185話 対等になりたいから
罠を用意することなく、真正面からユスティーナにぶつかる。
そんな俺の言葉に、グランとテオドールはキョトンとする。
「「いやいやいや」」
ややあって、ものすごい勢いで首を横に振り、そんなことはありえないと否定された。
「エルトセルクさんに真正面からぶつかるとか、ありえないだろ。こう言っちゃなんだが、正気か?」
「言葉は悪いが、僕もグランと同じ気持ちだね。罠を用意することなく彼女とぶつかれば、勝てる要素はない。ゼロパーセントだ。逆に的確な罠を用意できれば、多少は可能性があると思う」
「まあ……そう言われると思っていたよ」
予想通りの反応だ。
ただ、彼らがおかしいわけじゃない。
俺がおかしいのだ。
戦術武闘大会で、俺とユスティーナが激突した時。
彼女が本気を出してくれるかどうか、それはわからないが……
仮に本気を出したとしたら、先にも言ったが、俺は10秒と保たないだろう。
半分くらいの力だとしても、1分保つかどうか怪しい、というところだ。
だからこそ、罠を用意しなければいけない。
1パーセントでも勝率を上げるために、なんでもしなければいけない。
それなのに、俺はなにもしないと言う。
真正面からぶつかるという。
頭がおかしくなった、と思われても仕方ないだろう。
「そんな無茶無謀を考えてどうするんだよ。もしかして、エルトセルクさんが手加減してくれると思ってるのか?」
「可能性はあるが……手加減されたとしても、たぶん、勝てないだろうな。それくらいの実力差がある」
「ならば、どうして真正面からぶつかるなどと?」
「言っただろう? そうしないとダメなんだ。バカ以外の何者でもないが……そうすることで、俺は初めて、正式に彼女の隣に立つ資格を得られると思う」
「それは……」
俺の言いたいことを理解してくれたらしく、二人が微妙な顔に。
罠を用意して勝ったとしても、それは、俺の本来の実力じゃない。
それじゃあダメだ。
俺自身の力でユスティーナに打ち勝たないといけない。
小細工をして勝ったとしても、俺は納得することができないだろう。
これもまた、つまらない意地だ。
馬鹿げている、と思われるかもしれない。
それでも、俺にできることは、愚直に突き進むだけ。
ならば愚直であろうとバカであろうと、どこまでも貫いてみせよう。
「……ったく、忘れてたぜ。アルトはこういうヤツだったな」
「無茶苦茶ではあるが……それでも、彼らしいと言うべきか」
二人は納得してくれたらしく、揃って苦笑してみせた。
ただ、ほどなくして真面目な顔に。
「でも、どうするんだよ? 真正面からぶつかるっても、すぐに吹き飛ばされるのがオチだろ?」
「そのために、大会に備えて訓練をしたい」
「確かに訓練は必須だが、間に合うのかい? いや、そもそも、訓練をした程度でどうにかなるものなのかい?」
「アルトのやる気を削ぐつもりはないんだけどよ。さすがに、真正面からぶつかるってのは無謀すぎないか? 無理難題すぎるだろ」
二人の言うことはもっともだ。
普通に考えて、真正面からの勝負でユスティーナに勝てるとは思わない。
罠を考えるのが当たり前。
「どうするつもりだい?」
「徹底的にユスティーナを研究して、対策を練り上げたいと思う」
「ふむ?」
「例えば……攻撃のクセとか防御のクセ。戦闘時の思考パターン。そういうものを分析して、最適な戦い方を導きたいと思う」
「罠に頼るつもりはないが、策は考える、ってことか」
「それでも厳しいと思うのだが。やはり、罠を用意した方が良いのでは? 罠も策の内に入るだろう。罠を考える知恵も、キミの力として評価してもいいと思うが」
「そうかもしれないが、ただ、罠は破られたらそこで終わりだろう?」
とっておきの罠を用意しても、ユスティーナが相手だと、簡単に突破されてしまうかもしれない。
それくらいに、竜の力は桁違いなのだ。
「それに、公式な大会となると、どれだけの罠を用意できることか。下手したら、反則とみなされるかもしれない」
「それは……そうだな」
「だから、対策を練る。真正面からぶつかり、それでいて、勝利を掴み取る策を考える」
「勝率はどれくらいか、わかっているのかい?」
「1パーセントもあればいい方だろうな」
「それなのに、やるってのか?」
「やる」
即答した。
「……」
「……」
グランとテオドールは互いの顔を見て、
「「ふぅ」」
ややあって、小さなため息をこぼす。
それから、仕方のないヤツ、というような感じで苦笑する。
「ぶっちゃけ、勝ち目なんてないと思うが……ま、無茶無謀に挑戦するのは、これが初めてってわけじゃねーか」
「僕は、キミの友達だ。ならばこそ、キミを応援しよう」
「手伝ってくれるのか……?」
「今度、学食で昼をおごってくれ」
「ボクもそれで構わないよ」
「ありがとう、二人共」
俺は、とても頼りになる友達を持った。
そのことを、とてもうれしく思う。
「で、俺らはなにをすればいい? 策を考えるための相談役か?」
「それもあるが……もう一つ、新技の開発に付き合ってほしい」
「新技?」
テオドールが不思議そうに言う。
「そういえば、アルトは不思議な技を持っていたね。体のリミッターを意図的に解除できる、という」
「そんなもの使えたのかよ。エルトセルクさんと一緒にいることで、お前、最近人間やめてきてねえか……?」
失礼なことを言わないでほしい。
俺のアレは、あくまでも人間の技の範囲内だ。
ただ……
これから俺が覚えようとしているものは、範囲外になるかもしれないが。
「まあ、俺らでよけりゃ、いくらでも手伝うけどな」
「僕らは、どうすればいいんだい?」
「二人同時に、全力で攻撃してきてほしい」
俺は二人と距離を取り、それから、軽く身構えた。
訓練用の槍は手にしない。
「ん? そりゃ構わないけどよ。でも、なんで素手なんだ?」
「新技は、少しややこしいものなんだ。武器を使うとなると、色々と難しい。だからまずは、感覚を掴むために、素手でやりたい」
「わかるような、わからないような……」
「そもそも、どんな技なのだい?」
「あー……説明が難しい。ただ、その身で喰らえばわかるはずだ」
「ふむ。気になるが、まあいいだろう。グラン。試しにやってみようか」
「おう、そうだな。全力でいくから、気をつけろよ? 大会前に怪我なんてしたら、洒落にならねーからな」
「ああ、大丈夫だ」
実のところ、怪我をしない根拠なんてものはない。
ただのハッタリで、失敗すれば二人の攻撃をまともに受けることになり、かなり厳しいことになる。
ただ、そのことは秘密にした。
余計な感情が混ざると成功しないかもしれないし、下手に手加減されても困る。
失敗すれば大怪我。
そのリスクを抱えることで、絶対に失敗できないと心を研ぎ澄ませることができるのだから。
「それじゃあ……」
「いくよ!」
二人は、それぞれに剣を構えて突撃してきた。
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