表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/459

16話 助けられる側から助ける側へ

「つまり、アルトの身体能力は今、とんでもないことになっているんだよ」


 試験が終わり、その夜。

 寮の部屋で、俺は試験のことについて、ユスティーナの説明を受けていた。


「竜の枷で一ヶ月間、重力が2倍の状況で過ごしていた。栄養ドリンクで成長も促されていた。これって、大体10年分くらいの特訓効果があるんだよ」

「10年って……本当なのか?」

「ウソなんて言わないよ。まあ、適当計算だけど……それくらいはあると思うよ」


 ついつい驚いてしまったけれど、納得の話だった。

 10年分もの効果を得たのならば、あれだけの力を得ることも可能だろう。


「……っ……」


 ブルリと体が震えた。

 俺は強くなっている。

 もしかしたら、このまま英雄になれることも……


「でも、調子に乗ったらダメだよ」


 オレの心を見透かした様子で、ユスティーナが釘を刺すように言う。


「竜の枷の特訓のおかげで、確かに、アルトの身体能力は大きく向上したよ。でも、世の中全体で見ると、まだまだだよ。アルトより上の人はたくさんいる。それに、身体能力が上昇しただけで、戦闘技術は磨かれていないからね」

「今の俺は力だけで、その他はなにもない、ということか……」

「厳しい言い方をするけど、その通りかな」


 浮かれていた自分を諌める。

 色々あったことで、調子に乗りかけていたが……

 そんなことになってもロクなことにならないだろうな。


「ありがとう、ユスティーナ」

「ふぇ? なんでお礼を言われるの?」

「諌めてくれただろ。ユスティーナの言葉がなければ、俺は調子に乗って、とんでもないミスをしていたかもしれない。だから、ありがとう」

「アルトは謙虚だね。ちょっとくらい、自慢してもいいし、調子に乗ってもいいと思うのに」

「普通の竜騎士になるだけなら、それでもいいかもしれないが……俺は、英雄になりたいんだ。目指すところが遥か上だから、しっかりしないとな」

「なら、ボクはそのサポートをしてあげる」

「頼りにしてもいいか?」

「もちろん!」


 ユスティーナはとびっきりの笑顔で頷いた。




――――――――――




 俺こと、アルト・エステニアは平凡な存在だ。


 アルモートの田舎町の宿の息子として生を受けた。

 実はやんごとなき身分の血が流れている……なんてことはない。

 特筆するようなことは何一つない。

 ごく普通の子供だ。


 近所の同世代の子供たちと一緒に、日が暮れるまで遊んで……

 週に二回、学校に通い知識を学ぶ。

 アルモートは豊かな国で、国民の教育にも力を入れているのだ。

 もっとも、子供にとって勉強なんてものは退屈で、渋々通っていたことを覚えている。


 そんな当たり前の日々を過ごしていた。

 何事もなければ、俺は普通の大人に成長して……

 そのまま両親の宿を継いでいただろう。


 しかし……ある日、俺の人生の転換点が訪れた。


 ある日のことだ。

 友達と遊んでいた俺は、ついつい遠出をしてしまい、一人、迷子になってしまった。

 街の外は魔物がいるから危険と言われていたのに、気がつけば外に出てしまっていた。


 帰り道がわからず、かといってどうすることもできず。

 半分泣きながら、必死になって街に戻る道を探していた時……魔物に襲われた。


 生きた心地がしなかった。

 あの時は、ここで死ぬんだと思った。


 そんな時、空から竜が舞い降りてきた。

 竜は俺を守る盾となり……

 そして、その背に乗っていた騎士が魔物を蹴散らした。


 竜騎士だ。


 竜と共に空を翔けて、敵を討つ。

 その力を見た俺は、一瞬で惚れ込んでしまった。

 強い憧れを抱いた。


 俺も竜騎士になりたい。

 強くなりたい。

 そして……誰かを助けたい。


 その思いは時間が経っても消えることはなくて、むしろ、日に日に膨らんでいき……

 俺は、竜騎士学院に入学することを決意した。


 それが俺の原点だ。

 英雄に憧れる心の出発点だ。


 自分が助けられたように、誰かを助けることができる存在になりたい。

 そのための力が欲しい。

 だからこそ、英雄になりたい。


 そんな思いがあるから、セドリックに絡まれていた女の子を助けた。

 ユスティーナを助けた。


 俺にできることがあると信じて……

 たぶん、これからもそうしていくのだと思う。


 それが、俺が俺らしくあるということなのだから。




――――――――――




「アルトー!」


 とある日の放課後。

 授業が終わると同時に、ユスティーナが笑顔で抱きついてきた。


「お、おい。いきなりなにをする」

「愛情表現。えへへー」

「いや、ダメだろう。離れろ」

「えー、なんでー?」

「なんで、と言われても……」


 ユスティーナの体は、失礼だが、起伏に乏しい。

 でも、なんだかんだでしっかりとした女の子なので、あちこち柔らかくて……

 それに、甘いようないい匂いもして……


 って、そんなことを真剣に考えるなんて、俺は変態か。


 とにかくも、抱きつかれるのはまずいので、そっと引き離しておいた。


「もう、アルトは照れ屋さんだなあ。でも、そういうところもかわいくて好き♪」


 めげないユスティーナであった。


「……っ……」


 ふと、クラスメイトと目が合う。

 こちらを見ていたらしい。

 ただ、目が合うとすぐに逸らされてしまった。


 セドリックが消えて、試験で実力を示して、ユスティーナがいて……

 そのおかげで、いじめられることはなくなった。

 だた、クラス内で浮いていることは変わらない。

 今更、クラスメイトもどう接していいかわからないのだろう。


 俺としては、仲良くしたい。

 一部はセドリックのいいなりだったが……その他、大半のクラスメイトは無関係で、いじめられたことはない。

 見て見ぬ振りをされただけだ。

 自分も目をつけられてしまうかも、という恐れはよくわかるので、そこについては責めることはできない。


 だから、俺は気にしていない。

 同じように、クラスメイトも気にするのをやめてくれればいいのだけど……

 なかなか難しいか。


「どうしたの、アルト?」

「……いや、なんでもない。帰るか」

「うんっ……と言いたいところなんだけど、ボク、ちょっと用事があるんだよね。ごめんねだけど、アルトは先に帰っててくれないかな?」

「珍しいな。どんな用事なんだ? 手伝えることがあるなら手伝うが……」

「えっと……さ、さすがにそれはまだ早いというか、心の準備ができていないというか……一人がいいかな」


 なんで照れるんだ?


「えっと、その……パンツを買いに行きたいなあ、って」

「そ、そうか……すまない。変なことを聞いた」

「ううん、気にしないで! 今はまだ恥ずかしいけど……でもでも、いつかアルトの好みのパンツを教えてくれるとうれしいな」


 非常に反応に困る話を振らないでほしい。

 とりあえず、聞こえなかったことにした。


 その後、校舎を出たところでユスティーナと分かれて一人になった。

 寮に続く道をまっすぐに歩いていく。


「……うん?」


 校舎の影……人目につきにくいところに複数の生徒がいた。

 どちらも男子生徒だ。

 一人を三人が取り囲んでいる。


 揉めているらしく、口論となっていた。

 だからこそ、俺が気づくことができたのだけど……


「って、おいおいおい」


 三人組がいきなりキレて、一人を殴り始めた。

 果敢にも応戦するが、三対一はさすがに厳しいらしく、あっという間に押されていく。


「訓練用の槍もないが……ええいっ、仕方ないか!」


 放っておくことはできず、急いで駆け出した。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
この辺りの話しも好みで「暗殺教室」での力とは弱きものを守るために使う。相手を傷つけることには決して使わない。力に酔ってしまうことのなきようにとの教訓が出てるシーンですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ