表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/459

144話 最強の助っ人

 反撃の方法は残されていない。

 防御も回避も間に合わない。


「っ!!!」


 終わりだ。

 そう判断した、ククルは思わず目を閉じた。


 しかし、いつまで経っても刃が肉を断つ衝撃がやってこない。

 痛みもない。


 もしかして、衝撃や痛みを感じる間もなく、一瞬で絶命してしまったのだろうか?

 でも、体の感覚はまだ残っていた。

 恐る恐る目を開けると……


「え?」


 見知らぬ女性が、ククルをかばうように前にいた。

 ありえないことに、ホークの戦斧を素手で……しかも片手で受け止めていた。


「ぬっ……うぅ!?」


 ホークが遊んでいるということはない。

 その顔を見れば、全力で断ち切ろうとしているのがわかる。


 それなのに、戦斧はびくともしない。

 まるで空間に固定されてしまったかのように、女性の手を押し切ることができないでいた。


「女の子の扱いがなっていませんね。このように乱暴に扱うと、一生、モテませんよ?」

「はっ……あいにくだが、俺はすでに結婚していてね! その心配は無用だ」

「あら。モノ好きな方もいらっしゃるのですね」

「てめえ……!」


 挑発を受けたホークは、どうにかしてやろうと、全力で戦斧を押し込む。

 しかし、びくともしない。


 なにが起きている?

 どういうことなんだ?


 滅多なことで動揺しないホークも、さすがに、この時ばかりは心が揺れるのを止められなかった。


「くっ!」


 ホークは戦斧を引いて、後ろに跳び、距離を取る。


 こうして距離をとり、冷静な頭で相対することで、ようやくわかる。

 この女性は化け物だ。


 裏切り者とはいえ、ホークは聖騎士である。

 神から力を授けられた、人を超えた存在だ。


 そんなホークではあるが、今、気を抜けばガタガタと恐怖に震えてしまいそうになっていた。

 目の前の女性は一見すると普通に見えるのだけど、しかし、とんでもない圧を感じられて……

 本音を言うのならば、今すぐに逃げ出したいところだ。


 もっとも、逃げられれば、の話になるが。


「あの……あなたは、いったい……?」


 窮地を救われたククルは、ふらつきながらも立ち上がり、女性に問いかける。


 どこかで見たような顔だ、と思った。

 でも、声に聞き覚えはないから、初対面のはずだ。

 どういうことだろう?


「あなたが、ククル・ミストレッジさんかしら?」

「は、はい。そうであります。どこで自分の名前を……?」

「娘から聞いていたの。友達でもありライバルでもある、そんな女の子と知り合った……って」

「友達でもありライバルでも……も、もしかして……」


 そんなことを言う人物に、一人、心当たりがある。

 ユスティーナの笑顔が、ぽんと頭の中に浮かぶ。


「はじめまして。私の名前は、アルマ・エルトセルク。ユスティーナの母です。いつも娘がお世話になっております」

「え、エルトセルクさんの母君でありますか!?」


 ククルが驚いて、


「おいおい……ウソだろ」


 ホークも唖然とした。


 竜族の頂点に立つ神竜。

 その中でも、真に最強の存在が、突然、街中に降臨する。

 普通に考えてありえないことだった。

 しかし、現実として、アルマはここにいる。


「いったい、どうして……」

「ユスティーナに頼まれていたんですよ」

「エルトセルクさんに?」

「正確に言うと、娘の将来のお婿さんでしょうか。彼に頼まれて、私たちも動くことにしたのです。同盟を結んでいる身として、王都が襲撃されているのに、なにもしないわけにはいきませんからね」

「くそっ、バカな!」


 さきほどまでの余裕を完全に失い、焦りをいっぱいに顔に貼り付けて、ホークが悲鳴のように叫ぶ。


「どうして、竜族のトップが出てくる!? お前のような存在に邪魔されないように、ありったけの結界を展開しておいたはずだ! いくら神竜バハムートとはいえ、あれを突破するには、それなりの時間がかかるはずだ!」

「そうですね。数百に及ぶ結界……あれを突破することは、普通の竜では難しいでしょう。ユスティーナでも、数時間はかかると思います」


 「ですが」と間に挟み、アルマはにっこりと笑う。

 その笑みには妙な迫力があり、ホークだけではなくて、ククルもついつい気圧されてしまう。


「自分で言うのもなんですが、私は、竜族で一番の力を持っていますから。数値で換算するのならば、そうですね……娘の数十倍というところかしら? なので、あの程度の結界では足止めにもなりませんよ」

「なっ……!?」

「もっとも、夫は手こずっていて、まだ外に出られていませんが……まったく。日頃から運動をしていないから、こんなことになるのです。今度、一から鍛え直した方がいいですね」


 涼やかな様子で、アルマはとんでもないことを言う。


 ユスティーナは、単独で王都を壊滅させるだけの力を持つ。

 魔物をまとめて1万匹、薙ぎ払うほどの力を持つ。


 そんな彼女の数十倍の力となると、それはいったい、どんなものなのか?

 想像を絶することは間違いなく……

 途方もない数字に、一瞬、ククルは目眩を感じた。


「あなたたちの失敗は、私たちがいるというのに、王都を狙ったこと。そして、娘の友達に手を出そうとしたこと。友として親として、この事態を見過ごすことはできません」

「くっ……こんな、ことになるなんて……!」

「殺しはしませんが……治癒院送りは覚悟してくださいね?」


 アルマの姿が消えた。

 いや。

 風以上の超高速で動いているため、誰も視認できないのだ。


「……ははっ」


 思わずという感じで、ホークは乾いた笑い声をこぼした。

 金のために仲間を裏切った。

 そんな悪人の人生がうまくいくわけがない。


 これは、そんな神の言葉を体現しているのかもしれない。

 そんなことを思い、ホークは苦笑して……


「がっ!!!?」


 次いで、襲ってきたとんでもない衝撃に吹き飛ばされた。

 重力が真横に変化したように体が飛んで、そのまま、建物の壁を突き破る。


「あら……少しやりすぎてしまいましたか。しかし、あの人間もなかなかやるみたいですし、これくらいは仕方ないのかもしれませんね」

「……」


 一撃で……しかも、かなり手加減されたと思われる拳一発でホークをダウンさせるという光景を目の当たりにして、ククルは唖然とするのだった。


書籍版1巻、本日発売です!

発売記念ということで、今日も更新です。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] いつも通りテンポが良い [気になる点] ククルは「2度目の挨拶」でアルト達と一緒に竜の里に行ってたはず [一言] はじめまして、ではないのでは?
[気になる点] すでに会ってなかったっけ?
[一言] カーチャンTUEEEEEEEE……なんて言ってる場合じゃねえwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ