160話 女の話
「自分が一緒に食事……でありますか?」
突然のことに驚いているらしく、ククルがぽかんとした。
そんな彼女に、ユスティーナがぐいぐいと迫る。
「そそ。せっかくだから、ククルも一緒しようよ」
「えっと……しかし自分は……」
「なに?」
「……邪魔ではありませんか?」
俺とユスティーナを交互に見た後、ククルが気遣うように言う。
いつものユスティーナならば、ストレートには言わないものの、俺と二人きりが良いと言うはずだ。
それなのに、
「そんなことないよ、気にしすぎだから」
なぜか、ククルを歓迎するようなことを言う。
おかしいな?
俺が言うのもなんだけど……いつものユスティーナなら、二人きりになれるチャンスは見逃さないはずなのに。
「えっと……」
ククルが返事を迷う間に、ユスティーナに小声で問いかける。
「……いいのか?」
「……なにが?」
「……二人きりがいいのでは?」
「……まあ、本音はそうなんだけどね。でも、ククルの様子がおかしいから……気になるんだもん」
要するに、ククルの心配をしているということか。
自分のことよりも他人のことを気にすることができる。
やっぱり、ユスティーナは優しい子だ。
「……ごめんね、アルト。ボクは二人きりが良かったんだけど、でも、見過ごせないから」
「……それでいいと思う。ユスティーナがそういうことを考えられて、良かったと思う」
「……ボク、褒められた? えへへっ」
そんな内緒話をしている間に、ククルは考えを決めたらしい。
「あの……それでは、よろしければ自分も一緒させていただいても?」
「ああ、了解だ」
こうして、ククルも一緒に食事をすることに。
三人で街へ繰り出して、ユスティーナオススメの店に移動する。
肉料理をメインに提供する店で、スパイスの良い匂いと肉が焼ける香ばしい匂いが店内に漂っている。
空腹感が増して、このままだと腹が鳴ってしまいそうだ。
きゅるぅ。
「あ……」
妙な音がした直後、ククルが顔を赤くする。
「……す、すみません。自分のお腹の音であります……」
ものすごく恥ずかしそうだった。
「まあ……気持ちはわかるから、気にしない方がいいよ」
「そうそう。それよりも、早く注文しよう!」
メニューを広げて、三人であれこれと話しながら注文を決めた。
店員さんを呼び注文を済ませた後、ユスティーナがこちらを見る。
「えっと……アルト」
「うん?」
「悪いんだけど、ちょっとだけ席を外してくれないかな?」
「「え?」」
俺とククルの驚きの声が重なる。
まさか、ククルと二人きりになりたい、なんて言うとは。
最初から、こうなることを考えていたのだろうか?
俺がいたらまずい話というか……
たぶん、女の子同士の秘密の話というヤツだろう。
「わかった。それじゃあ、少し外の空気を吸ってくるよ」
「5分くらいでいいからね」
「ああ」
秘密の話は、たぶん、ククルの悩みに関することなのだろう。
後はユスティーナに任せることにして、俺は店の外に出た。
――――――――――
「えっと……?」
ユスティーナと二人きりになったククルは、困惑の色を顔に貼りつける。
いったい、二人きりでなにを話すというのか?
アルトには聞かせられないこととは、なんだろうか?
「ごめんね。ちょっと強引なことをしちゃって」
「いえ、それはいいのでありますが……どうしたのでありますか?」
「特になにかある、っていうわけじゃないんだ。ただ、言っておきたいことがあって」
「言っておきたいこと……ですか」
ククルは身構えた。
ユスティーナのことだから、アルトに関することかもしれない。
というか、それ以外の可能性が思い浮かばない。
ボクのアルトに近づかないで。
勘違いしたらダメだからね?
そんな、ちょっと失礼な想像をする中……
「よくわからないけど、なにかあったら、ボクが力になるからね?」
まったく予想外のことを言われてしまう。
「……えっと?」
「なにか悩みがあるんでしょ?」
「あ、はい。そう……ですね」
「それを無理に聞き出そうとしないし、そのまま話さなくてもいいんだけど……でもでも、一人で抱え込むのは大変だと思うんだ。だから、そういう時はボクが力になるからね」
「それは……」
「アルトも同じことを言うと思うし、たぶん、すでに似たようなことは考えていると思うけど……もしかしたら、女の子にしか話すことができないようなものかもしれないよね? だから、まずはボクが話をしておこう、って思ったの」
「なるほど……」
アルトがどうのこうの、と考えてしまった自分が恥ずかしい。
ククルは情けない気持ちになり、心の中でユスティーナに謝罪する。
それから、彼女の言葉を繰り返す。
ホークの件で、自分は思っている以上に落ち込んでいるみたいだ。
それをユスティーナが察して、こんな話をしてくれた。
とてもうれしいことであり、沈んでいた気分がわずかに浮上する。
「エルトセルクさんは……どうして、自分に優しいのでありますか?」
「うん? うーん……優しいかな?」
「優しいであります。自分がエルトセルクさんだとしたら、アルト殿をとられるかもしれないと思い、もっと厳しくしていたかもしれません」
「なるほどねー。そういう気持ち、ボクもなくはないんだけど……でも、ククルはボクの友達だからね」
「友達……で、ありますか?」
「うん。ククルはボクの友達だよ」
ユスティーナはにっこりと笑いつつ、そんなことを言うのだった。
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