164話 乙女の真意は?
翌日。
一緒に遊ぼう、というユスティーナの誘いを断り、俺は学院の外に出た。
これからアレクシアとデートだ。
「……なんとなく心が痛いな」
思い浮かぶのは、ユスティーナのこと。
遊びの誘いを断ると、とてもしょんぼりとしていた。
申しわけないと思う。
俺と彼女は、まだ付き合っているわけではないが……
好意はハッキリと伝えられている。
それなのに、黙って他の女の子とデートというのは、誠意に欠ける行為だ。
ただ、アレクシアのことが気になるんだよな。
彼女の事情を知りたいということもあるが……
それだけではなくて、昨日、あの時。
とても真剣な顔をしていた。
あんな顔をされたら、どうしても断ることはできなかった。
「ひとまず、気持ちを切り替えるか」
デートの約束をした以上、今は、アレクシアのことだけを考えないと。
他の女の子のことを考えていたり、余計なことを気にしていたら、それはそれで彼女に失礼だ。
「アルトさま」
振り返ると、アレクシアの姿が……
「……」
「どうされたのですか? キョトンとして」
「あ、いや……意外な格好だったから」
アレクシアは五大貴族の娘で、おしとやかな性格をしている。
私服を見る機会は少ないのだけど、外出用のドレスがほとんどだったはず。
それなのに……
今は、とてもスポーティーな格好をしていた。
かなりラフな服装で、パンツルック。
これからジョギングをします、と言われたら納得してしまいそうだ。
「ふふっ、どうでしょうか?」
「……正直、驚いた。いつものアレクシアとぜんぜん違うから……ただ、悪いということはなくて、よく似合っていると思う」
そうなのだ。
いつもの印象とまるで違うのだけど、不思議と様になっている。
真逆の格好をしつつも、それを着こなしてしまう……なかなかにできないことだと思う。
「どうしてそんな格好を?」
「普段の私とは違う一面を知ってもらいたいと思いまして。あと、アルトさまをびっくりさせるための、ちょっとしたいたずらでしょうか」
「なるほど……それなら、その狙いは大成功だな」
「びっくりいたしました?」
「ものすごく」
「やりました、ふふっ」
子供のように笑うアレクシアは、素直にかわいいと思った。
「では、さっそくデートを楽しむことにいたしましょう。今日は、私にエスコートさせてくださいね?」
「いいのか?」
デートらしいデートなんて、ぜんぜん詳しくない。
俺としては助かるが……
ただ、男としてはどうなのだろうと、少し迷ってしまうところがある。
そんな俺の心を見透かした様子で、アレクシアはいたずらっぽく笑う。
「アルトさま。男性がエスコートをしなければならない、というのは時代遅れですわ。今の時代、女性が主導権を握ることもあるのですよ? それはデートに限らず、仕事などでも同じこと。そう思いませんか?」
「……そうだな。言われてみると、その通りだ」
「なので、私に任せていただけますか?」
「わかった、頼む」
「はい、お任せください」
アレクシアはとてもうれしいという感じで、にっこりと笑うのだった。
その笑みに、ついつい見惚れてしまいそうになる。
それにしても……
突然、デートがしたいなんて、アレクシアはいったい何を考えているのだろうか?
――――――――――
「はいっ、到着いたしました。ここが、最初のデート先ですわ」
アレクシアの案内でカフェに到着した。
シックな外観でありながら、どこか親しみが持てるという、一見すると矛盾した感じの店だ。
雰囲気は良さそうで、窓から見える店内では、たくさんの人が笑顔を浮かべている。
入り口の横に小さな看板が。
猫のマークが特徴的だ。
「ここのカフェは、とても人気なのですよ。予約制で、一ヶ月先まで埋まってしまっています」
「そうなのか? よく予約することができたな」
「実は私、この店ができた時からの常連でして。そのおかげで、ちょっと融通してもらうことができました」
「なるほど。アレクシアが虜になるなんて、この店はよほどおいしいものを提供しているんだろうな」
「いえ。メニューはわりと普通で、味はそこそこ、という感じでしょうか?」
「うん?」
ならばなぜ、アレクシアはこの店の虜になっているのだろうか?
その答えが気になる。
「ではでは……アルトさま、中へどうぞ」
「ああ」
アレクシアと一緒に店内へ。
彼女を虜にする正体がいよいよ明らかになる。
わくわくしつつ、中へ足を踏み入れると……
「にゃー」
「にゃう」
「にゃん」
たくさんの猫に出迎えられた。
「……これは?」
「ふふっ、驚いていますね。ここは、猫と触れ合うことができる、最近流行りの猫喫茶なのですよ。聞いたことはありませんか?」
「そういえば、どこかでそんな話を……」
「ここは、猫喫茶発祥の地。いわば、猫好きにとって聖地なのです。だから、これだけの人気があるのですよ」
「なるほど……猫と喫茶店、意外な組み合わせだが、面白い組み合わせでもあるな」
「そうなのですよ。この店にいる猫は、どの子もかわいくて……もう病みつきになりそうですわ。ささ、とりあえず、注文をいたしましょう」
席に座り、メニュー表を手に取る。
軽食と簡単なドリンク。
喫茶店のメニューとしては普通のもので、特に変わったものはない。
ただ……
「キャットフード?」
なぜか、猫のエサもメニューに載せられていた。
その数は豊富で、人のものよりも多い。
「これは……?」
「それは、文字通り猫のエサですわ。私たちだけではなくて、猫も一緒に食事を楽しむために、メニューに載せられているのです。ごはんをちょうだいちょうだいとねだる子たちは、みんなかわいらしくて……ふふっ、ついつい注文してしまうのですわ」
「なるほど……これはまた、すごい発想だな」
客を呼び込むだけではなくて、猫のエサ代も節約できる。
このシステムを考えた店主は天才かもしれない。
「それにしても……アレクシアは、猫好きなんだな。知らなかったよ」
「寮では飼えないので、話をすると寂しくなってしまうので。ただ、ここでならたくさん触れ合えるので、こっそりと来ていました」
「なるほど」
「大好きな人と一緒に、大好きな猫と触れ合う……それが、私の夢でした」
そんなことをさらりと言うのだから、なかなかに反応に困ってしまうのだった。
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