150話 明日のための戦いを・その1
ユスティーナと並ぶように駆けて、同時に攻撃を繰り出す。
俺は槍を、彼女は拳を。
インパクトの瞬間をピタリと重ねることで、威力を増幅させた一撃だ。
「いい動きだね。でも……」
アベルは、両手で俺たちの攻撃を受け止めていた。
刃を素手で止めて、竜の一撃に耐える。
とんでもない身体能力だ。
「それくらいじゃあ、倒されてやるわけにはいかないね!」
アベルはカウンターとして、槍を横に薙ぎ払う。
ユスティーナは、それを腕を盾に受け止めようとして……
「受けるなっ、避けろ!」
「っ!?」
俺の言葉に即座に反応して、彼女は上体を逸らして槍を避けた。
こちらも同じように、前かがみになり刃から体を逃がす。
目標を捉え損ねた刃は、勢い余り地面の石畳に激突する。
ギィンッ、と金属が弾かれる音が……響かない。
ガッ! という鈍い音と共に、槍が石畳をバターのようにえぐり取る。
「……うそぉ」
ありえない威力に、ユスティーナが呆然とした。
「複数の竜の力を得たアベルが使う武器だ。おそらく、とんでもなく頑丈にできているんだろうな」
「正解。そんな得物を僕が使うと、とんでもない凶器が誕生する、っていうわけさ。避けろと言ったアルトさんの判断は、ものすごく正しいよ。いくら神竜とはいえ、僕の一撃をガードできるとは思わない方がいいね」
「リップサービスがいいな」
「油断したままの二人を倒しても、意味なんてないからね。本気の……全力全開の二人を倒してこそ、僕が正しいと証明されるんだよ!」
今度はアベルのターンだ。
魔法が炸裂したかのように、地面が爆発する。
アベルが全力で地面を蹴るだけで、そんなことが起きる。
めちゃくちゃだ。
一瞬のまばたきの間に、アベルが目の前に迫る。
まずは、俺に狙いを定めるようだ。
ザァッ!!!
風を断ち切るような、驚異的な一撃が繰り出される。
「くっ!」
初撃をなんとか避ける。
ただ、ほぼほぼ勘のようなもので、次もやれと言われたら、成功させる自信はない。
それなのに、アベルが立て続けに二撃目を放つ。
槍を深く腰だめに構えて、一気に前へ撃つ。
攻城兵器のような威力を秘めているに違いない。
おそらくではあるが、直撃すれば胴に大きな穴が開くことになるだろう。
直撃すれば、の話になるが。
「させないよっ!」
横から飛び出してきたユスティーナが、驚異的な動体視力と腕力で、ガシッとアベルの槍を掴んだ。
その動きを視界の端で捉えていた俺は、すぐに次の行動へ移る。
あえて槍を捨てて、アベルの懐へ。
その胸元に拳をあてがい……
踏み込むと同時、全力で突き出す。
「がっ!?」
リミッターをカットしている状態の一撃だ。
こちらの体も悲鳴をあげるが、それなりの威力を叩き出すことに成功したらしく、アベルが鈍い声をこぼす。
そこに、ユスティーナが追撃の投石を。
ただ石を投げるという行為なのだけど、竜がやればとんでもない破壊力を生み出す。
音を超えるほどの速度で投擲された石が、痛烈にアベルの体を叩く。
「こ、のぉっ……!!!」
竜の心核を複数取り込んでいることもあり、さすがに頑丈だ。
普通なら即死の一撃なのだけど、そこそこのダメージを負った程度にすぎないらしい。
すぐに体勢を立て直すと、砲弾のごとく突進してくる。
ユスティーナでさえ受け止められない攻撃力がある。
まともに相対することは自殺行為なのだけど……
受け流すならば問題はない。
「ふっ!」
再び槍を手にして、柄と柄を交差するようにして、アベルの突進の矛先を逸らす。
それだけでも手が痺れ、槍を落としてしまいそうなほどの衝撃が走る。
なんとか我慢して、次の攻撃に備える。
軌道を逸らされたアベルは、なにもないところへ突貫するが……
すぐに方向転換をして、再びこちらに食らいつこうとする。
なんていう執念、なんていう荒々しさ。
まるで獣だ。
なにはともあれ、あんな突進を続けられたら、こちらから手を出すことは難しい。
いずれ疲弊して、食い破られてしまうだろう。
そうなる前に手を打つ必要がある。
一人で止められないというのなら、二人で止めればいい。
「ユスティーナ!」
「うんっ」
一瞬、視線を交わす。
たったそれだけで、こちらの意図を汲み取ってくれたらしく、ユスティーナは頼もしく頷いてくれた。
「があああっ!!!」
荒々しい叫び声を響かせながら、再びアベルが突貫する。
止められるものならば止めてみせろ、と挑発しているかのようだ。
その挑戦……受けて立つ!
「はぁっ!」
武装を切り替えて、使い捨ての短剣を盾にして、アベルの突進を受け止める。
当然ながら、そんなもので防ぐことはできない。
すぐに刀身にビシリッとヒビが入るが、構わない。
そのまま盾として使用して、限界まで力を振り絞り、津波のような強烈な圧を受け止める。
それでも限界は訪れて、短剣が砕け散る。
同時に俺は横に跳んで、アベルの突進を回避。
それだけではなくて、あらかじめ袖に仕込んでおいた金属ワイヤーをヤツの足に絡ませて、速度をわずかながらも落とす。
「いっくよー!」
続けて、ユスティーナがアベルと激突する。
彼女の力を持ってしても、真正面からぶつかることは難しいと思うが……
最初に俺が相手をしたことで、威力も速度も落ちている。
今の状態ならば!
「でぇえええええいっ!!!」
「ぐあっ!?」
ユスティーナは、アベルの突撃をしっかりと受け止めてみせた。
それだけではなくて、カウンターの拳を炸裂させる。
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