176話 少女の体調不良
意外と言うと失礼になるのかもしれないが、フレイシアさんは学院の教師としての能力をしっかりと身に付けていた。
授業は一部の講義と実技を担当。
うまく授業をできるのだろうか?
という心配があったのだけど……
それは杞憂。
フレイシアさんの授業はとてもわかりやすく、なおかつ、とても身になる。
とても竜とは思えない。
ただ、ユスティーナの話によると、フレイシアさんは世界各地を旅してきたらしい。
そのおかげで、色々な知識を身に付けたのだろう。
それが活かされる形となり、教師という仕事も難なくこなせるのだろう。
ユスティーナが回答を間違えても正解にしようとするなど、たまに困った行動も見られるのだけど……
それを除けば、ほぼほぼ問題のない優秀な教師だ。
それ故に、ユスティーナも文句をつけづらいらしく、黙認状態になっている。
「まさか、エルトセルクさんのお姉さまが教師として赴任するなんて……驚きました」
「ボクも驚いたよ……まさか、こんな行動に出るなんて」
「行動力はユスティーナに負けず劣らず……むしろ、それ以上に見えたからな」
「……そうね」
俺、ユスティーナ、アレクシア、ジニーの四人で学食で昼ごはんを食べつつ、そんな感想をこぼす。
今朝は色々なことがあったため、ユスティーナの弁当はなし。
そのため学食に来ている。
ちなみに、他のメンバーは用事があるらしく、今は別行動中。
いつも一緒にいる面子がいないと、それだけでやや寂しく感じる。
「博識なところも、とても驚きました」
「お姉ちゃん、昔からあちこちを旅しているから……それで、知識だけは豊富なんだ」
「技術に関しては、竜だから元々備えている、というわけか」
「意外なことなんだけどねー」
「意外ですわ……」
「二人共、言い過ぎないようにな?」
二人の反応に、ついつい苦笑してしまう。
まあ、二人共、フレイシアさんの教師赴任に悪い印象は抱いていないみたいだ。
悪い印象を抱いているとしたら、軽口なんて叩けないだろう。
「……」
ふと、ジニーの様子が気になる。
さきほどから口数が少ない。
それに、注文したサラダセットもまるで手をつけていない。
「ジニー」
「……」
「ジニー?」
「……えっ?」
二度、呼びかけると、彼女はハッとした様子でこちらを見た。
「な、なに?」
「いや、ぼーっとしているみたいだから、どうしたのかと思って」
「そ、そう? なんでもないけど……」
なんでもないようには見えない。
いつもと様子がぜんぜん違うし、それに、どことなく顔色が悪い。
「……少しじっとしていてくれ」
「えっ」
「あっ!?」
軽く身を乗り出して、ジニーの額に手を当てる。
ユスティーナが声を大きくするものの、今はあえてスルー。
「やっぱり、熱があるな」
「えっ、そうなのですか?」
「触ってわかるくらいに熱い」
「そ、そうかな? そんなことはないって。気のせい、気のせい」
心配をかけまいとしているらしく、ジニーは笑顔で否定する。
でも、その笑顔はぎこちなくて、声も元気がない。
まったく……誰に似て無理をするようになったのだか。
「保健室に行くぞ」
「えっ、でも……」
「……ユスティーナ、アレクシア。すまないが、後は頼む」
「うん、りょーかい」
「はい、おまかせください。代わりに、ジニーさんをお願いします」
「えっと……?」
あくまでも体調が良いと拒否するのならば、こちらはこちらで、強硬手段に出るまでだ。
俺は席を立ち、ジニーの隣へ。
そして……背中と膝に手を回して、素早く抱き上げる。
「えっ、えええぇ……!?」
「さあ、保健室に行くぞ」
「えっ、いや、あの……ま、待って!? なんで、こんな……お、お姫さま抱っこなんて……」
「ジニーが素直にならないからだ」
「わ、わかったから。素直になるから。だからこれは……」
「もう遅い。じっとしててくれ」
「うっ、うぅ……」
ものすごく恥ずかしそうにするジニーを連れて、保健室へ。
「「……いいなぁ」」
そんな声が、二人分、後ろから聞こえてきたような気がするのだけど、今は気にしないことにした。
――――――――――
タイミングの悪いことに、担当医は席を外していた。
ただベッドは空いていたから、ジニーを寝かせる。
「ふぅ……」
横になると、ジニーは小さな吐息をこぼす。
こころなしか、その顔が穏やかなものに。
横になるだけでも、けっこう楽になったのだろう。
逆に言うと、それくらい辛く、熱が高いのだろう。
もっと早く気づいていれば。
そのことが悔やまれる。
「少し待っていてくれ。薬を探してくる」
病気の種類がわからないので、素人判断で薬を出すことはできない。
ただ、解熱剤くらいなら問題ないだろう。
幸いというべきか、セドリックにいじめられていた経験があり、俺は保健室に通い慣れていて、どこになにがあるのか大体把握している。
薬が収められた棚を開けて、解熱剤を探す。
「……よし、これだな」
薬を取り、ついでに水を。
ジニーのところへ戻り、そっと上半身を起こしてやる。
「ほら、これを飲むといい。病気が治るわけじゃないと思うが、熱は下がるはずだ。それだけでも、だいぶ楽になると思う」
「うん……ありがとう」
ジニーはゆっくりと解熱剤を飲む。
「んっ……苦いね」
「薬はそういうものだからな」
「もう……アルトくん、厳しいね。そういう時は、甘い薬を探してくるとか、そんなことを言ってくれないと」
「無茶を言わないでくれ……」
「ふふっ、冗談よ。アルトくんはとても優しくて、いつも頼りになるわ。だから……好き」
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