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154話 どこで計算が?

 開幕……いきなり、一つの頭が潰されたものの、まだ七つの頭が残っている。

 戦力は半減していないし、ほんの少し、ダメージを受けた程度に過ぎない。

 潰された頭も、時間が経てばそのうち再生する。


 問題ない。

 問題ないはずだ。


「グルァアアアアアッ!」


 七つの頭を鞭のように振るい、敵を狙う。

 さすがに、これだけの質量を真正面から受け止めようとするバカはいない。

 アルトを始め、大きく跳躍するなどして避けている。


 ただ、それはヒュドラの狙い通りだ。


 避けた直後は、どうしても体勢が崩れてしまい、動きが鈍る。

 そこを狙い、連撃を叩き込めばいい。


 そう考えていたのだけど、


「これくらいっ!」

「負けないでありますっ!」


 ヒュドラの攻撃を真正面から受け止めるバカが二人いた。

 ユスティーナとククルだ。

 圧倒的な身体能力を武器にして、本来ならできるはずないことを成し遂げてしまう。

 ヒュドラの突撃が受け止められて……それだけではなくて、痛烈なカウンターを食らう。


 相手は普通の人ではなくて、聖騎士だ。

 しかも、もう片方は人ですらなくて、竜。

 それなりの力を持っているだろうと理解していたが、だからといって、これだけの質量差があるというのに、受け止めることができるなんて思わない。

 蹴散らして終わり、が一般的な展開のはずだ。


 しかし、そんな常識が二人には通用しない。


 いや……もう一人、常識から外れた行動をとる者がいた。


「はぁあああああっ!」


 アルトだ。

 竜でも聖騎士でもない。

 普通の人間のはずなのに、普通の人間ではありえないような動きをして迫り、鋭い攻撃を繰り出してくる。


 その攻撃は、ユスティーナよりも軽い。

 ククルよりも遅い。


 それなのに、どんな相手よりも厄介に感じた。

 アルトの放つ攻撃は鋭いけれど、大きなダメージはない。

 ただ、その攻撃がきっかけとなり、ユスティーナやククルが動いて、強烈なダメージを伴う攻撃を繰り出してくる。


 アルトが攻撃をすることで、ヒュドラの隙を作り出しているのだ。


 ありえない。

 ただの人間にそんなことができるわけがない。

 実は竜でした、聖騎士でした、と言われた方が納得できる。


 しかし、事前の調査では、アルトは普通の人間だ。

 なんの血筋もない、ごくごく平凡な一般市民だ。

 それなのに、この力はどういうことか?

 彼を中心にユスティーナやククル、他の学生たちが一つにまとまり、団結している。

 この力はいったい……?


「グッ……ガァアアアアアッ!!!」


 負けてたまるものか。

 ヒュドラは残り七つの頭を高く上げて、その全てからブレスを放つ。


 極大の熱と光が、辺り一帯を余すことなく飲み込んでいく。

 地面がえぐれ、岩が砕け、溶ける。

 学院をぐるりと囲む壁も、一瞬で吹き飛んだ。


 必殺の一撃だ。

 それなりの体力を消費するため、連射はできないが、問題はない。

 これで、敵は一掃されたはず。


 はずなのだけど……


「「おおおおおぉっ!!」」

「っ!?」


 粉塵の中から、アルトとユスティーナが飛び出してきた。


 ユスティーナは竜であるため、もしかしたら耐えたかもしれない、という予感はあった。

 しかし、アルトはどういうことだ?

 普通の人間が、今の攻撃に耐えられるわけがない。


 いや、アルトだけではない。

 煙が晴れると、他の学生たち姿も見えてきた。

 いずれも怪我を負っている様子はなくて、すぐに攻撃を再開する。


 どういうことだ? とヒュドラが混乱していると、その答え合わせをするように、アルトがニヤリと笑う。


「ヒュドラっていうのは予想外ではあったが……アベルが竜の力を利用することは、予想していた。だから、そのための道具を借りておいたのさ」


 よく見てみると、地面に特殊な形をした短剣が刺さっていた。

 それを起点に、光の膜……結界が生成されている。


 竜の力を封じるものを応用した、防御用の結界だ。

 力ではなくて攻撃を防ぐためのもの。


 そのようなものが用意されているなんて。

 先手を打ち続けたはずなのに、気がつけば後手後手に回ってしまっている。


 おかしい。

 おかしい。

 おかしい。


 自分は、どこで手を間違えた?

 どうして、このような劣勢に追い込まれている?


 この日のために、綿密な計画を練り上げたはずなのに。

 ゼノの研究を利用して、竜の心核を複数使うという、切り札も生み出したはずなのに。


 それなのに追いつめられている。

 なぜ、こんなことに?


 ヒュドラと化したアベルは、どうして? なぜ? という疑問で頭の中がいっぱいになる。

 混乱さえ覚えてしまい、動きを止めてしまう。


 ここぞとばかりに、アルトとユスティーナ、それにククルが攻撃の手を激しくした。

 絶対に倒すという意思を前に出して、果敢に攻めてくる。


 その姿を見て、ふと、ヒュドラはなんともいえない寂しさを覚えた。

 そして、アルトとユスティーナ……その二人だけに視線が固定される。


 二人の息はぴったりだ。

 あらかじめ練習をしていたのではないかと思うほどに連携がとれている。


 うらやましい。

 妬ましい。


 ヒュドラは、そんなことを思う。

 自分は失敗したのに。

 竜と良い関係を築くことはできず、裏切られたというのに。


 なぜ、アルトとユスティーナはうまくいっているのだろうか?

 なぜ、一緒に行動して、笑うことができるのだろうか?

 自分にはできなかったことなのに、どうして二人だけが……


「グゥウウウウウ……」


 ヒュドラの心が嫉妬と憎しみで満たされていく。

 ただの八つ当たりに過ぎないのだけど、それを自覚することはできない。

 そんな正常な思考は残されていない。

 残されているものは、ただの破壊衝動と負の感情だけ。


 それをうまく処理する方法なんてないし、あったとしても、今の心の状態ではきちんと対処することはできない。

 ただただ、暴れて発散することしかできない。

 子供が泣いて喚き散らすように……唯一、できることが暴れることだけなのだ。

 それだけが、ヒュドラに残された道なのだ。


「ガァアアアアアッ!!!」


 悲鳴のような雄叫びを響かせて、ヒュドラは最後の攻撃を繰り出すのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] >なぜ、アルトとユスティーナはうまくいっているのだろうか? >なぜ、一緒に行動して、笑うことができるのだろうか? >自分にはできなかったことなのに、どうして二人だけが…… アルトはね、誰か…
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