174話 守られるだけの存在じゃない
ノルンに連れられて、俺達は王都の町並みを見て回ることに。
フレイシアさんに認めてもらうことが目的だったのだけど……
いつからか純粋に遊ぶことを楽しむようになっていて、普通に王都観光をする。
フレイシアさんに認めてもらいたいとは思うものの、今すぐでなくてもいいかもしれない。
ここしばらくは色々なことがあったから、思えば、こうしてのんびりするのは久しぶりだ。
今度、改めてみんなで遊びに行くのもいいかもしれないな。
「むっ」
「どうしたんだ?」
「アルト、今、みんなで遊びに……とか考えていた?」
「……どうしてわかる?」
「わかるよ。大好きなアルトのこと、いつも見ているからね」
最近、ユスティーナの好意がどんどん直球になっているような気がした。
それだけ焦れているのかもしれない。
俺は……そろそろ決断しないといけないのかもな。
「ダメか?」
「みんなと一緒もいいけど……でもでも、ボクはアルトと二人きりがいいな。ノルンが一緒じゃイヤとか、みんなが一緒じゃダメとか、そんなことはないんだけど……やっぱり、二人きりの時間も欲しいの。ボク、わがままかな?」
「……いや、そんなことはない」
「え?」
「むしろ、なんていうか……俺も、たまには二人で過ごしたいと思う。そう、思うようになっている」
「ふぇ……!?」
「つまりだな、それは……」
「あ、アルト……」
ユスティーナの瞳が期待に潤む。
じっとこちらを見つめて……
そして、俺もまた、彼女をじっと見つめる。
その場の勢いというか、雰囲気に流されているというか。
そういうところは、多少はあると思う。
でも、俺は……
「どけどけどけぇーーーっ!」
「「っ!?」」
突然、乱暴な声が割り込んできて、俺とユスティーナはビクンと震えた。
一瞬で我に返り、なにが起きたのかと周囲を見る。
少し離れたところに、鞄を脇に抱えた男が見えた。
血走った目で短剣を振り回していて、一目で正気じゃないとわかる。
強盗?
あるいは違法な薬を……いや、考えている場合じゃないな。
竜騎士を志す者として、この事態を放っておくことはできない。
武器はないが、素手でもなんとかなるだろう。
それくらいの自信はある。
「おい、なにを……」
「あうっ!」
「ノルン!?」
まずは声をかけて、注意をこちらに向ける。
そう考えていたのだけど、なぜかノルンが男に向けて飛び出してしまう。
いったい、なにを!?
もしかして……邪魔をされたと怒っているのか?
「あうあう!」
「なんだこのガキはっ、うっとうしいんだよ!」
「っ!?」
男が吐き捨てるように言いながら、短剣を逆手に持つ。
それをノルンに向けて……
「このっ……!」
ガシッ!
ユスティーナが風のように駆けて、ノルンを守るように前に立ち、男の短剣を素手で受け止めた。
一瞬、ヒヤリとするものの、彼女はかすり傷一つ負っていない。
それもそうだ。
ほぼほぼ普通の女の子の姿をしているために、ついつい忘れてしまいがちになってしまうが、ユスティーナは竜なのだ。
普通の人間では、どうがんばっても勝つことはできないし、かすり傷を負わせることも不可能だ。
「ノルンに……なにするのさっ!」
ユスティーナは怒りの炎を目に灯して、男を殴りつけた。
重力が横に変化したかのように、男の体が勢いよく飛ぶ。
でたらめに回転して、何度か道路の上をバウンドして……そして、木をなぎ倒しつつ、ようやく止まる。
男の手足はピクピクと痙攣していた。
体のあちらこちらが変形してしまっているものの、一応、生きているみたいだ。
咄嗟のことではあるが、手加減したのだろう。
「ふんっ」
ノルンを抱きしめつつ、ユスティーナは見たかと言うように鼻を鳴らす。
その姿は、姉のようであり母のようでもあった。
――――――――――
あの後、俺たちは憲兵隊の詰め所で事情聴取を受けた。
といっても、犯人扱いされているわけではない。
事件解決の協力者ということで、簡単な事情を聞かれただけだ。
その際、事件についての話も聞いた。
借金を繰り返す男がヤケになり強盗を。
逃亡中に俺たちと遭遇して……という経緯らしい。
事件解決の感謝の言葉を伝えられた後、俺たちは憲兵隊の詰め所を後にした。
「ふう……事件に巻き込まれるなんて、ついてないな」
「ホントだよ……せっかくの楽しい時間だったのに」
「あう~♪」
俺とユスティーナはぼやきをこぼすものの、ノルンはごきげんな様子だ。
ひしっ、とユスティーナに抱きついて離れない。
たぶん、自分を助けてくれたことを理解しているのだろう。
そのことがとてもうれしくて、今まで以上に懐いて甘えている、という感じか。
自分で言うのもなんだが……
家族のようだった。
「むう……」
俺たちを見て、フレイシアさんが眉を寄せて唸る。
「えっと……どうしたんですか?」
「……ユスティーナちゃんは、いつもあんな感じなの?」
「あんな、というと?」
「迷うことなく、あの子を守っていたじゃない? あれは、いつものこと?」
「そうですね……わりと当たり前のことですね」
優しくて強くて……とても頼りになる子。
それがユスティーナだ。
「そう……」
俺の話を聞いたフレイシアさんは、どこか遠い目をした。
「私が守らないと、って思っていたんだけど……いつの間にか、守る側になっていたのね。私も成長しないとダメ、か」
それは、フレイシアさんが妹離れをした瞬間だった。
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