152話 明日のための戦いを・その3
かなり追いつめられているはずなのに、未だ笑うことができる。
この状況から逆転する方法があるというのか?
切り札を隠し持っているのか、それとも、ただのハッタリなのか。
その判断は難しいが、相手は子供とは思えない知能を持つアベルだ。
前者であると考えて、警戒をした方がいいだろう。
「僕は、竜を排除しなくちゃいけないんだ……それが、竜に全てを奪われた僕の使命なんだ……だから、こんなところで諦めるわけにはいかない。立ち止まるわけにはいかない。やめるなんてことは、絶対にできない」
おぞましいほどの執念を感じる。
全てを失い、6年……アベルは、ただただ、竜を排除することを考えてきたのだろう。
それこそが絶対的に正しいと信じて、歩き続けてきたのだろう。
それはもはや、怨念と呼んでもいい。
強烈な思いは大きな力となり、心と霊を縛りつけられている。
そんなアベルは、とんでもない強敵だ。
身体的な能力だけではなくて、心も強いだろう。
「僕は……負けないっ!!!」
「なっ!?」
なにを思ったのか、突然、アベルは己の胸に指を突き入れた。
鋭い爪が肉を貫き、血があふれだす。
それでも構うことなく、アベルは手をどんどん奥へ差し入れていく。
「おいっ、なにを!?」
「これだけは、と思って……いたん、だけどね……でも、二人を相手に余力なんて残しておけないみたいだ……なにもかも、かなぐり捨てる勢いでないと……そういうことなら、僕はっ!!!」
アベルは己の胸から竜の心核を取り出した。
それは他のものよりもサイズが一回り大きい。
それを……ガシッ、と握り潰す。
光があふれた。
太陽が間近に出現したのではないかと思うほどに、強烈な光だ。
とてもじゃないけれど目を開けていられなくて、腕を前にやり、光を遮る。
ややあって光が収まる。
目を開けると、そこにいたのは……
「これ、は……」
思わず絶句してしまう。
化け物と呼ぶしかない『モノ』が、そこにいた。
その体は、竜形態のユスティーナよりも大きい。
大きな翼に強靭な鱗。
体を支える太い四肢。
竜に似ているところもあるのだけど……
決定的に違うのは、その首の数だ。
巨大な胴体から、8つの首が生えていた。
それぞれに頭部を持ち、蛇のごとくうねっている。
複数の頭部を持つ竜……ヒュドラだ。
「これが、アベルの本当の切り札……というわけか」
まさか、人を辞めるなんて思ってもいなかった。
これだけのことをしてまで、人と竜の絆を絶ちたいなんて……
人の未来のためと言っていたが、やはり、アベルは竜が憎いのだろう。
家族を奪った竜を許せないのだろう。
だから、どんなことをしても排除しようとする。
……己を捨てても。
「ふざけたことを……これだけの力が、これだけの覚悟があるのなら、もっと他に大きなことができたはずなのに!」
やるせない気持ちで胸がいっぱいになる。
しかし、ここで打ちひしがれている場合ではない。
アベルと……ヒュドラと戦わないといけない。
そして、学院とそこにいる人たちを守らないと!
「うぅ……」
気合を入れる俺とは正反対に、ユスティーナの表情は暗い。
どことなく怯えているような感じだ。
「大丈夫か?」
「あ……」
彼女の手を握ると、視線がこちらへ。
その瞳は恐怖に揺れていた。
ユスティーナのこんな顔を見る時が来るなんて……
でも、それも仕方ないのかもしれない。
彼女は神竜ではあるが、でも、その前に一人の女の子なのだ。
俺と同じ15歳で、歴戦の戦士のような強い心は持っていない。
「ご、ごめんね、アルト……まさか、こんなヤツを相手にすることなるなんて……ボク……すごく怖いよ」
「俺がいる」
「え?」
「俺がユスティーナを支える。いつもそうしてくれたように、今度は、俺がユスティーナを助ける番だ。だから、遠慮なく甘えてほしい。存分に頼ってほしい」
「……アルト……」
「二人でアイツを倒そう」
「おっと、二人じゃないぜ」
そんな声が後ろから響く。
振り返ると……
「グラン!? それに、ジニーとアレクシアも……」
「テオドールと……あとククルとノルンまで」
みんな、勢揃いだった。
それだけじゃない。
名前も知らない生徒たちが、武器を手に、次々とこちらに駆けてくる。
「俺たちも、アルトとエルトセルクさんと一緒に戦うぜ」
「二人だけに任せておけないからね!」
「アルトさま、エルトセルクさん。私たちの力、思う存分に使ってください」
「敵は強大だが……なあに、僕らが一つになれば、できないことはないだろう」
「自分は、この時のためにアルモートに派遣されたのであります!」
「あうあうっ!」
とても頼もしい援軍だ。
実のところ、俺も恐怖に飲まれかけていた。
ユスティーナを励ましていたものの、やせ我慢をしていたところがあった。
でも、今はもう恐怖を感じない。
それどころか、次から次に勇気が湧いてきて、心が奮い立つ。
「ねえ、アルト」
こちらを見るユスティーナは、不敵な笑みを浮かべていた。
さきほどまでの弱気な姿はどこにもない。
「ボク、ちょっと間違っていたかも。アルトがいれば、なんでもできると思っていたけど……そうじゃないんだね」
ユスティーナはにっこりと優しく笑いながら、力強い調子で言う。
「みんながいれば、なんでもできるんだね!」
「ああ、その通りだ」
彼女の言葉からも勇気をもらう。
俺がいて、ユスティーナがいて、みんながいて……
これでもう完璧だ。
相手がヒュドラであれ、負ける気はしない。
「さあ、いこうか!」
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