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18話 変わる日常

 いつものように朝が訪れて、ユスティーナと一緒に登校する。

 鞄を机の横にかけて、椅子に座る。


 それから、ユスティーナがなんてことのない話をうれしそうにする。

 俺と話ができることがうれしくてうれしくてたまらない、という感じだ。


 そこまでの価値が俺にあるのか、それはわからないが……

 ユスティーナが喜ぶことをしていきたいと思う。


 そのような感じで、最近、この光景が当たり前のものになりつつあった。

 ただ……

 ここにきて、一つの変化が加わることになる。


「……なあ、ちょっといいか?」


 ふと、男子生徒に声をかけられた。


 大柄な体で、どことなく熊を連想させる。

 背も高い。

 2メートルに近いのではないか?


 そんな体と比例するように、無骨な顔をしていた。

 ただ、いかついというわけではなくて、どことなく愛嬌がある。

 例えるなら……人懐っこい熊?


 いかん。

 さきほどから熊を連想してばかりだ。

 まあ……とにかく、そういう男だった。

 そんな男の名前は……


「昨日の……グラン、だったか? グラン・ステイル」

「ああ。さすがに、今度は覚えてくれたみたいだな」

「さすがにな。昨日の今日で忘れるほど、俺は記憶力が悪いわけじゃない」

「覚えてくれて助かるよ」

「それで……どうしたんだ? なにか用が?」

「……話しておきたいことがある」


 なんだろうか?

 心当たりがなくて、ついつい首を傾げてしまう。


 そんな俺に対して、グランはひどく真面目な表情になり……


「すまんっ!!!」


 腰を90度に曲げて頭を下げた。

 そしてなぜか、大きな声での謝罪。


 思わずぽかんとしてしまう。

 謝られる理由が思い浮かばない。


「えっと……なぜ、謝る? 知らない間に、グランは俺に対してなにか問題を起こしていたのか?」

「問題というか……ずっと、やらかしてたからな。エステニアがいじめられているのに、俺は見て見ぬ振りをしてた。関係ないことだと見捨てていた。すまん……いや、すまない。本当にすまないっ!」


 わざわざ、人目があるこんなところで話すような内容じゃない。

 当たり前だけど、グランはクラスメイトに注目されていた。


 いや……だからこそ、なのか?

 あえて注目を集めることで、それを自らの罰にする……?


 それと、他のクラスメイトにも語りかけているとか……

 都合のいい解釈かもしれないが、そういう風に考えることもできる。


「今更って思われるだろうし、都合がいいってのもわかってる。でも、どうしても謝りたかった! 昨日のことでエステニアに助けられたのに、俺は見捨てて……自分が情けなくて仕方なかった。だから、こんなことは終わりにしようと思ったんだ」

「それは……」

「なあ……みんなも、こういうことはもうやめようぜ? エステニアを腫れ物扱いして、そんな風に過ごして……俺は楽しく過ごせねえよ。セドリックを恐れていて、エステニアを虐げていた俺がどの口で言うんだ、って言われるとその通りなんだけどよ。でも、こういうことはもう終わりにしたいんだ」


 グランの呼びかけに、クラスメイトたちは互いに顔を見合わせた。

 その顔に浮かんでいる感情は……罪悪感だ。


 クラスメイトたちも、好き好んで俺を腫れ物扱いしていたわけじゃない。

 セドリックに逆らうことができず、仕方なくそうしていただけだ。

 本心からのものではないと、そう信じたい。


「……キミたち、随分と都合がいいんだね」


 ユスティーナの冷たい声が割り込む。

 見ると、とんでもなく不機嫌そうな顔をしていた。

 いつしか、セドリックと対峙した時と似たような顔をしていた。


「セドリックがいなくなって、一ヶ月くらい経つんだよ? それなのに、なんで、今のタイミングでそういうことを言うのかな? 謝るのなら、普通、もっと早く謝るべきじゃないのかな?」

「そ、それは……」

「セドリックが本当にいなくなったのか、確かめることができず、確かめようともせず……ただただ、ビクビクと震えながら様子を見ていた。そして、ようやく確信が持てるようになった。これで平和な生活が送れる。でも、アルトをのけものにした罪悪感がある。なら、謝ろう……って、そんな感じだよね? キミたちは自分がかわいいだけだよね。罪悪感なんて抱えたくないから、忘れたいから……だから、アルトに謝った。それ……本気なのかな?」

「……エルトセルクさんの言う通りだ。俺は卑怯者だ。でも、エステニアに対して、本当に悪いことをしたっていう気持ちもある。そこは信じてくれないか?」

「それも自己満足だよね。悪意がないと見せかけているから、相手は許すしかない。ある意味で、セドリックよりも質が悪いんじゃないかな?」

「ユスティーナ、言い過ぎじゃないか」

「いいや、言わせてもらうね!」


 ユスティーナは怒っていた。

 セドリックに向けた怒りほどではないが……

 見て見ぬ振りをしていたクラスメイトたちのことを、ほぼほぼ敵と認識していた。


「第一、なんでこのタイミングなのかな? そこが不自然だよね。きっかけは……この前の試験だよね? アルトはとんでもない力を見せつけて、実技試験ランク外だったのが、一気に浮上して11位という成績を叩き出した」


 ちなみに、1位はユスティーナだ。

 まあ、当たり前の結果といえる。


「それを見て、怖くなったんじゃないの? 今まで自分たちがしていたように、今度はアルトに虐げられるかもしれない。だから、そうなる前に仲良くしておこう。そんなことを考えたんじゃない? つまり、打算だよね。本気で謝罪なんて考えていない、計算でアルトの心に土足で踏み込んでいるんだよ」

「それは……否定しない」


 グランは苦々しい顔で頷いた。


「でも、それだけでもないんだ」

「他に理由が?」

「……俺は昨日、エステニアに助けられた」

「それで?」

「俺、今までさんざんやらかしてきたのに、それでもエステニアは助けてくれた。ロクでもない連中に絡まれているところに割って入ってくれて……なんで、助けてくれるんだ? って聞いたら……助けるのに理由なんて必要あるか、って」

「……」

「俺は、自分を殴りつけてやりたくなったよ。本当にバカなことをしたと思う。反省している。だから、やり直すチャンスをくれないか!?」

「ふんだ。どこまでが本心なのか……ボクからしたら、すごく怪しいね。その場の雰囲気に流されているだけで、くるりとすぐに手の平を……」

「ユスティーナ」


 そこまでにしておいた方がいいと思い、ユスティーナの言葉を遮る。


「なに、アルト? ボクはまだまだ言い足りないんだけど」

「ありがとな」

「ふぁ」


 頭を撫でると、ユスティーナが妙な声をあげた。

 そのまま赤くなり、おとなしくなる。


「俺のために怒ってくれることは、素直にうれしい。ただ、それ以上はダメだ」

「でも、ボクは……」

「わかっているさ。ユスティーナの言葉が正しい可能性もある。それくらい、俺も考えているよ」


 伊達に……というのも変だけど、いじめられ慣れていない。

 グランの言葉は形だけのもので、本心では和解なんて望んていないかもしれない。


 それでも……


「俺はグランを信じるよ」

「……エステニア……」

「疑うよりは、信じる方がいい」

「裏切られるかもしれないのに?」

「その時は、その時だ」

「……ふぅ」


 仕方ないなあ、という感じでユスティーナがため息をこぼした。

 その顔にはやわらかい笑みが戻っている。


「アルトがそういうのなら、ボクはもうなにも言わないよ」


 ユスティーナが一歩、後ろに下がる。

 グランに道を開けた形になる。


 グランは神妙な顔をして、改めて口を開く。


「エルトセルクさんの言う通りだ。俺の中に、色々な打算がある」

「そうか」

「でも、もうこんなことは終わりにして……そして、できることなら、エステニアと仲良くしたいと思っている。これもホントのことだ。信じてほしい」

「信じるよ」

「……お前、簡単に言うな。疑わないのか?」

「さっきもユスティーナを相手に言ったが、疑うよりも信じる方が気持ちいいからな。あと……色々と暗いことを考えるのは疲れた」

「すまない。エステニアがそこまでしてくれているのに、俺は今まで……」

「いいさ」


 セドリックが相手だとしたら、許すことはできそうにないが……

 グランたちも、いわば被害者だ。

 セドリックの横暴に巻き込まれて、なにもすることができない。


 もしも俺がグランの立場だとしたら、力のない俺がなにかできたとは思えないし……

 グランを責める資格はないし、そのつもりもない。


「ただ……一つだけいいか?」

「なんだ? なんでも言ってくれ。せめてもの罪滅ぼしとして、なんでも言うことを聞く。殴りたいっていうのなら、好きにしてくれて構わん!」

「考え方が物騒だな……そんなんじゃなくて、俺のことはアルトって呼んでくれ。望むことは、ただそれだけだ」

「……わかった。それと、ありがとう」


 グランと握手を交わして……

 自然と、クラスメイトたちの拍手に包まれた。


 この日、初めて学院で友達ができた。

 しかし、それは新しい事件を招いてしまうことになる。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] よく2m近くもある熊みたいな男からカツアゲしようと思ったな
[一言] 確かに、見て見ぬふりをしたのはユスティーナとしては許せねえわな。 だけど、謝罪したんならチャンスぐらい与えなくっちゃ。それでダメだったら……そん時はそん時!
[一言] お人好し過ぎる。エルトセルクの言う事も尤もだが…。
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