175話 それはそれ、これはこれ
「アルト、おっはよー!」
朝。
ユスティーナの元気な挨拶で目が覚める。
「おは……よう?」
こちらも挨拶を返そうとしたのだけど、とある人が目に入り、詰まり詰まりになってしまう。
その人というのは……
「ふんっ」
フレイシアさんだった。
奥のリビングで、先に朝食を食べている姿が。
「えっと……ユスティーナ?」
「なに、どうしたの?」
「いや、それは俺のセリフなんだが……どうしてフレイシアさんが?」
「……ボクも謎なんだよね。朝、話があるからって急に押しかけてきて……ボクの作ったごはんを見たら、私も食べるー! って言い出して……追い出そうとしたら泣き出しそうになるから、ダメだったんだよね」
色々とツッコミどころはあるものの、フレイシアさんならそんな行動に出てもおかしくないか、ということで納得してしまう。
「……まあ、いいか」
「いいのっ!?」
「姉妹の時間も大切だろう?」
「むー……ボクは、アルトと二人っきりがいいんだけどな」
「フレイシアさんがいなくても、ノルンがいるだろう」
「ノルンはいいの。妹みたいというか、なんか最近は、娘みたいに思えてきたし。ボクとアルトの娘……えへ、えへへへ」
妙な想像をしたらしく、ユスティーナは急に照れ出した。
これはいつものことなのだけど、
「ちょっと、そこの人間っ! 私のユスティーナちゃんに、なに変なことを想像させているのよ!?」
リビングにいるフレイシアさんが、敏感にこちらの様子を察知して、声を尖らせる。
今のは俺のせいなのだろうか……?
とにかくも、ユスティーナをリビングにやり、一人になった後、制服に着替える。
それから合流。
「あうっ!」
フレイシアさんと同じく、先にごはんを食べていたノルンが、こちらを見て笑顔で挨拶をした。
「おはよう、ノルン」
「ユスティーナちゃんに起こされて、ユスティーナちゃんに料理を任せて……ふんっ、良い身分ね」
「えっと……すみません」
「もうっ、お姉ちゃん、変なこと言わないで! 料理を作ることは、ボクが望んでやっているんだから。というか、今日はボクの当番だから、作ることはなにも問題ないの」
「むううう……」
反論されて、フレイシアさんが子供のように頬を膨らませる。
こんな時になんだけど、ユスティーナと似ているところがあり、やっぱり姉妹なんだな……と実感する。
「ところで……」
俺も席に着きつつ、フレイシアさんに問いかける。
「今朝は、ごはんを食べに来ただけなんですか?」
「なによ、悪いの?」
「いえ。ユスティーナのお姉さんですから、いつでも歓迎します。ただ、それだけじゃなくて、他に話があるんじゃないかな……と」
「へぇ……少しは勘が良いみたいね」
「ということは、やはり?」
「ええ、話があるわ」
フレイシアさんは食事の手を止めて、こちらを睨みつける。
ただ、頬にサラダのドレッシングがついているせいで、迫力というものが皆無だ。
「ユスティーナちゃんのことについて、あれこれと口を出すのはやめたわ」
「そうなんですか?」
「悔しいけど……ユスティーナちゃんは、私が思っているような子供じゃなかった。ちゃんとした大人だった。今までは私が守ってあげないと、って思っていたけど……もう、そんな時期じゃないのね」
どこか寂しそうにフレイシアさんが言う。
妹の成長を喜ばしく思いつつも、手元から離れていくことをすぐに受け入れることができないのだろう。
「お姉ちゃん、ありがとう。ようやく、ボクとアルトのことを認めてくれたんだね」
「えっ、認めるわけないじゃない」
「え?」
「ユスティーナちゃんの行動にあれこれと口を出すつもりはないわ。でも、交際絡みとなれば話は別よ! ユスティーナちゃんに人間がふさわしいなんてこと、ありえないんだからっ。ユスティーナちゃんの相手は、私が選んだしっかりとした竜でなければダメ!」
「お姉ちゃん……ようやく妹離れをしたかと思ったら、まだそんなことを」
「ふふんっ、私はユスティーナちゃんのお姉ちゃんですもの! お姉ちゃんとして、ユスティーナちゃんの恋愛問題に口を出す権利があるわっ!」
フレイシアさんはドヤ顔で言い切る。
しかし、そんな権利はさすがにないと思うが……
妹離れしたと思ったのは、勘違いだったのかもしれない。
そんな姉を見て、ユスティーナは不機嫌そうに言う。
「言っておくけど、ボクのアルトになにかしたら、いくらお姉ちゃんでも許さないからね? ケンカだよ」
この姉妹がケンカなんてしたら、王都が壊滅してしまいそうだ。
できれば……というか、絶対にやめてほしい。
「なにかするつもりはないわ。勘違いしているみたいだけど、あれこれと細かく口出しするつもりはないの。ユスティーナちゃんも大人になっているってわかったし……必要最低限の干渉にするつもり」
「そう……なの?」
「ただし」
フレイシアさんがこちらを見た。
その視線は厳しい。
「その人間が、本当にユスティーナちゃんにふさわしいかどうか……それは、私の目で確かめさせてもらうわ」
「確かめる、ですか……もしかして、また試練などを?」
「いいえ」
俺の問いかけに、フレイシアさんは首を横に振る。
おかしいな。
今の会話の流れから、てっきり、以前と同じような試練が降りかかるものと思っていたが……
そうではないらしい。
だとしたら、どのようにして俺のことを見極めるというのだろうか?
「ふふんっ、変なところを見せたら、そこで終わり。ユスティーナちゃんにふさわしくないと、容赦なく判断してやるわ。覚悟なさい! あーっはっはっは!」
悪の組織の女幹部のように高笑いを響かせた後、フレイシアさんは残りのごはんを食べて、部屋を後にした。
残された俺とユスティーナは、いったいどういうことだろう? と互いの顔を見て、不思議そうに首を傾げる。
ちなみに。
「あうあう~♪」
ノルンは一人マイペースに、朝食をおいしそうに味わっていた。
――――――――――
学院に登校して、朝のホームルームの時間が訪れる。
いつもならすぐに先生がやってきて、連絡事項等を伝えてくれるのだけど……
なぜか、今日に限って姿を見せない。
どうしたのだろう?
教室内がザワザワしたところで、ガラリと扉が開いた。
そこから姿を見せたのは……
「おはようございますっ」
フレイシアさんだった。
ピシリとした教師らしい服を着て、なぜかメガネを着用して、出席簿と教鞭を手にしている。
突然、知らない女性が入ってきて、クラスメイトが驚いている。
それ以上に、フレイシアさんのことを知る俺やユスティーナたちは唖然とした。
「私の名前は、フレイシア・エルトセルク。そこのユスティーナちゃんの姉よ! 今日から、このクラスの担任になったから、よろしくおねがいね」
俺のことを自分の目で確かめる。
先の発言は、こういう意味だったのか……
フレイシアさんの考えていることを理解した俺は、なんともいえない疲労感に包まれるのだった。
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