170話 認めません
「それで……どういうこと?」
目が覚めたユスティーナは、フレイシアさんにおもいきり冷たい視線を向ける。
絞め落とされたことで、さらに怒りが倍増しているみたいだ。
しかし、フレイシアさんは怒りの根源が理解できない様子で、キョトンとしていた。
「どうしたの、ユスティーナちゃん? 久しぶりに会えたんだから、いつもみたいにお姉ちゃんに甘えていいのよ?」
「甘えたことなんてないよ」
「またまた、ウソばっかり。小さい頃は、お姉ちゃんお姉ちゃんっていつも私の後ろをついてきて、お姉ちゃんがいないー、って寂しくて泣いたことも……」
「な、ないからねっ!?」
ユスティーナが顔を赤くして叫ぶ。
……あったんだな。
「そ、それはともかく」
ごまかした、と思うけれど、ツッコミはよしておいた。
「どうして、アルトに掴みかかるなんていうことをしたの?」
「だって……私のユスティーナちゃんが、いつの間にか人間に取られていたんだもん」
「ボク、お姉ちゃんのものじゃないんだけど」
「私、寝取られは嫌いなの。寝取るのはいいんだけどね」
「俺、寝取られてみてぇ」
「バカ兄さんは黙ってなさい」
フレイシアさんを前にしてそんなことが言えるグランは、一番肝が座っているのかもしれない。
「ボクがアルトを好きになっていたから、アルトに掴みかかったの?」
「もちろんよ!」
「胸を張って認めないでよ……」
頭痛を覚えているような感じで、ユスティーナはこめかみの辺りをひくつかせた。
「お姉ちゃん!」
「どうしたの、ユスティーナちゃん。顔が怖いわよ?」
「怖くもなるよ! まったくもう……そんなくだらない理由でアルトに掴みかかるなんて」
「えー、くだらなくなんて……」
「くだらないよ!」
「うっ」
ジト目で睨まれて、フレイシアさんがたじろぐ。
「いい? 竜は、アルモートと同盟を結んでいるんだよ。その中でも、ボクたちはトップに立つ神竜なの。他の竜の模範にならないといけないの。それなのに、率先して竜と人間の和を乱すような真似をしてどうするのさ!?」
「え、えっとぉ……それはそのぉ」
これ以上ないほどの正論に、フレイシアさんは口ごもる。
納得はしていないようだが、かといって反論することできない、という様子だ。
「お姉ちゃん、アルトに謝って」
「えぇ!? なんで、私がユスティーナちゃんを寝取った人間なんかに謝らないといけないの!? むしろ、謝るのはそっちの人間よっ」
「お・ね・え・ちゃ・ん?」
「うっ……」
刺すような視線で妹に睨まれて、フレイシアさんが怯む。
妹が怖い。
でも、謝りたくない。
そんな二つの想いの間で心が揺れているらしく、目をぐるぐるとさせている。
「い……」
「い?」
「いやーっ!」
突然、フレイシアさんが叫んだ。
店内の客が何事かとこちらを見るのだけど、構うことなく子供のように駄々をこねる。
「やだやだやだーっ! 私のユスティーナちゃんが見知らぬ人間に取られるなんて、いやーっ! 絶対にやだー! そんなの認められない、認められないんだからーっ!!!」
「お、お姉ちゃん……そんな子供みたいな……」
「子供でもなんでもいいわ! それだけユスティーナちゃんをとられたくないの! 妹はお姉ちゃんのものなのよーっ!!!」
「そんな無茶苦茶な……」
心底困り果てた様子で、ユスティーナは眉を八の字にした。
子供のようにわがままを言うフレイシアさんではあるが、その根源にあるものは、ユスティーナに対する愛情だ。
妹が大好きだからこそ、手元を離れてしまうことに納得がいかない。
寂しくて駄々をこねてしまう。
そのことを理解している様子で、だからこそ、これ以上強く言うことができないらしい。
いざとなれば、「お姉ちゃん嫌い!」の必殺技をぶつければいいのかもしれないが……
それは、できれば避けたいと思っている様子だ。
「……すみません。少しいいですか?」
「アルト?」
「あぁん?」
見かねて、ついつい口を挟んでしまう。
フレイシアさんにものすごい目で睨まれる。
迫力たっぷりで、思わず体が震えてしまうが、ここで引き下がるわけにはいかない。
できることなら、フレイシアさんに俺のことを認めてもらいたい。
ユスティーナを寝取るとか恋人になりたいとか、その辺りはなんとも言えないが……
隣に立つパートナーとしての矜持がある。
「俺のことを認めてもらうことはできませんか?」
「はぁ? 私からユスティーナちゃんを寝取ろうとしておいて、よくそんなことが言えるなぁ? 強盗が、これからお金を取りますけど許してくださいね、って言うようなもんだぞ、おい。ふざけてんのか!?」
「……正直、神竜の威厳というものはありませんわね」
「……そこらのチンピラに似ているのであります」
アレクシアとククルがぶっちゃけすぎる感想を小声で口にしていた。
そんな中、俺はまっすぐにフレイシアさんを見つめた。
ものすごい目で……それこそ、殺気すら込めて睨みつけられているが、目を逸らすことはしない。
ユスティーナの父親と対面した時と同じだ。
ここで目を逸らすようなことをすれば、絶対に認めてもらえないだろう。
そんな予感がした。
だから、まっすぐと前を見続けた。
「……まぁ、多少は肝が座っているみたいね」
ほどなくして、フレイシアさんからの圧が少し収まる。
ふう。
気がつけば、手汗をたっぷりとかいていた。
「でも、私があなたのことを認めると思ったら大間違いよ。そんなこと、世界が終わりになってもありえないわ!」
「認めてください」
「だから、ありえないって」
「どうすれば認めてもらえますか?」
「しつこいわね……」
舌打ちまでされてしまうけど、諦めるわけにはいかない。
俺が原因で姉妹仲が悪くなるなんてこと、絶対にイヤだ。
ならば、俺にできることはなんでもする。
「納得してもらえるのなら、なんでもします。だから、ユスティーナの隣に立つことを認めてくれませんか?」
「へぇ……なんでもするの?」
「はい」
良いことを聞いたというように、フレイシアさんの目がキラリと光る。
まるで、獲物を見つけた肉食獣のよう。
それでも、前言撤回はしない。
これくらいで怯んでいたら、絶対に俺の想いは伝わらないだろう。
だから、とにかくまっすぐ前に突き進むだけだ。
「ふむ」
フレイシアさんは考えるような仕草をとる。
そのまま固まること、1分ほど。
「なら、なんでもしてもらいましょうか」
「と、いうと?」
「あなたがユスティーナちゃんにふさわしいかどうか、私が見極めてあげるわ!」
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