182話 隣にいたいからこそ、対等でありたい
ククルがアルモートに残る?
いったい、どういうことなのだろう?
問いかけるように彼女を見ると、驚いているらしく、たどたどしい様子で説明する。
「えっと、あの……アベルの計画は阻止したものの、未だ、リベリオンは健在。リベリオンの問題は、各国で連携して対処する必要がある。そのために、自分はこのままアルモートに残り、活動を続けてほしい……と」
「それじゃあ……」
「……残ることができるようになりました」
互いの顔を見る。
驚きに目を大きくして、それでいて、いまいち実感湧かずキョトンとする。
それも少しの間。
少しずつ喜びの色が湧き上がり、やがて、笑み一色になる。
「そっか……よかった!」
「ひゃっ!?」
ククルが変な声をあげて……まずい。
これからも一緒にいられることに喜び、ついつい勢いでククルを抱きしめてしまっていた。
「す、すまないっ」
「い、いえ……その、自分はイヤではありませんでしたから」
「え?」
「な、なんでもないのでありますっ!」
いつになく動揺しているが……
やはり、突然のことで驚かせてしまっただろうか?
「なにはともあれ、これからも一緒にいられることはうれしいよ」
「は、はい。自分もであります。これからも、よろしくお願いするのであります」
笑顔で握手を交わす。
「あらあら」
どこからともなく、とても楽しそうな声が聞こえてくる。
振り返ると、先程の教師がニヤニヤした顔でこちらを……正確には、ククルを見ていた。
「あのククルちゃんが、そんな顔をするなんて……お母さん、うれしいわ」
「だ、団長!? というか、お母さんってなんでありますか!? そんな関係ではないでしょう!」
「ククルちゃんが小さい頃から面倒を見てきたのだから、お母さんと同じようなものじゃない?」
「違います!」
「そっか……私、疎ましく思われていたのね……」
「あ、いや。違うは違うのですが、しかし、嫌っているとうわけではなくて、むしろ感謝を……」
「やーん。うろたえるククルちゃん、かわいい」
「ふぎゅっ!?」
一瞬でククルとの距離を詰めて、おもいきり彼女を抱きしめた。
す、すごい……今、まったく動きが見えなかった。
しかも、ククルが抵抗できないでいるし……
これが、聖騎士を束ねるものの力。
妙なところで妙な感心をしてしまう俺だった。
「そういうわけだから」
団長はこちらを見て、パチリとウインクをする。
「これからも、うちのかわいいククルちゃんをよろしくね」
「は、はい。こちらこそ」
「アルト・エステニア君。あなたにも興味があるから、機会があれば、ゆっくり話をしましょう。それじゃあ、今後の打ち合わせをしないといけないから、ククルちゃんは借りていくわね。ばーい」
首を極められて、青い顔をしているククルが脇に抱えられて……
そのまま団長に連れ去られていく。
なんていうか……とんでもなくパワフルな人だ。
聖騎士のトップを務めるだけあって、あれが通常運転なのだろうか?
それとも、単なる性格の問題なのだろうか?
しばらくの間、俺は惚けることになるのだった。
――――――――――
「さて……」
再び一人になった俺は、特に目的地を定めることなく校舎内を歩いていた。
すでに二限目の授業が始まっているが、心がふらふらしているため、とても集中できる状態ではない。
遅れは後で取り戻すとして、今は、これからのことを考えたい。
俺はユスティーナのことが好きだ。
もちろん、恋愛的な意味で。
ようやく、そのことを自覚したのだけど……
さあ告白しよう、というつもりにはなれない。
俺はまだまだ弱い。
彼女に助けられてばかりで、恩を返すことができていない。
ユスティーナは気にしないと思うが、俺は気にしてしまうのだ。
せめて、彼女の隣に立つにふさわしい力を身に着けたい。
自信を手に入れたい。
つまらない男のプライドだろう。
くだらない見栄だろう。
しかし、それでも俺にとって、とても大事なことなのだ。
ユスティーナに甘えるだけではなくて、彼女が俺を頼ってくれるような、そんな男にならないといけない。
「とはいえ、どうしたものか」
ユスティーナに並び立つ男になると決めたものの、どうすればいい?
どうすれば、俺は自分で自分を認めることができる?
納得できるまで、ひたすらに訓練をする。
国一番の実力者を目指す。
ユスティーナの両親に娘さんをくださいと言う。
色々と考えてみるものの、どれもしっくりとこない。
というか、3つ目の案はどういうことだ?
自分で考えておいてあれだけど、結婚の挨拶じゃあるまいし、それはないだろう。
「……結婚……」
ついついその時を想像してしまい、一人で赤くなり、勝手に悶えてしまう。
「はぁ……厄介なものだな」
恋愛というものが、まさか、これほどまでに心を惑わせるものだなんて。
でも、イヤな感じはまったくしない。
むしろ心地よくて、不思議な力が湧いてくる。
「どうしたものか……」
本日、何度目になるかわからないつぶやきをこぼしつつ、廊下をゆっくりと歩く。
そろそろ授業が終わる頃だろうか?
さすがに次もサボるわけにはいかないし、教室に戻るか。
そう考えて反転したところで、廊下の掲示板がちらりと視界に入る。
そこに貼られていた一枚のチラシに興味を覚える。
「……戦術武闘大会?」
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