167話 姉
「ふぎゅっ!?」
「あう?」
女性に抱きつかれたことで、ユスティーナはカエルが潰れたような、女の子が出してはいけない声をこぼしてしまう。
そしてノルンは、マイペースにキョトンとしていた。
「ユスティーナちゃん、ユスティーナちゃん、ユスティーナちゃん!!!」
「ふぐっ……ちょ、まっ……し、締まって……」
女性は全身でユスティーナを抱きしめるようにして、さらに頬をこすりつけていた。
これ以上ないほどの笑顔を浮かべて喜んでいる。
ただ、どことなく変な薬を使用しているようにも見えて、ちょっと異様な光景だった。
対するユスティーナは、されるがまま。
というよりは……抵抗できない?
まさか、竜であるユスティーナが振りほどけないような相手なのか。
ククルと同じ聖騎士なのか。
それに類する存在なのか。
あるいは、ユスティーナと同じ……
「ちょっと……ホントに、苦し……きゅう」
「ゆ、ユスティーナ!?」
限界と言うように、ユスティーナが目をぐるぐると回して、カクンと首が落ちる。
「ど、どこの誰か知らないが、落ち着いてくれ!」
「わあああっ、エルトセルクさん、しっかりしてー!?」
「と、とにかく引き離すのでありますっ」
俺達は慌てて止めに入り、ユスティーナの救助を行うのだった。
――――――――――
「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思ったよ。この前亡くなったおじいちゃんとおばあちゃんが、笑顔で手を振っていたよ……」
ようやく解放されたユスティーナは、青い顔をしてガクガクと震えていた。
そんな彼女を見て、犯人はてへっという顔に。
「ごめんね。ユスティーナちゃんと再会できたことがうれしくて、つい」
かわいらしく言っているものの、ユスティーナを絞め落とす寸前にまで追い込むなんて相当なものだ。
それに……今気がついたのだけど、ユスティーナのことを名前で呼んでいる。
そして、ユスティーナはそれを不満に思うことなく、普通に受け入れている。
つまり、それだけ親しい相手ということだ。
この人は、いったい……?
「まったくもう……久しぶりに再会したと思ったら、妹を殺そうとするなんて」
「誤解よ。かわいいユスティーナちゃんを殺すなんてこと、お姉ちゃんがするわけないじゃない」
「「「妹!? お姉ちゃん!?」」」
俺達の驚きの声が重なる。
「おー?」
一人、ノルンはぼーっとしていた。
「えっと……とりあえず、紹介するね」
気を取り直した様子で、ユスティーナが女性の隣に立つ。
「この人は、ボクのお姉ちゃん。フレイシア・エルトセルク、っていうの」
「どうも。かわいいかわいいユスティーナちゃんの姉の、フレイシア・エルトセルクです。みなさん、よろしくね」
優しい笑顔を浮かべながら、フレイシアさんが軽く頭を下げた。
な、なるほど……誰かと思えば、ユスティーナのお姉さんだったのか。
言われてみれば納得だ。
目がとてもよく似ているし、雰囲気も同じだ。
「よろしくおねがいします」
ハッと我に返り、俺たちも慌てて頭を下げた。
「みなさんは、ユスティーナちゃんのお友達?」
「あ、はい。エルトセルクさんとは、仲良くしてもらっています」
ジニーが緊張気味に答えた。
突然現れたお姉さんの存在に驚いているのだろう。
「んー……もしかして、あなたがジニーさん?」
「えっ!? あたしのことを知っているんですか?」
「ええ、もちろんよ。ユスティーナちゃんからの手紙に書いてあったわ。とても明るくて良い子。いざという時に頼りになって、色々と相談にも乗ってもらっているとか。あと、胸が大きくてうらや……」
「わあああああっ!? わーっ、わーっ、わぁあああああ!?」
サラッと妹の恥ずかしい話を暴露しようとして、ユスティーナが慌てた。
大声を出して、フレイシアさんの言葉を遮ろうとする。
「お姉ちゃんっ、余計なことまで言わないでくれるかな!?」
「はぁあああ……怒るユスティーナちゃんもかわいい」
ユスティーナはぷりぷりと怒るのだけど、フレイシアさんはまったく応えていない。
というよりは、怒る彼女に姿さえ愛しいと思っている様子だ。
出会い頭の態度といい、今の行動といい……
もしかして、フレイシアさんはかなりの妹好きなのだろうか?
「えっと……あなたがアレクシアさん? それから、グラン君。テオドール君。ククルさんね。みんな、ユスティーナちゃんからの手紙に書いてあったわ。とてもよくしてもらっているみたいね。妹に代わり、お礼を言うわ。ありがとう」
フレイシアさんはにっこりと笑い、淑女の礼をした。
最初は面を食らったものの、なんだかんだで姉なのだろう。
とてもしっかりとした様子で、大人なのだな、ということを思わせた。
「ところで……」
フレイシアさんの視線が動いて……
ほどなくして、俺のところで固定される。
「もしかして、あなたがアルト君かしら?」
「はい。はじめまして、お姉さん。アルト・エステニアといいます」
失礼のないように、ピシリと背を伸ばして、しっかりとお辞儀をした。
「なるほどなるほど……あなたがアルト君かぁ」
「っ……!?」
フレイシアさんは笑顔だ。
笑顔なのだけど……なぜだろうか?
妙に迫力があるというか、心は笑っていないというか……
凄みのようなものを感じて、ゾクリと背中が震えてしまう。
「あっ!? お姉ちゃん、待って!」
ユスティーナが、なぜか慌てていた。
フレイシアさんを止めるような感じで手を伸ばす。
しかし、それよりも早くフレイシアさんが動いた。
ヒュンッ、と風を切るような音がした直後……
フレイシアさんの姿が目の前に。
そのまま、ガッ! と胸元を掴まれてしまう。
「おい、小僧……ふざけるなよ?」
殺気すら込められた声で、そう睨みつけられてしまうのだった。
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