169話 寂しがり屋
フレイシアさんはユスティーナと色々な話をしたい様子ではあったが、俺たちは学院に行かなければいけない。
ダダをこねられてしまうが、サボるわけにはいかないので、こればかりはどうしようもない。
ひとまず、放課後に会う約束をして、その場は別れた。
そして、放課後。
俺達は街の喫茶店へ。
「あっ、ユスティーナちゃん!」
待ち合わせをしていたフレイシアさんは、ユスティーナの姿を見つけると、とてもうれしそうな顔をして手をぶんぶんと振る。
まるで、長年会えなかった飼い主と再会することができた忠犬のようだ。
そんな感想を抱きつつ、席に座る。
テーブルは横に長い長方形。
ククル、俺、ノルン、ユスティーナ、フレイシアさん。
対面は、グラン、ジニー、アレクシア、テオドールの順で座る。
ユスティーナは俺の隣に座りたそうにしていたが……
その度にフレイシアさんが怖い目をするため、ノルンを隣にした。
それからお茶を飲みつつ、ユスティーナとフレイシアさんがメインで話をする。
その内容は、主に近況報告だ。
フレイシアさんは旅行に出て、色々な国を巡り、色々な人と出会ったという話を。
ユスティーナは、学院に入学してからの話と、俺についての話を。
「へ、へぇ……ユスティーナちゃんが、そこの人間に一目惚れを……へぇ……」
一目惚れのくだりを聞いて、フレイシアさんがおもいきり顔をひきつらせていた。
それから、こちらを睨みつけてくる。
「なにかの間違いじゃないかと思って、もう一度確認してみたけど……やっぱり、この人間が私のユスティーナちゃんを……」
フレイシアさんは暗い顔をして、ぶつぶつとつぶやいていた。
それから、ギロリとこちらを睨みつけてくる。
「やっぱ……コロスッ!」
右手を掲げる。
そこに圧倒的な魔力が収束されていき……
「お姉ちゃん?」
「っ!?」
ユスティーナがにっこりと笑顔を向けると、フレイシアさんがビクリッと震えた。
ダラダラダラと汗が流れている。
「アルトに手を出したらダメ、って言ったよね?」
「あ、いや……これは、そのぉ……」
「言ったよね?」
「ち、違うの! これはユスティーナちゃんのためを思って……」
「言ったよね?」
「……ごめんなさい」
フレイシアさんはしょんぼりとして、素直に頭を下げた。
妹は強し。
「なんつーか……エルトセルクさんの姉ちゃんって、イメージと違うな」
「そ、そうね……正直なところ、もっと毅然としているような、そんなイメージがあったんだけど」
グランとジニーは、ともすれば失礼になる感想を口にした。
ただ、それも仕方ないような気がする。
ユスティーナのことが大好きで、まったく頭が上がらない。
威厳というものはゼロ。
ただ……家族をとても大事にしているという、親しみやすい一面を見ることができたから、これはこれでいいと思う。
「あははー、ごめんね。がっかりさせちゃったかな?」
「いや、そんなことはないぜ」
「どちらかというと、色々なことを話しやすそう、って思ったくらいだし」
「そう言ってもらえると、妹としては助かるかな」
「ユスティーナちゃんっ、私のことを考えてくれているの!? お姉ちゃん、感激っ。うれしい!」
目をキラキラさせて、フレイシアさんが隣のユスティーナに抱きついた。
迷惑そうにしつつ、しかし、振り払おうとしない。
なんだかんだ言いながらも、ユスティーナもお姉さんのことが嫌いじゃないのだろう。
そして、久しぶりに会えたことを喜んでいるのだと思う。
「そういえば、お姉さまは今までどうされていたのですか?」
ふと興味を覚えた様子で、アレクシアがそんな質問を投げかけた。
「エルトセルクさんからは、あちこちを旅行していたと聞いていますが……」
「ええ、その通りよ。私は長女だから、いずれ両親の後を……竜を束ねる者の座を継ぐことになるわ。その時のために、色々なことを知っておく必要があるの。だから、世界を旅して、この目とこの体で色々なことを体験してきたのよ」
「なるほど、自身を成長させるための旅なのですね」
「ふむ。とても素晴らしい話ですね」
アレクシアとテオドールは感心した様子だ。
さすが竜を束ねる者、というようにキラキラとした目を向けている。
ただ、隣の妹は呆れた様子だ。
「適当なこと言っちゃって」
「ゆ、ユスティーナちゃん?」
「世界を知るためとか、そんなの全部後付じゃない。お父さんとお母さんが現役を引退するのなんて、何年も……っていうか、何百年も先だと思うし。色々と言い訳をして、遊び回っていただけでしょ」
「うっ」
図星だったらしく、妹の指摘に返す言葉もないらしい。
みんなの視線が冷めたものに。
アレクシアとテオドールは、感動を返してほしい、というような顔をしている。
「まったく……世界を見てくるとか言って遊びに行って、そのまま一年以上も帰ってこないし。お父さんとお母さんはこうなるって予想していたみたいだから、いいかもしれないけどさ……ボクからしたらひどい話だよね。妹を一年以上も放っておくなんて」
「うぅ……面目次第もございません……」
「ボクのこと大好きって言うけど、それホント? それなら、普通一年以上も放っておかないよね? そうだよね?」
「あうあう……」
激しく追い詰められてしまい、フレイシアさんはなにも言えない様子だ。
そんな姉に、ユスティーナは不機嫌な様子でどんどん言葉の刃をぶつけていく。
そこまで言わなくても、とフレイシアさんに同情してしまう。
それにしても……ユスティーナ、不機嫌そうだな?
フレイシアさんが俺を脅したことを怒っている、という様子ではない。
どちらかというと、フレイシアさんに対して怒っている感じだ。
いや。
怒っているというよりは、拗ねている?
「なあ、ユスティーナ」
「うん? どうかしたの、アルト」
「もしかして、だが……ユスティーナもユスティーナで、フレイシアさんに会えなかったことが寂しかったのか? だから怒っているのか?」
「なっ!?」
思いついたまま問いかけてみると、ユスティーナが驚いた。
その頬がみるみるうちに赤く染まり、慌ててフレイシアさんから目を逸らす。
「え……? ユスティーナちゃん、寂しがっていたの?」
「そ、そんなことは……ないし」
否定してみせるものの、その声はものすごく小さい。
赤らんだ頬は、照れているという以外に解釈のしようがない。
フレイシアさんは目をうるうるとさせて、
「ユスティーナちゃああああああーーーーーんっ!!!」
「ふぎゅっ!?」
おもいきりユスティーナに抱きついた。
そのまま頬ずりをして、抱きしめて、全身で愛情を表現する。
「ユスティーナちゃんがデレるなんて……お姉ちゃん、うれしい!」
「ちょ、まっ……く、くるし……」
「寂しい思いさせてごめんね? これからは、いっぱいいっぱい甘えていいからね? お姉ちゃん、ずっと傍にいるからね?」
「だから、寂しいなんて……うぐっ」
「ユスティーナちゃんユスティーナちゃんユスティーナちゃん……はぁはぁ、ウチの妹かわいい。世界最強の愛らしさよ、はぁはぁ」
「……きゅぅ」
強烈な抱擁に負けてしまい、ユスティーナが白目を剥いてしまうのだった。
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