157話 今後のこと
事件から一週間が経った。
傭兵や魔物は当日のうちに拘束、討伐された。
しかし、これだけ大きな事件のため、そうそう簡単に混乱は収まらない。
残存勢力の捜索、及び討伐。
本格的な活動を開始した、リベリオンの調査。
被害状況の把握と、救援策の適用。
徹底した防衛策とその見直し。
……などなど。
やるべきことは山積りで、未だあちらこちらが慌ただしく動いている。
そんな中、俺は王城に赴いていた。
いつかのように、勲章を授かるというわけではない。
いや。
勲章を授かることは、ほぼほぼ決定済のことらしい。
ただ、まだ混乱が続いている。
勲章の授与は事件の後片付けが落ち着いてから、ということになったという。
それなのに、なぜ王城に呼ばれたのか?
しかも、俺とユスティーナだけ。
ものすごく謎であり、ともすれば、なにが起きるかわからないという不安もあった。
とはいえ、王の呼び出しを無視するなんてこと、できるわけがないため、なにがあろうと王城に行かなければいけないのだが。
「こちらでお待ちください」
王城を訪ねた俺とユスティーナは、客間に案内された。
俺たち学生のために使われるような客間ではなくて、国賓などをもてなすような、豪華な客間だ。
綺麗な細工が施された調度品や美術品。
それだけではなくて、花なども飾られている。
さわやかな香りがふわりと漂い、心を落ち着けてくれる……なんてことはない。
「……落ち着かないな」
向こうの目的がわからず、王城に呼び出された。
これほど心がかき乱されることはないだろう。
悪いことをした覚えはない。
普通に考えて、先の事件に関連することだろう。
リベリオンについての調査のため、聞き取りを行うか……あるいは、それに関連した事に協力してほしいという話か。
そんなところだろうと予想しているが、それが当たっているという保証はなく……
情けないことではあるが、俺は客間をうろうろと、落ち着きなく歩き回っていた。
「アルトー、このお菓子おいしいよ、はぐはぐっ」
ユスティーナは緊張なんて無縁らしく、あらかじめ置かれていたお菓子に手をつけていた。
紅茶も自分で淹れたらしく、ほっこりとした顔で飲んでいる。
彼女の神経が図太いのは、竜だからなのか。
それとも、個性によるものなのか。
どちらかというと、後者のような気がした。
「またせたな」
「い……えぇっ!?」
客間の扉が開いて姿を見せたのは……王だった。
護衛らしき騎士と従者らしき人を伴っている。
まさか、王が姿を見せるなんて。
予想外のことに、ついついぽかんとしてしまい、
「……はっ!? し、失礼しました!」
慌てて膝をついて頭を下げた。
「よい。そなたはわしの客人のようなもの。どこの国に、客人を頭を下げさせて喜ぶ主がいるだろうか」
「そうそう、アルトは気にしすぎだよ」
頼むから、ユスティーナはもう少し気にしてほしい。
彼女はいつもと変わらない様子で、のんびりとソファーに腰掛けていた。
さすがに、お菓子を食べるのは止めているみたいだが……
どのようにしたら、そこまで落ち着くことができるのか。
今度、心を強くする秘訣などを聞いてみたいと思う。
というか、この前の叙勲式の時は、しっかりと膝をついて頭を下げていたのだが……
あの時はあの時、今は今。
その時で気分や行動が変わるのだろうか?
彼女らしいとも言えるが、傍にいると心臓が痛くなることが多くなりそうだ。
「さあ、そなたも座るがいい」
「は、はい。失礼します」
王がソファーに座り、その対面……ユスティーナの隣に俺も腰を落ち着けた。
まさか、こうして、直接王と話をすることになるなんて。
まったくの予想外の出来事に、手汗が止まらない。
それなりの修羅場をくぐり抜けてきたという自負はあるが……
それらとはまったくの別の緊張感が襲い来る。
「さて……まずは、詫びなければならぬな。先の事件で、そなたは再び大きな活躍を示してみせた。本来ならば、すぐにそのことを労わなければならぬのだが、まだまだ混乱が続いている。それ故に遅れることとなり、そのことを詫びよう」
「い、いえっ、そんな!」
王という立場故に、頭を下げることはしない。
そんなことを軽々としていたら、低く見られてしまうからだ。
だからこそ、その謝罪の言葉が最大限の誠意であり、本心であることがわかる。
まさか、王からそんな言葉をいただくことになるなんて……
俺は今、夢でも見ているのだろうか?
このような場でなければ、自分の頬をつねっていたかもしれない。
失礼以外の何者でもないため、さすがに控えたが。
「えっと……その……今回は、どうしてこのような?」
「混乱しているようだな」
「それは、まあ……はい」
「むっ……ボクのアルトを困らせている?」
ユスティーナがちょっとだけ不機嫌そうになり、護衛の騎士と従者らしき人がビクリと震える。
しかし、王は特に反応はない。
さすが、一国を束ねる者、と言うべきか。
「困らせるつもりはないのだ。ただ、余計な者を間に入れず、きちんと顔を合わせ、一度話をしてみたいと思ったのだよ」
「なるほど……?」
納得できるようで理解できない話だ。
なぜ、王は俺に興味を持つのだろう?
先の事件に関して、それなりに深く関わっていたものの、大したことはしていない。
活躍度で言うならば、ユスティーナやククルの方が圧倒的に上だ。
礼を言うのならば彼女たちであり……あるいは、力を貸してくれた竜……ユスティーナの両親だろう。
それなのに、なぜ俺と話をしたいと望むのか?
王の考えていることがわからず、ついつい眉をひそめてしまう。
そんな俺の反応を楽しそうに見た王は、笑みを携えつつ言う。
「そなたはあまり自覚しておらぬようだが……先の事件だけではなく、多くの事件を解決に導いている。それは英雄と呼ぶにふさわしい行いなのだよ」
「そんな、俺なんて……」
「アルトは謙遜がちょっとすぎるかな? もっと、俺がやったんだぞー、って胸を張ってもいいと思うよ」
「無茶を言わないでくれ」
「いや、竜の王女の言う通りだ。わしは、そなたは英雄にふさわしいと思っている。確かにまだ若く、実力も荒削りなところがあるだろう。しかし、真の英雄に求められることはそのようなものではない。人を惹きつけ、導くことができる力こそが、英雄の条件であると思う」
「……導く……」
「そして、そなたは十分にその条件を満たしていると、わしは判断した」
王の声音、表情が厳かなものに変わる。
ここからが本題なのだろう。
いったい、どんなことを告げられるのか? どんな話をされるのか?
緊張しつつ、王の話にしっかりと耳を傾ける。
「この国……アルモートでは、そなたのような英雄を求めている。どうだろうか? 学院の過程を飛ばし、今すぐに正規の竜騎士とならぬか?」
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