表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/459

158話 思わぬ提案

「……え?」


 突然の展開に頭がついていかず、王の問いかけに対してぽかんと問い返してしまうという、失礼を働いてしまう。


 そんな俺のミスを咎めることはない。

 こちらが理解することを待つというように、しばしの間を置いた後、王は再び問いかけてくる。


「今すぐ、そなたを正規の竜騎士として採用したいと思うが、どうだろうか?」

「俺を……正規の竜騎士に?」


 ようやく、王の言葉の意味を理解できた。

 でも、その真意はまったく不明で、逆にますます混乱してしまう。


「えっと……す、すみません。質問に質問を返す無礼をお許しください」

「うむ、構わぬ」

「正規の竜騎士に、というのは……どういうことなのですか?」

「言葉の通りだ。そなたは今、学生の身分ではあるが……その過程を飛ばし、正規の竜騎士として働いてもらいたい、というものになる」


 ということは……

 憧れであった竜騎士になることができる?

 夢を叶えることができる?


「すごいすごい! やったね、アルトっ」


 隣に座るユスティーナは、自分のことのように喜び、こちらに抱きついてきた。

 顔には満面の笑み。

 そうして、全身で喜びを表現している。


 一方の俺はというと、未だ現実感が湧いてこなくて、ぼーっとしたままだ。


 そんな俺たちを見て、王は苦笑する。


「驚いているようだな?」

「それは、えっと……はい、すみません」

「なに、謝ることはない。わしがそなたの立場であれば、同じく驚いていただろう」

「えっと……どういうことなのか、詳しく聞いてもいいですか?」

「もちろんだ。今から、詳しいことを説明しよう」


 王曰く……


 以前から俺に目をつけていたらしい。

 ユスティーナに好意を寄せられているからという理由だけではなくて、数々の事件に関わり、解決に導いていると評価したという。


 国を守る竜騎士は一人でも多い方がいい。

 というか、今は足りていないらしい。

 それ故に、先の事件でリベリオンの暗躍を許す結果になってしまった。


 そんな事情があるために、すぐに竜騎士として採用したい……とのこと。


 俺なんかが……

 と思わないでもないのだけど、王が言うには、実力も功績も十分とのこと。

 まずは正規の竜騎士として採用。

 そして経験を積んだ後、部隊を任せてもいいのでは? と考えているらしい。


 とんでもない話だった。


「どうだろうか?」

「えっと……」

「聞くところによれば、そなたは英雄に憧れているのだろう? 正規の竜騎士になることで、その夢に大きく近づくことができるはず。悪くない話だと思うが」

「そう、ですね……」


 悪くないどころか、とんでもなくうれしい話のはずだ。

 なのだけど、即答することができない。

 自分でもよくわからないのだけど、言葉にできない迷いがある。


 この気持ちは、いったい……?


「あれ? ちょっとまって」


 あれこれと考えていると、ふと思いついた様子でユスティーナが口を開く。


「アルトが正規の竜騎士になることはうれしいんだけど……そうなると、学院はどうなるの? 卒業?」

「そうだな。いくらかの手続きを踏んだ後、過程を飛ばして卒業……という形になるだろう」


 公の場ではないからか、ユスティーナは王にタメ口をきいていた。

 すごいというか、度胸があるというか……


 でも、立場を考えるとそれが自然なのか?

 むしろ、王が敬語を使わなければいけないのか?

 なかなかに迷う場面だ。


「えーっ、それじゃあボク、アルトと一緒にいられないじゃん。アルトと一緒にいるために学院に入学したのに、意味なくなっちゃうよ」

「そのことについて、エルトセルク嬢に頼みたいことがある」

「ほへ?」

「あなたは、アルト・エステニアを好いているとのこと。そして、彼専用の騎竜になりたいとも」

「うん、そうだねー。アルトなら、ボクの全部、あげちゃう」


 その言い方、誤解を招きそうなのだが……


「そこで、だ。エルトセルク嬢も、一緒に来てもらいたい。そして、彼専用の騎竜になり、共に戦場を駆け抜けてほしい」

「ボクも一緒に?」

「それならば、彼と一緒にいられるだろう。悪くない話だと思うが?」

「おー……」


 王の言葉を受けて、ユスティーナは顎に手をやり、考えるような顔に。

 そのままの体勢で固まること少し。


「いいねっ、それ!」


 ややあって、にっこりと笑みを浮かべた。

 どうやら、王の提案をお気に召したらしい。

 俺と一緒に空を翔けるところを想像しているらしく、目がキラキラと輝いている。


「アルトッ、アルトッ! 一緒にがんばろうね」

「い、いや……待ってくれないか? まだ返事をしたわけじゃないんだが……」

「あれ? 断るの? 竜騎士になるのが夢なのに?」

「それはそうなんだが……」


 王は俺のことを評価してくれているが、そこまでの力があるかどうか自信はない。

 これまで色々な事件に遭遇して、解決に導いてきた。

 それは確かであり、多少の自負はある。


 ただ、それは決して、俺一人で成し遂げたことではない。

 頼りになる友達がいたからこその話だ。

 それに、ユスティーナのおかげという意味も強い。


 そんな迷い。


 付け足すのならば、さきほども言ったのだけど、言葉にしづらい想いが俺の心を、行動を縛っている。

 今すぐに即答することができなくて、返事を保留にしてしまう。


「……すみません。少し時間をいただけませんか?」

「即答はできぬか?」

「はい……可能ならば、色々と考えたいです」

「わかった。焦る必要はない故、じっくりと考えるといい」

「ありがとうございます」


 もともと、この場で返事をもらえると思っていなかったらしく、王はあっさりと了承してくれた。

 急な話であると、さすがに自覚しているのだろう。


「話は終わり? なら、ボクとアルトは帰るよ?」

「うむ。ああ、いや……」


 今度は王が迷うような素振りを見せた。


「本来ならば、もう一つ、話があるのだが……」

「なんでしょう?」

「……いや。この話については、そなたの返事をもらった後でいいだろう。場合によっては、他の者に頼むことになるかもしれぬからな」

「そうですか……?」


 もう一つ、用事があったらしいが、いったいどんなことなのだろう?

 疑問に思うけれど、王が話を引っ込めた以上、無理に問いかけることはできない。


 というか、今は他のことを考えている場合ではない。

 俺はどうするべきなのか?

 これから先のことを考えないといけないな。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] こんな場合のお願いと言えば、王女様を嫁にもらってくれないかとかいうのが定番。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ