166話 新しい日常
「おはよー、アルト!」
朝……ユスティーナの元気な声で目が覚める。
私服にエプロンを装着した彼女は、じっとこちらを覗き込んでくる。
「どうしたんだ?」
「んふふふー、寝起きのアルトもかわいいなー、って」
「何度も見ているだろう」
「何度見ても飽きないんだよー、ずっとずっと独り占めしたいな」
特に面白みのない顔だと思うが……たまに、彼女の好みがわからなくなる。
「ごはん、もうちょっとでできるからね」
「わかった。すぐに着替える」
「ボクが手伝おうか?」
「いや、一人で大丈夫だから」
「ちぇ、残念」
本気で残念そうにしつつ、ユスティーナはキッチンへ戻った。
着替えを手伝うとか、そういう際どい発言はやめてほしい。
「あ、そうだ」
ユスティーナの声が飛んでくる。
「ノルン、まだ寝てるから起こしてあげて」
「了解」
着替えた後、ユスティーナとノルンの部屋へ。
「ふにゅ……にゅ、にゅう……」
二段ベッドの下、ノルンが布団を蹴飛ばし、大の字になって寝ていた。
服がめくれて、へそが見えてしまっている。
元気いっぱいなことは良いと思うが……
しかし、女の子としてはどうなのだろうか?
今後、そういうところもきちんと教えないとダメだな。
「ノルン、朝だ。そろそろ起きようか」
苦笑しつつ、俺はノルンの肩を揺さぶるのだった。
――――――――――
「アルトさま、おはようございます」
「おっはよー、アルトくん」
「おはようであります」
「おっす!」
「やあ、おはよう」
アレクシア、ジニー、ククル、グラン、テオドールと寮の入り口で合流した。
そのまま、みんなで街へ向かう。
今日も休日で、一緒に遊ぶ約束をしている。
「それにしても、この前は緊張したよねー」
「叙勲式のことか?」
ジニーの台詞に反応して、グランがそう言う。
つい先日、王都襲撃事件での貢献を讃えられて、叙勲式が行われた。
いつの間にか、俺たちが主導となって学院を守ったということになっており……
再び勲章を授かることに。
とても名誉なことであり、素直にうれしい。
勲章をいくつも授かった身としては、その栄誉に負けないよう、これからも精進しないといけない。
ちなみに、その際に王と個人的に話す機会があり、例の話は断ることにした。
竜騎士になることは夢ではあるものの、急いでも良いことはないだろう。
俺にできることをして、一歩一歩、着実に進んでいきたい。
そう伝えると、王は小さく笑い、俺の意思を尊重してくれた。
ちなみに、ククルはもうしばらくアルモートに滞在することになった。
その理由は極秘らしく、知らされていない。
気になるものの……一緒にいられることはうれしく、今は問いかけないことにした。
そして……
俺は、再び日常に戻ったのだった。
「あふぅ」
「こーら、ノルン。左右にふらふらしないで、しっかり歩かないとダメだよ」
「……ふにゅ」
「眠いの? だから、早く寝ないとダメって言ったでしょ。まったくもう」
「あうー……」
ユスティーナは、眠そうにしているノルンの面倒を見ていた。
手を引いて転ばないように注意したり、ハンカチで目を拭ってあげたり。
出会った当初は色々とあったものの……
今ではすっかり仲良しだ。
「こうして見ていると、お二人は姉妹みたいですわ」
「そうだな。ユスティーナが姉で、ノルンが妹といったところか」
ノルンもユスティーナによく懐いている。
うまくしゃべれないので、本当の気持ちは断定できないが……
彼女も、ユスティーナのことを実の姉のように思っているのではないか?
そう感じさせるような笑顔を浮かべている。
「うーん……ボク、姉っぽい?」
ノルンと手を繋いだままのユスティーナが、小首を傾げた。
「らしいかな、とは思うな」
「うんうん。エルトセルクちゃんと一緒にいると、そう見えるよね」
ジニーが同意して、他のみんなも頷いた。
そんな反応を見たユスティーナは、やはり不思議そうに小首を傾げる。
「むう……」
「もしかして、姉っぽく見られるのがイヤなのか?」
「まあ……そうかも。あ、ノルンが嫌いとか、そいうわけじゃないよ? ノルンのことは……まあ、アルトの唇を奪った件は許せないけど、ふふふ……でも、嫌いじゃないよ? むしろ好き」
好きだというなら、間に不穏な台詞を挟まないでほしい。
「ただ、ボクは姉っていうものにあまり良いイメージがないんだよね」
「そういえば……」
いつだったか、ユスティーナは姉がいるという話をしていた。
その時も、少し微妙な反応を示していた。
もしかして、姉妹仲が良くないのだろうか?
それ故に、姉というものに良いイメージがないのだろうか?
「そういえば、姉がいるって言ってたよな。もしかして、姉妹仲は良くないのか?」
「ちょっと兄さん!」
聞きにくいことをズバリと聞いてしまうグラン。
俺も空気が読めない方ではあるが、さすがにそれはないと思うぞ。
ただ、ユスティーナは気にしなかったらしく、あははと笑う。
「ううん、そんなことはないよ。むしろ、仲は良い方かな」
「そうなのか?」
「うん。ただ、お姉ちゃんはちょっとした問題があって……それで、少し苦手なんだよねー」
どういう問題なのだろうか?
気になり、尋ねようとしたところで、
「あーーーっ!!!」
突然、そんな叫び声が響いた。
振り返ると、見知らぬ女性が。
その人は、ダダダッとこちらに駆けてくると、
「ユスティーナちゃん、見つけた!!!」
おもいきりユスティーナに抱きついた。
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