143話 誇りがあるからこそ
ククルは巨大な剣を扱い、破格の攻撃力を生み出している。
しかし、ホークも同じく巨大な戦斧を扱い、桁違いの破壊力を叩き出すことができる。
男と女の違い。
体格、腕力などの差。
それらを考えると、ホークに力で挑むことは間違いだ。
そう判断したククルは、速度重視で攻めることにした。
小さな体を活かすようにして、縦横無尽に駆け回る。
攻撃の軌跡は最小限に。
破壊力よりも速度を優先して、連続して剣を振る。
「ちっ、しゃらくせえ!!!」
そんな小手先の技は効かないと言うように、ホークが力強く吠えた。
巨大な戦斧を上から下に振り下ろす。
刃が地面を叩いて、小さなクレーターが生まれる。
破片が勢いよく飛び散り、それ自体が凶器となる。
「くっ……!」
完全に避けることができず、ククルは破片の一部を浴びてしまう。
大した怪我ではないが、痛みはある。
それで動きが鈍くなってしまい、続けて放たれる横薙ぎの一撃を避けられない。
ククルは咄嗟に巨大な剣を前に出して、盾代わりにした。
ギィンッ!
戦斧と剣が激突して、甲高い音が響く。
「うあ!?」
ククルの小さな体が吹き飛ばされた。
かろうじて剣は手放さなかったものの、ゴロゴロと地面を転がり、体のあちこちを打ち付けてしまう。
鈍い痛みとダメージが蓄積されて、さらに動きが遅くなってしまう。
「さすが、ホーク殿であります」
「俺は強いからな。見逃してくれるっていうなら、途中で止めてもいいが?」
「それは聞けないのであります!」
力で勝つことはできない。
かといって、速度を上げても捕まってしまった。
ならば、技術だ。
「はぁあああああっ!!!」
ククルは斜めに剣を振り下ろして……途中で手首を返すようにして、剣を逆に跳ね上げる。
通常ではありえない軌道に、ホークがわずかに驚くのが見えた。
彼女は、続けて剣を横に薙ぐ。
さらに自身を独楽のように回転させて、再び左から右へ。
ついでに、剣だけではなくて蹴撃を叩き込む。
「ぐっ!?」
流れるような連撃に、ホークは初めて、防御に全キャパシティをとられることに。
いける!
手応えを得たククルは、そのまま数で攻めることにした。
さらにフェイントや不規則な動きを織り交ぜることで、防御を難しくさせる。
それに、ホークの武器は巨大な戦斧だ。
巨大という点では、ククルも同じではあるが……
剣の方が斧よりも扱いやすい。
小回りが効かない斧は、手数を多くすることは困難だ。
次第にククルの攻撃に対応できなくなり、ホークの体に小さな傷が刻まれていく。
「やるな!」
「自分は末席ではありますが、聖騎士でありますから!」
「だが……まだ甘いな」
「えっ」
ホークは戦斧を使い、ククルの剣を受け止めた。
そして、そのまま戦斧を手放した。
武器を放棄するというありえない行動に、一瞬、ククルの思考と動きが止まってしまう。
その隙を見逃すホークではない。
一歩を踏み込み、豪腕を振るう。
「がっ!?」
ククルの腹部に拳が突き刺さる。
内蔵を全部まとめてひっくり返されるような強烈な衝撃に、胃液が逆流して、吐き出してしまう。
「おらおらおらぁっ!!!」
ホークは止まらない。
拳の雨をククルに降らせていく。
一撃一撃が重く、まるでゼロ距離で魔法が炸裂しているかのようだ。
反撃することはできない。
避けることもできない。
亀のように体を丸めて、ひたすらに耐えるだけだ。
それでも、ホークの拳は、防御の上から的確にダメージを与えてくる。
防御していようがいまいが、そんなことは関係ない。
全てをぶち抜いて、打ち倒す。
そんな意思が感じられた。
「こっ……のぉおおおおお!!!」
意識が飛びそうになるのを我慢するために、ククルは吠えた。
殴られつつも、全力で剣を投擲する。
ゼロ距離カウンター。
起死回生を賭けた一撃なのだけど、
「ちっ」
ホークは舌打ちをして、すんでのところで投擲された剣を避ける。
互いに武器を失った。
しかし、己の体という武器が残されている。
ククルは小さな体を活かして、反撃に出る。
ホークもまた、己の体を活かして、豪腕を持ち迎え撃つ。
拳と拳が、蹴撃と蹴撃が激突する。
騎士らしい華麗な戦いではなくて、裏路地で繰り広げられるような泥沼の争いだ。
そして……勝利者が決まる。
「あぐっ……!?」
痛烈な一撃を喰らい、ククルが膝をついた。
地面に手をついて、なんとか立ち上がろうとするが、体が言うことを聞いてくれない。
「勝負あったみたいだな」
「くっ……自分は、負けません……絶対に、負けないのであります……! みんなが、戦っているんです。アルト殿が、エルトセルクさんたちが……それなのに、自分だけが、こんなところで終わるわけには……!」
「いいや、終わりだ」
ホークは戦斧を拾い、冷たい顔でそう宣言した。
そして……直上から戦斧を勢いよく振り下ろす。
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発売記念ということで、明日も更新します。
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