15話 成果
「おはよう、アルト」
「おはよう、ユスティーナ」
ユスティーナの笑顔で一日が始まる。
ユスティーナが作ってくれたごはんを食べて、準備をして、一緒に登校をする。
その間も竜の枷の効果は働いているが、最近はすっかり慣れた。
問題なく体を動かすことができるし、負担を感じることは皆無だ。
「あれ?」
学院に向かう途中、隣を歩くユスティーナが俺の顔を見て、不思議そうに小首を傾げた。
「アルト、なんだか緊張してる?」
「よくわかったな」
「大好きな人のことだもん」
同じ部屋で暮らしているからなのか、最初に比べてユスティーナの観察眼が増したような気がする。
気がつけば、ユスティーナの視線を感じるんだよな。
こんな平凡な顔を見て、なにがおもしろいのだろうか?
女の子のことはよくわからない。
「今日は試験があるからな。それで緊張しているんだ」
一ヶ月に一回、学生の能力を測るための試験が行われる。
筆記試験と実技試験の二つだ。
試験は今日で二回目。
前回の俺の成績は……それはもう悲惨なものだ。
ちょうど、セドリックにいじめられていた最中だったからな。
試験に集中できるはずもなく、備えることもできず、学年最下位という成績を叩き出した。
試験の成績が悪くてもペナルティを受けることはない。
せいぜい、教師からもっとがんばりなさい、と小言を言われるくらいだ。
ただ……
俺も男だ。
向上心はあるし、より良い成績を残したいという思いはある。
それに、ユスティーナに鍛えてもらったから……
座学はともかく、実技試験はしっかりとしたいい成績を残したい。
「へえ、試験なんてものがあるんだ」
ユスティーナは遅れて入学したせいか、一回目の試験を受けていない。
そのせいなのか、試験の存在を知らないみたいだ。
「そんなことをして、どうするの?」
「日頃の成果を試す場……という感じだな。あとは、成績をハッキリと示すことで競争心を煽ることも目的にあるだろうな」
「ふむふむ。人間にしては、なかなか効率的な方法だね。悪くないと思うよ」
「ユスティーナも試験を受けるんだぞ。大丈夫なのか?」
「んー、座学はちょっと不安かな? 人間の歴史とかはおもしろいけど、言語とか計算とかはあまり興味なくて、それほど真面目に勉強していなかったんだよね」
「竜の姫さまなんだから、悪い点をとるとまずいんじゃないのか?」
「あー……それはあるかも。下手したら、お父さんとお母さんに叱られちゃうなあ。学生としてちゃんとがんばる、ってことで入学を認めてもらったし」
「まあ……そこまで難しい問題はないと思うから、日頃の授業を寝るとかしていなければ、赤点を取ることはないさ」
「赤点って?」
「失格、ってことだ。ユスティーナなら問題はないと思う」
歴史の授業は興味津々でしっかりと聞いていたし……
興味がない授業も、一応、ノートはとるようにしていた。
なので、筆記試験は問題ないだろう。
実技試験は……言うまでもないか。
たぶん、過去最高記録を叩き出すんじゃないか?
「がんばろうね、アルト!」
「ああ」
ユスティーナの笑顔に励まされて……
がんばっていい成績をとろうと、改めて決意を固くする俺だった。
――――――――――
午前中に筆記試験が行われた。
どの科目も手応えがあり、それなりにいいところに食い込むことができたのではないか、という自信があった。
ユスティーナは、歴史の試験の時はペンを走らせる手が止まらなかった。
他の科目はうーんうーんと悩んでいたけれど、それでも、ある程度は答えを埋めることができたらしい。
そして……午後。
実技試験の時間になる。
試験の内容は簡単だ。
ランダムで対戦が相手が選ばれて、試験官である教師の前で模擬戦を行う。
基本的に、勝利すればポイントがプラスされる。
負けたとしても、善戦すればある程度のポイントがプラスされる。
三回、模擬戦を行い……
獲得したポイントに応じて順位が決まる、というシンプルな内容だ。
俺の対戦相手は……
「おっ、俺の相手はエステニアか。ラッキー。うまい具合に木人と当たるなんて、俺って運がいいな。やっぱ、日頃の行いがいいのか?」
……最悪だ。
セドリックの取り巻きの一人だった。
あの事件の後、セドリックはしばらくして自主退学した。
二度とユスティーナに関わりたくないらしく、退学届も代理人が提出するほどだった。
そうしてセドリックは完全に消えたが……
そのせいで、今度は取り巻きが増長することになった。
ユスティーナのおかげで直接いじめられることはないが、それでも、ちょくちょくと絡まれている。
他のクラスなので、普段は接する機会はないのだけど……。ただ、こういう場は運が悪ければぶつかることはある。
今日の俺は、非常に運が悪いと言える。
「アルト、がんばれー!」
教師の数に限界があるため、一度に全員の試験を行うことはできない。
交代制となり、自分の番を待つ生徒は、他の生徒の試合を観戦することができる。
ユスティーナは訓練場の端で、俺の応援をしてくれていた。
そんなユスティーナを見て、対戦相手の男子生徒がビクッと震えた。
どうやら、ユスティーナを恐れているらしい。
詳細は知らないだろうが、セドリックがユスティーナにやられたことは理解しているらしい。
「お、おい」
「……なんだ?」
「俺がてめえをボコボコにしたら、俺はあの女にボコボコにされるのか……?」
「いや、その心配はいらない。これが試験ということはユスティーナも理解しているから、そんな八つ当たりのようなことはしないはずだ」
「へへっ……そうか、それを聞いて安心したぜ。これで心おきなくてめえをサンドバッグにできる、っていうわけだ。楽しみだぜぇ……てめえと遊ぶことができなくて、最近、ストレスが溜まってたからなあ。ここらでスッキリさせてもらうとするか」
「思い通りにいくと思うな」
俺は訓練用の槍を構えた。
不思議だ。
以前は顔を合わせるだけで震えていたというのに……
今はひどく心が落ち着いていた。
勝てるかどうか、それはわからない。
ただ、後悔することなく、全力を出せるような気がした。
「てめえ……俺に勝てるつもりでいるのか? おいおい、エステニアのくせに生意気だな……調子に乗るんじゃねえぞ?」
「調子に乗っているつもりはない。ただ、やれるだけのことをやるだけだ」
「その態度が調子に乗ってるって言ってるんだよ! てめえのようなクソ雑魚は、泣いてひれ伏さないといけないんだよ!」
凶悪な顔をしながら、男子生徒が訓練用の剣を構えた。
「決めた。てめえ、やっぱりフルボッコだわ。泣いて謝っても許してやらねえ。俺より遥かに格下で、ゴミ以下ってことを思い出させてやるよ」
「……」
「おいおい、ブルって声も出ないのか? はははっ、土下座して俺の靴を舐めれば、少しは手加減してやるぜ?」
「無駄口を叩くつもりはない。それだけのことだ」
「てめえ……死んだぞ」
男子生徒の怒気が膨れ上がる。
そして……
「始め!」
試験官の教師の合図と同時に、男子生徒が地面を蹴る。
被弾面積を少なくするように、体を横に逸らしていた。
その状態で上体を前に出して、勢いを乗せる。
基本的な突撃姿勢だ。
一連の動作は水が流れるようにスムーズで、ほぼほぼ無駄がない。
良い意味で教本通りの、理想的な攻撃だ。
しかし……なぜだろう?
俺からしてみると、男子生徒が遊んでいるように見えた。
とても本気を出しているようには見えない。
だって、あくびが出てしまうほどに遅いのだから。
「……」
無言で槍を握る手に力を入れた。
今の俺は、竜の枷は外れている状態だ。
一ヶ月が経ち……それと、試験ということで、ユスティーナが枷を外してくれた。
特訓の成果をその体で感じ取るといい。
試験の前に言われたユスティーナの言葉を思い返した。
……よし、やるか。
まずは様子見だ。
男子生徒の突撃を止めるために、牽制の一撃を叩き込む。
槍を回転させて、柄で殴りつけると……
「ひっ……ぎゃああああああああああぁ!!!?」
頑丈に作られていて、滅多なことでは壊れないはずの訓練用の剣を粉々にして……
そのまま男子生徒を殴り飛ばした。
男子生徒は紙くずのように吹き飛ばされて、そのまま訓練場の壁に激突する。
「……なんだと?」
ありえない威力を叩き出したことが信じられず、俺は思わず、その場でぽかんとして間の抜けた顔をしてしまうのだった。
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