表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/459

145話 二人で

「はぁあああああっ!!!」

「せぇえええええっ!!!」


 互いに雄叫びをあげながら、槍をほぼ同時に振るう。


 俺は、まっすぐ直線に突いた。

 全力の一撃だ。


 刃は本物。

 直撃すればタダでは済まないと理解しているが……

 しかし、手加減をすることはできない。

 そんなことをしたら、たちまちやられてしまうだろうと、そんな予感があった。


「ちっ」


 アベルは舌打ちしつつ、体を捻りこちらの一撃を避ける。

 回避に専念して、攻撃を中断させることができた。


 ただ、こちらのペースに持ち込むことはできない。

 アベルは即座に体勢を立て直して、反撃を放つ。

 広範囲をえぐり取るような薙ぎ払い。

 深く踏み込んでいるため、回避は難しい。


「っ……!」


 あえて前に踏み込んだ。

 そうすることで、槍の先端ではなくて柄の部分を腕で受け止める。


 もちろん、無傷というわけにはいかない。

 鈍い痛みが広がり、腕が痺れて力が入らなくなってしまう。


 なんて力だ。

 見た目は子供なのに、中身は大人以上の力を持つ。

 というか、人を超えているかもしれない。

 ユスティーナやククル並の力があるんじゃないか……?


「本当に子供か!?」

「さて、どうだろうね」


 こちらにはまだ余裕がありますよ、というような感じで口元に笑みを浮かべつつ、アベルが突撃してくる。

 槍で突いてきて、あるいは、薙ぎ払いをしかけてくる。


 そのどれもが速く、重い。

 避けて、防ぐことで精一杯だ。

 なかなか反撃に出ることができない。


 このままだと、そう遠くないうちに押し切られてしまう。

 それだけの力がアベルにはある。

 なんとかしないといけないのだけど……なんともできない状況だ」


「くっ……!」


 アベルの繰り出す槍の軌道を逸らして、大きく後ろに跳んで距離をとる。

 わずかに余裕ができて、その間に対抗策を考える。


 どうする?

 どうすればいい?


 このまま普通に戦い、アベルの攻撃の癖やパターンなどを探り、時間をかけて対抗策を練るか。

 あるいは、身体能力のリミッターを解除して、一気にたたみかけるか。


「……決め手に欠けるな」


 アベルとは、まだ数分間、激突したに過ぎない。

 もしかしたら手加減をしているかもしれないし、なにかしら能力を隠しているかもしれない。

 それこそ、奥の手の一つや二つ、確実に用意しているだろう。


「……くそっ」


 なんて厄介な敵だ。

 外見からは想像できないほどの戦闘力を有している。


 俺も、それなりに強くなったという自負があったのだけど……

 どうやら、それは思い上がりらしい。

 まだまだだな。

 また、一から訓練をしないといけなさそうだ。


 ただ……

 その前に、なんとしてもこの戦いを乗り切らないと。


「やるね、アルトさん。僕と戦って、5分以上保つなんて人、なかなかいないよ」

「俺を褒めているのか、自画自賛しているのか、判断に迷う言葉だな」

「その両方かな? アルトさんのことは素直にすごいと思うし……あと、僕もそれなりに修羅場をくぐり抜けてきた、っていう自信があるからね。そうそう簡単にやられないよ」


 自分の優位を確信しているのだろう。

 アベルは不敵な笑みを浮かべていた。

 それだけではなくて、あえて次の攻撃をしていないように見える。


「……もしかして、俺に考える時間を与えているのか?」

「正解」

「なぜそんなことを?」

「せっかくだから、最高の戦いをしたいじゃないか。一方的になぶるなんてつまらない。生と死のギリギリの間で踊る……アルトさんなら、そんな素敵な体験をさせてくれると信じているよ」

「趣味が悪いな」

「アルトさんは戦いは嫌い?」

「競い合うことは、好きな方だと思う。ただ、殺し合いが好きでいてたまるものか」


 俺は英雄になりたいのであって、殺戮者になりたいわけじゃない。

 命を賭けた戦いでスリルを味わうほど、心は壊れていないつもりだ。


 しかしアベルは、笑みを浮かべながら、楽しもうと言う。

 その言葉に嘘偽りは感じられない。

 本気で命を賭けたやりとりを楽しんでいるのだ。


 いったい、どのような人生を送れば、そんな風に心が壊れてしまうのか?

 感情が麻痺してしまうのか?

 今更ではあるが彼のことが気になる。


「ただ……ちょっと期待はずれかな」

「っ……!」

「アルトさんなら、もうちょっとやれると思っていたんだけど……この程度なら、あまり楽しめなさそうだし。終わりにしようか」


 アベルの殺気が膨れ上がる。

 同時に圧も強烈なものに。


 本気ではなかった、ということか。

 まずいな……リミッターを解除しても、対抗できるかどうか。

 対抗できたとしても、長時間は戦えない。


 だからといって、ここで退くなんていう選択肢はない。

 俺の背中には、一般の来場者がいる。

 竜騎士を志す者として、王都の人々を危険に晒すようなことは、命を失うことになったとしてもできるない。できるわけがない。


「仕方ない……やれるだけやってみるか」


 リミッターを解除して……限界を乗り越えるような心構えで戦うことにしよう。

 そう決意した時、


「えいやぁあああああーーーっ!!!」


 そんな声がどこからともなく聞こえてきて、次いで、ブォンッ! と大きな石が飛んできた。

 アベルは片眉を軽く動かしただけで、大して動揺することなく、自分に迫る石を槍で叩き落とす。


「うーん、失敗。防がれちゃったか」

「ユスティーナ?」


 呑気に言いながら、人に変身したユスティーナが隣に並ぶ。


「どうして……?」

「大丈夫。ボクが担当していた正面の魔物は、あらかた駆逐したから。残りは他の生徒に任せて、ボクはアルトのお手伝いをすることにしたの。だって……ボクは、アルトの騎竜だからね!」

「……ありがとう」

「お礼なんていらないよ。ボクとアルトは、一心同体だからね! ……うへへ」


 自分で言っておいて、妙な妄想をしたらしく、ユスティーナは最後に変な声をつけくわえていた。


 なにはともあれ、とても頼もしい援軍だ。

 これならばアベルに食らいつくことができる。

 そして、一人じゃなくてユスティーナが隣にいてくれるということが、俺の心に大きな勇気を与えてくれる。


 そんな俺を見て、アベルが楽しそうな顔に。


「ようやく本領発揮、っていうところかな?」

「ああ。ここからが、本当の勝負だ」

「楽しみにしているよ」

書籍版1巻、発売中です。

色々と加筆修正しているので、新鮮な気持ちで読めると思います。

それに、あいに様のとてもかわいいイラストつき。

よかったら、いかがでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ