158話 思わぬ提案
「……え?」
突然の展開に頭がついていかず、王の問いかけに対してぽかんと問い返してしまうという、失礼を働いてしまう。
そんな俺のミスを咎めることはない。
こちらが理解することを待つというように、しばしの間を置いた後、王は再び問いかけてくる。
「今すぐ、そなたを正規の竜騎士として採用したいと思うが、どうだろうか?」
「俺を……正規の竜騎士に?」
ようやく、王の言葉の意味を理解できた。
でも、その真意はまったく不明で、逆にますます混乱してしまう。
「えっと……す、すみません。質問に質問を返す無礼をお許しください」
「うむ、構わぬ」
「正規の竜騎士に、というのは……どういうことなのですか?」
「言葉の通りだ。そなたは今、学生の身分ではあるが……その過程を飛ばし、正規の竜騎士として働いてもらいたい、というものになる」
ということは……
憧れであった竜騎士になることができる?
夢を叶えることができる?
「すごいすごい! やったね、アルトっ」
隣に座るユスティーナは、自分のことのように喜び、こちらに抱きついてきた。
顔には満面の笑み。
そうして、全身で喜びを表現している。
一方の俺はというと、未だ現実感が湧いてこなくて、ぼーっとしたままだ。
そんな俺たちを見て、王は苦笑する。
「驚いているようだな?」
「それは、えっと……はい、すみません」
「なに、謝ることはない。わしがそなたの立場であれば、同じく驚いていただろう」
「えっと……どういうことなのか、詳しく聞いてもいいですか?」
「もちろんだ。今から、詳しいことを説明しよう」
王曰く……
以前から俺に目をつけていたらしい。
ユスティーナに好意を寄せられているからという理由だけではなくて、数々の事件に関わり、解決に導いていると評価したという。
国を守る竜騎士は一人でも多い方がいい。
というか、今は足りていないらしい。
それ故に、先の事件でリベリオンの暗躍を許す結果になってしまった。
そんな事情があるために、すぐに竜騎士として採用したい……とのこと。
俺なんかが……
と思わないでもないのだけど、王が言うには、実力も功績も十分とのこと。
まずは正規の竜騎士として採用。
そして経験を積んだ後、部隊を任せてもいいのでは? と考えているらしい。
とんでもない話だった。
「どうだろうか?」
「えっと……」
「聞くところによれば、そなたは英雄に憧れているのだろう? 正規の竜騎士になることで、その夢に大きく近づくことができるはず。悪くない話だと思うが」
「そう、ですね……」
悪くないどころか、とんでもなくうれしい話のはずだ。
なのだけど、即答することができない。
自分でもよくわからないのだけど、言葉にできない迷いがある。
この気持ちは、いったい……?
「あれ? ちょっとまって」
あれこれと考えていると、ふと思いついた様子でユスティーナが口を開く。
「アルトが正規の竜騎士になることはうれしいんだけど……そうなると、学院はどうなるの? 卒業?」
「そうだな。いくらかの手続きを踏んだ後、過程を飛ばして卒業……という形になるだろう」
公の場ではないからか、ユスティーナは王にタメ口をきいていた。
すごいというか、度胸があるというか……
でも、立場を考えるとそれが自然なのか?
むしろ、王が敬語を使わなければいけないのか?
なかなかに迷う場面だ。
「えーっ、それじゃあボク、アルトと一緒にいられないじゃん。アルトと一緒にいるために学院に入学したのに、意味なくなっちゃうよ」
「そのことについて、エルトセルク嬢に頼みたいことがある」
「ほへ?」
「あなたは、アルト・エステニアを好いているとのこと。そして、彼専用の騎竜になりたいとも」
「うん、そうだねー。アルトなら、ボクの全部、あげちゃう」
その言い方、誤解を招きそうなのだが……
「そこで、だ。エルトセルク嬢も、一緒に来てもらいたい。そして、彼専用の騎竜になり、共に戦場を駆け抜けてほしい」
「ボクも一緒に?」
「それならば、彼と一緒にいられるだろう。悪くない話だと思うが?」
「おー……」
王の言葉を受けて、ユスティーナは顎に手をやり、考えるような顔に。
そのままの体勢で固まること少し。
「いいねっ、それ!」
ややあって、にっこりと笑みを浮かべた。
どうやら、王の提案をお気に召したらしい。
俺と一緒に空を翔けるところを想像しているらしく、目がキラキラと輝いている。
「アルトッ、アルトッ! 一緒にがんばろうね」
「い、いや……待ってくれないか? まだ返事をしたわけじゃないんだが……」
「あれ? 断るの? 竜騎士になるのが夢なのに?」
「それはそうなんだが……」
王は俺のことを評価してくれているが、そこまでの力があるかどうか自信はない。
これまで色々な事件に遭遇して、解決に導いてきた。
それは確かであり、多少の自負はある。
ただ、それは決して、俺一人で成し遂げたことではない。
頼りになる友達がいたからこその話だ。
それに、ユスティーナのおかげという意味も強い。
そんな迷い。
付け足すのならば、さきほども言ったのだけど、言葉にしづらい想いが俺の心を、行動を縛っている。
今すぐに即答することができなくて、返事を保留にしてしまう。
「……すみません。少し時間をいただけませんか?」
「即答はできぬか?」
「はい……可能ならば、色々と考えたいです」
「わかった。焦る必要はない故、じっくりと考えるといい」
「ありがとうございます」
もともと、この場で返事をもらえると思っていなかったらしく、王はあっさりと了承してくれた。
急な話であると、さすがに自覚しているのだろう。
「話は終わり? なら、ボクとアルトは帰るよ?」
「うむ。ああ、いや……」
今度は王が迷うような素振りを見せた。
「本来ならば、もう一つ、話があるのだが……」
「なんでしょう?」
「……いや。この話については、そなたの返事をもらった後でいいだろう。場合によっては、他の者に頼むことになるかもしれぬからな」
「そうですか……?」
もう一つ、用事があったらしいが、いったいどんなことなのだろう?
疑問に思うけれど、王が話を引っ込めた以上、無理に問いかけることはできない。
というか、今は他のことを考えている場合ではない。
俺はどうするべきなのか?
これから先のことを考えないといけないな。
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