183話 戦術武闘大会
戦術武闘大会。
それは、一年に一度、学院が開催する大会だ。
力、魔力、知恵。
己の持つ全てを賭けて戦い、頂点を決める。
おもしろい特徴として、出場者は生徒だけに限らない。
なんと、教師も出場可能らしい。
教鞭をとる一方で、特定の分野の研究をする教師は少なくない。
教える側でありつつ、探求する立場でもある。
それが、竜騎士学院の教師だ。
そんな教師にも、日頃の成果を披露する場を与えたい。
その成果を目の当たりにすることで、生徒たちは良い刺激を受けてほしい。
そんな思惑から、教師の参加も認められているらしい。
「なるほど」
一通りの説明を読み、戦術武闘大会なるものの大体の概要を把握することができた。
こんなイベントが開催されていたなんて、知らなかった。
竜騎士に憧れて、田舎にいる時、学院について色々と調べていたのだけど……
距離があるせいか、どうしでも情報収集に遅れが生じていたからな。
「賞品、賞金も出るのか」
たくさんの生徒の出場を促すためなのか、賞品と賞金が設定されている。
一流職人が魂を込めて製作した武具。
二泊三日の旅行ペアチケット。
市場に滅多に流通しない高級食材。
賞品の一覧に目を通してみると、色々なものが用意されていた。
やや俗っぽい内容のような気がするが……
その方がわかりやすく、うまい具合にやる気も引き出せるということなのだろう。
事実、俺はやる気になっていた。
「一流職人の武具……いいな」
まだ学生という身分のため、専用の装備というものは持っていない。
大抵は、訓練用の槍。
王都の外に出る時は、学院から貸し出される一般的な武具。
力がなければ、上質な武具を手にしても意味がない。
そう思う。
思うのだけど……
でも、憧れるところはある。
「あっ! 見つけた、アルト!」
「ユスティーナ?」
振り返ると、タタタッと軽快に駆けてくるユスティーナの姿が。
いつの間にか休み時間になっていたらしい。
「もうっ! 授業をサボって、こんなところでなにをしているの?」
「すまない。色々と考えたいことがあって……次はちゃんと出るよ」
「そうした方がいいよ。先生、怒っていたし」
「むう……」
「まあ、アルトは日頃の行いがいいから、なんとかごまかせると思うけど」
「いや。本当のことを話して、素直に謝罪しようと思う」
「真面目だなあ。でも、そこがアルトの良いところだよね。そんなところも好き」
「っ」
好き、という単語にピクンと反応してしまう。
今までならば、それほど気にすることはなかったのだけど……
想いを自覚した今、かなり強烈なワードだ。
努めてなんでもないフリをするが、顔はにやけていないだろうか?
赤くなっていないだろうか?
まだ告白するつもりはないので、バレないでほしい。
「んにゃ? なにそれ?」
祈りが通じたのか、ユスティーナは俺の変化には気づかないで、俺の視線の先にあるチラシに興味を持つ。
「戦術武術大会? アルト、これは?」
「俺も今知ったばかりなんだけど、学院で大会を開催するらしい。生徒と教師が参加するもので、色々な賞品や賞金が用意されているみたいだ」
「へー、なんかおもしろそうだね」
ユスティーナはチラシを見て、少しして、目をキラキラと輝かせる。
「こ、これはっ!?」
「どうしたんだ?」
「……二泊三日の旅行ペアチケット……」
「それが欲しいのか?」
「欲しいよ!!!」
ものすごい勢いで肯定されて、思わず驚いてしまう。
軽く仰け反りつつ、問いかける。
「ユスティーナは、旅行が好きなのか?」
「ううん、特にそれほどは」
「なら、どうして?」
「だって……」
頬を染めて、チラチラとこちらを見る。
俺と一緒に行きたい、ということか。
その気持ちはとてもうれしいのだけど、今、そんなことをしたら理性を保つことができるかどうか。
覚悟が定まっていないのに、雰囲気に流されて告白してしまうかもしれない。
それは、できることなら避けたい。
己の心としっかりと向き合い。
それから、きちんとした形で告白を……
「ん?」
ちょっと待てよ?
今思いついたのだけど、この大会、うまいこと利用できないだろうか?
俺の目的は、ユスティーナの隣に立つこと。
それにふさわしい力と自信を手に入れること。
その問題は、大会を利用すれば解決できるかもしれない。
具体的には、ユスティーナと一緒に大会に出場する。
大会はトーナメント形式で、完全な個人戦。
ユスティーナが負けるなんて事態は想像できないから、勝ち進めば、いずれ彼女と激突するだろう。
そうすれば、真正面からユスティーナと戦うことができる。
競い合い、己の力と覚悟を試すことができる。
試合をしてほしいと頼めば、ユスティーナは引き受けてくれると思う。
ただ、なんだかんだで手加減をしてしまうと思う。
しかし、大会という舞台の上ならば?
そんな場所で手を抜くことは失礼極まりないし、相手のことを考えるならば、ユスティーナも本気を出すだろう。
「なあ、ユスティーナ。これ、一緒に出場してみないか?」
ユスティーナと真剣勝負ができる!
そんなことを考えた俺は、気がつけば、そう問いかけていた。
「え? 大会に?」
「ああ。良い力試しになると思うし……えっと……ほら、賞品や賞金も豪華だろう?」
「そっか。それじゃあ、アルトもボクと一緒に旅行を……えへ、えへへへ」
ユスティーナがくねくねと悶える。
なにか勘違いしているみたいだけど、今はそのままにしておこう。
悪い考えだけど、餌がないと出場してくれるとは思えないからな。
「どうだろう?」
「うんっ、もちろんいいよ! ボクとアルトで優勝して、賞品と賞金、全部もらいうけよう!」
「いや、個人戦だから協力して、という形は無理なのだけど……」
「そうなの? じゃあ、優勝と準優勝、両方獲ろうね!」
「ああ、そうだな」
どちらも勝ち進めば、途中で必ず激突することになる。
彼女はそのことに気づいているのだろうか?
騙しているようで心苦しいが、こうでもしないと本気のユスティーナと戦うことはできないだろう。
すまないが、付き合ってほしい。
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