161話 友達
「……友達……」
ククルは、思わぬ言葉に目を丸くした。
ユスティーナやアルト、他のメンバーのことを悪く思ったことはない。
良く思っている。
親しくしていると考えているし、フィリアはともかく、アルモートでは一番仲が良いと言える。
ただ、友達と呼んでいいのかどうか。
そこは、わずかな迷いがあった。
若くして聖騎士になったこともあり、ククルの周りに友達はいない。
いるのは仲間だけだ。
もちろん、それが悪いということはない。
戦いの最中に、背中を託すことができる仲間というのは、とても貴重なものだ。
心と心で繋がっていると断言できる。
ただ、それが友達なのかと問われると、やや迷う。
仲間と友達は違うものではないか?
仲間は、一つの目的に対して共に手を取り合い、一緒に立ち向かう者。
友達は、手を取り合うだけではなくて、支え合い、時に一緒に泣く者。
そんなイメージがククルの中にあった。
だから、友達と呼べる者は少なかった。
そんな時に、ユスティーナが簡単に言うものだから……
「自分は……友達でありますか?」
「もちろん!」
「……ありがとうございます」
その一言で、ククルは救われたような気持ちになる。
ホークのことで、ひたすらに落ち込んでいたのだけど……
ここにきて、わずかに心が浮上する。
「それで、どうかしたの? ボクになにができるかどうかわからないけどさ……でも、話をすることで楽になることもあるでしょ?」
「それは……」
「変な遠慮はいらないから、話してみてよ。ほらほら!」
「それでは……」
遠慮なしに甘えてみよう。
たぶん、それが友達というものだろう。
ククルはそう思い、ホークのことを話した。
全部を説明していたらかなりの時間がかかるため、ある程度は省いて、主要な道筋のみを口にする。
「なるほどねえ……」
話を聞いたユスティーナは、悩ましげに腕を組む。
「ホーク殿に頼りにされない自分が情けなくて、悔しくて……それで、色々と悩んでいたところであります。自分は……どうすればいいのでしょうか?」
「うーん……今はなにもしなくていいんじゃないかな」
「え?」
驚くククルに、ユスティーナは笑顔で言う。
「あ、放っておけとか、そういう意味で言ったんじゃないからね? ククルがなんとかしたいっていうなら、それを止めるつもりはないし……話を聞いた限り、なにか抱え込んでいるっぽいからね」
「そ、そうであります。たぶん、ホーク殿は自分を巻き込まないとして、それで……」
「うーん……ぶっちゃけると、そう思われても仕方ないかな?」
「それは……自分が頼りないからでありますか?」
「違うよ。今のククル、すっごい疲れてるっぽいから」
そう言うユスティーナは、とても真面目な顔をしていた。
真面目8割、心配2割。
そんな感じの表情をしつつ、言葉を続ける。
「なにもしない方がいいっていうのは、今のククルが大変そうに見えたから。疲れているとか追い詰められているっていうか……なんていうか、余裕がまったくないように見えるよ?」
「余裕……で、ありますか?」
「そそ。まったく余裕がなくて……こう、風船が限界まで膨らんでて、パーン、って破裂しちゃう寸前に見えるんだよね」
「自分がそんな風に……」
まったく自覚のないククルは、思わず自分の頬を触る。
当然ながら、触っただけでは自分のことはわからない。
ただ、言われてみると心当たりはあった。
ここ最近は事件のことばかり考えていて、まったく日常に触れていない。
「だから、ボクで力になれることがあれば協力するよ。あっ、もちろん、言えばアルトも他のみんなも協力してくれると思う。ただ、その前に、女の子同士の方がいいかなー、って、こうして話をしてるわけ」
「……ありがとうございます」
ユスティーナの気遣いがうれしく、ククルは頭を下げた。
その拍子に、ついつい涙がこぼれてしまいそうになる。
それくらいに感動していた。
「エルトセルクさんの言う通り、少し息抜きをしてみることにします。うまくいくかどうかわかりませんが……」
「そこはボクとアルトに任せて! おもしろいところ、楽しいところ、連れて行ってあげる」
「……こんなことを言うのはどうかと思うのですが、ちょっと意外であります」
「意外? なにが?」
「えっと……」
言っていいものかどうか。
ククルは迷うものの……
ここまで口にしておいて、やっぱりやめたとなると不自然だろう。
「エルトセルクさんは、アルト殿にべったりですから……その……自分が一緒にいない方がいいのでは? と考えておりました」
「あー……うん、あはは……」
自覚はあるらしく、ユスティーナは気まずそうな顔に。
やっぱり言うべきではなかったか?
ククルは内心で焦るが、ユスティーナはすぐに笑顔へ。
「まあ、ぶっちゃけると、ずっとアルトと二人きりがいいよ?」
「では、どうして?」
「一番好きなのはアルトだけど……でも、えっと……他のみんなのことも好きなんだ」
照れくさそうに、そんなことを言う。
不覚にも、ククルはときめいた。
同性なのに、このかわいさはなんなのだろうか?
「最初の頃は、アルトだけいればそれでいいや、っていう感じだったんだけどね。でも、今は違うかな。アルトがいて……それでいて、みんながいる。それがベストなんじゃないかなー、って」
「……とても素敵なことだと思います」
ククルは、ユスティーナと長い付き合いではない。
短いとも言えないが……
アルトと比べると、一緒に過ごした時間は圧倒的に少ないだろう。
そんなククルではあるが、ユスティーナの変化を感じ取っていた。
心の形が、大きく動き始めている。
それを成し遂げたのは、アルト・エステニアという少年の力だろう。
普通の平民で、なにも特殊な力は持っていない。
そんなごくごく普通の少年が、巨大な力を持つ竜の心を変えた。
とんでもないことだ。
なぜ、アルトにそんなことができたのか?
なぜ、それだけの力があるのか?
ククルは、色々な意味でアルトのことが気になり始めていた。
以前から、数少ない友人として気にかけていたものの……
今はそれ以上の感情を抱いているような気がする。
ただ、それはひどく曖昧なものだ。
明確な形になっておらず、触れたら溶けて消えそうなほどに淡い。
「……この気持ちは、なんなのでしょうか?」
憧れ?
尊敬?
それとも……
「どうしたの、ククル?」
「……いえ、なんでもありません。それよりも、話を聞いていただき、ありがとうございます。おかげで、少し楽になりました」
「ならよかった。じゃあ、そろそろアルトを呼ぼうか。いつまでも外で待たせていたらかわいそうだもんね」
「はい」
その後……三人は仲良くごはんを食べた。
その際、ククルは何度もアルトのことを見ていたが、それはまた別の話である。
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