153話 明日のための戦いを・その4
「「おぉっ!!」」
最初に飛び出したのは、グランとテオドールだ。
力強いかけ声を響かせながら、それぞれの武器を大きく振るう。
ガッ!
二人の武器は、それなりに名のある業物なのだろう。
竜の鱗を完全に突破することはできないものの、わずかに傷をつけることに成功する。
「ガァッ!!!」
それがどうした、と言うようにヒュドラが吠えた。
山のような巨体を俊敏に動かして、グランとテオドールを押しつぶそうとする。
しかし、それを許さない者がいた。
「紅の七連っ!」
爆炎が連続して立ち上がる。
その数は7回。
ヒュドラを飲み込むほどに炎が大きく成長して、その威力をうかがわせる。
「これでも……食らいなさいっ!」
爆炎を隠れ蓑にして、ジニーが突撃した。
揺らめく炎の隙間から飛び出して、両手に持つ剣をヒュドラに突き立てる。
普通に考えて、その刃が通ることはないのだけど、
「グギャアッ!?」
ヒュドラが苦痛に悶えた。
ジニーは鱗と鱗の隙間を正確に狙ったのだ。
こんな状況で……しかも、敵は前代未聞の、複数の竜の頭を持つヒュドラ。
そんな相手に怯むことなく、最適解を導き出して、実行に移す。
相当な鍛錬を積まないと、こんなことはできないだろう。
「みんな、すごいな」
「ボクたちも負けてられないね」
「で、あります!」
とびきりの一撃を与えてほしい。
そんなことを口にするような感じで、みんなはヒット&アウェイを繰り返して、ヒュドラの注意を引く。
小刻みにダメージを与えていく。
その間に、俺たちは三手に分かれて駆け出した。
「いくでありますっ!」
ククルは巨大な剣を棍棒のように振るい、ヒュドラの頭の一つに叩きつけた。
刃を横にしているため、ガンッ! という良い音が響く。
聖騎士が使う武器とはいえ、竜の鱗を貫くことはなかなかに難しい。
それならば鱗を無視すればいい。
叩きつけるようにして、衝撃を中に伝える……そんな作戦なのだろう。
その試みは成功したらしく、一本のヒュドラの頭が苦しみ悶える。
「もう一撃、でありますっ!」
地面を蹴り、再び跳躍。
クルクルと宙で体を回転させて、その威力を乗せた一撃を放つ。
ゴンッ!
巨大な剣の腹が、ヒュドラの顔の横をおもいきり叩く。
歯が数本、飛ぶ。
それだけに終わらず、ゴォッ! と骨の折れる音が響いた。
残る頭は七つ。
「ユスティーナ!」
「うん、アルト!」
左右から挟み込むようにして、俺とユスティーナが駆けた。
最初に俺が、リミッターを外した状態の全力の一撃を放つ。
ジニーのように鱗と鱗の合間を狙うなんて器用な真似はできない。
かといって、ククルのような圧倒的な力にものを言わせる攻撃もできない。
ならば、どうするか?
「はぁっ!」
心を細く鋭く研ぎ澄ませる。
極限まで集中した後、ヒュドラの目を狙い、槍を投擲した。
竜の瞳も鉄のように硬い。
しかし、鱗に比べれば、硬度はかなり劣るはずだ。
頼む、成功してくれ!
半ば祈るようにしていると、
「ギゥッ……!?」
俺の攻撃はうまくいき、槍の矛先がヒュドラの瞳を貫いた。
瞳を潰して、なおかつ、その奥の脳にダメージを与えられればよかったのだけど……
さすがにそこまでうまくはいかなかったらしい。
瞳を潰しただけで終わり、槍が抜け落ちる。
でも、十分だ。
「えいやあああああぁっ!」
ヒュドラは、ユスティーナを一番に警戒していたみたいだけど……
一部の視界が潰されたことで、接近を許してしまう。
人に変身したままのユスティーナは、ヒュドラの懐に潜り込むと、その腹部に拳をめり込ませた。
竜は全身が鱗に覆われているわけではなくて、腹部など、一部は防御が薄い。
とはいえ、当然ながら、そこは敵も警戒する。
それに極限まで接近しなくてはいけないため、反撃を食らうリスクも高い。
それなのに、ユスティーナは迷うことなく懐に潜り込み、痛烈な一撃を浴びせた。
最初は、ヒュドラの異様な姿に萎縮してしまっていたみたいだけど……
もう吹っ切れたらしく、大胆に、そして強烈に攻撃をしかけている。
「ボクの学院とっ」
ユスティーナは拳を連打して、ヒュドラの腹部をこれでもかというほどに打つ。
「ボクの友達とっ」
ヒュドラが痛みに悶えて、彼女を振り払おうとデタラメに暴れる。
しかし、すでにユスティーナは後ろに跳んで射程圏外に逃れていた。
でも、そこで攻撃が終わり、なんていうことはない。
今度は近くの岩を持ち上げて、空高くジャンプ。
そのまま岩を武器代わりにして、ヒュドラをおもいきり殴りつける。
その行動もその威力も予想外だっただろう。
ヒュドラはひときわ大きな悲鳴をあげた。
「ボクのアルトに手を出すなぁあああああっ!!!」
さらに、隕石と化すように、本人が突貫。
ヒュドラの背中の辺りを強烈に打ち付けるのだった。
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