククルは深く考えすぎ。国を左右するような大きな大会ならともかく、学院の一行事なんだから。気楽に参加すればいいと思うよ」

「えっと……エルトセルク殿は、それでいいのでありますか?」

「……うん、もちろん」


 軽い間を挟むものの、ユスティーナはにっこりと頷いた。


 本音を言うのならばモヤモヤする。

 ライバルが増えたことで悩み、できることなら、事前に排除しておきたい。


 しかし、それはずるいことではないか?

 いくらアルトに振り向いてほしいとはいえ、卑怯なことをしてはいけない。

 そんなことをしたら、彼と付き合う資格なんてない。

 なぜなら、アルトはとてもまっすぐなのだから。


 あと単純に、ククルの気持ちを自分のことのように思うため、ひどいことはできない……という理由がある。

 ククルも、同じ人に恋をする乙女なのだ。

 そんな彼女を追い落とすなんてことをすれば、自分を貶めるも同じ。

 誇り高い竜としては、そんな真似は絶対にできない。


「でも、ボクは負けるつもりなんて、これっぽっちもないからね」

「じ、自分も、やるからには優勝を狙うのであります!」

「一回戦でぶつかるか、決勝戦でぶつかるか。それはわからないけど……」

「全力でやるのであります!」


 二人は不敵な笑みを浮かべて、互いの健闘を祈るかのように、しっかりと握手を交わした。




――――――――――




「……聞きましたか?」

「……ええ、聞いたわ」


 ユスティーナとククルを離れたところから見る影が二つ。

 アレクシアとジニーだ。


 とあることを話し合うため、二人は学食を訪れていたのだけど……

 たまたま、ユスティーナとククルの話を耳にすることになり、そして戦術武闘大会のことを知る。


「優勝賞品は、旅行ペアチケット」

「二人きりの旅行……とても大きなチャンスですね」


 二人の乙女は燃えていた。

 好きな人が、別の女の子を好きになった。

 その事実に、一時は落ち込んだものの……

 それで簡単に諦められるようなら、それは恋じゃない。

 好きな人が振り向いてくれなかったとしても、それでもなお好きという気持ちが消えないから、恋というのだ。


 正妻になることは、もう諦めた。

 アルトが今更、ユスティーナ以外の女性に振り向くとは思えない。

 彼は、とても一途だろう。


 だから今度は、側室になるためにがんばることにした。

 一番になれないことは残念ではあるが、この際、二番でも三番でもいい。

 多少でも振り向いてくれるのなら、それで満足できる。


 アレクシアとジニーは、色々とアプローチをしかけていくつもりだ。

 その作戦の一つとして……


「旅行ペアチケット、絶対に手に入れないと!」

「はい、がんばりましょう!」


 今ここに、乙女の同盟が締結された。

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別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
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