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135話 非常事態

 3万匹ほどの魔物の大群。

 それと、1000人ほどの傭兵。

 それらの存在が明らかになり、王城は一気に慌ただしくなる。


 王都には結界が展開されているものの、さすがに3万の魔物を止めることはできない。

 スタンピードに匹敵するような数だ。

 迎え撃つ以外の選択肢はない。


 全ての竜騎士が出撃体勢に入り……

 また、山で暮らす竜の半分ほどが、アルモートとの間にかわされた盟約の元に、出撃をする。


 その一方で、憲兵隊は今後についての会議を。

 いざという時に備えて、住民を避難させるべきか?


 ただ、正直に真実を明かすことが良策とは限らない。

 3万の魔物が迫っているなんてことを知れば、パニックに陥る人が現れるだろう。

 パニックが連鎖的に広がり、それが王都全体に広がれば?

 予想したくないような被害が生まれてしまうだろう。


 故に、憲兵隊は今後の対応に迷っていた。

 早期に避難させるべきか?

 それとも、ギリギリまで様子を見るべきか?


 憲兵隊は……ギリギリまで様子を見ることにした。


 理由は二つ。

 まずは、パニックになることを恐れたということ。

 そしてもう一つの理由は、3万の魔物と1000の傭兵ならば、竜騎士と竜で十分に対処できるだろうと判断したからだ。


 過去の戦では、10万の魔物を相手にしたこともある。

 また、5万の兵士を相手にしたこともある。


 それに比べれば、今回は数は少ない。

 決して楽観視していいことではないが、対処可能であると判断してもいいだろう。

 憲兵隊はそんな結論に至り、即座の避難命令は発動しないことにした。


 その結果は……




――――――――――




「もうそろそろかな?」


 王都の中心から外れたところにある、寂れた一軒家の中にアベルの姿があった。

 小さなイスに座り、テーブルの上に置かれた水晶玉を眺めている。


 その水晶玉は、王都の外の光景が映されていた。

 離れた場所の様子を見ることができるという、貴重な魔道具だ。

 平均的な収入を持つ四人家族が一年は暮らせるだけの額がするのだけど、アベルは迷うことなく魔道具を購入した。


 アベルからしてみれば大したことない金であり……

 また、金を惜しみ作戦が失敗したら元も子もない。

 なので、財を投入する時はためらうことなく投入する。


「おっ、始まったね」


 水晶玉を見て、アベルがニヤリと笑う。


 3万の魔物と1000の傭兵。

 それらと竜騎士、竜が激突する光景が水晶玉に映されていた。


 竜騎士の力はさすがというべきか。

 竜と巧みな連携を見せて、四方八方から迫り来る魔物の群れを蹴散らしていく。

 その力は圧巻の一言。

 この程度の魔物では相手にならないというように、獅子奮迅の活躍を見せていた。


 また、単独で動く竜もすさまじい。

 空を高速で飛び、直上からの強襲をしかける。

 それを防ぐことができるものは、誰一人としていない。


 そして、超高熱のブレスが放たれる。

 それはさながら神の裁き。

 圧倒的な光の奔流に抗うことができる魔物はおらず、次々と塵と化していく。


「うわぁ……さすが、竜。とんでもない力だなあ」


 仲間がやられているというのに、アベルは平然としていた。

 というか、笑みすら浮かべていた。


 まるで、戦いが楽しいというように。


「魔物と傭兵、足りるかな? 予測よりも多くしたつもりなんだけど……うーん、ちょっと見積もりが甘かったかな?」


 この調子だと、半日と保たずに全滅してしまいそうだ。

 それは困る。

 彼らには、竜騎士と竜を引きつけてもらわないといけないのだから。


「さてと……僕の方もそろそろ動かないとね」


 作戦は第二段階へ。


 アベルは家の外に出た。

 寂れた地域なので、他に人は見当たらない。


 そんな中で、アベルは手の平を上に向ける。

 そして、一言。


「紅の一撃」


 魔法を放つ。

 それは上空高くまで飛び上がり、花火のように火の粉を散らして炸裂した。


 それが合図。


 ほどなくして、遠くから悲鳴や騒音が聞こえてきた。

 あらかじめ王都内部に潜ませておいた3000の魔物と100の傭兵が出撃したのだろう。


 彼らに与えた命令は二つ。

 一つは、外の連中と同じように、好きに暴れろ、というものだ。


 命令された通りに、彼らは好き勝手に暴れているのだろう。

 悲鳴や騒音があちらこちらに拡大していく。


「なかなかの暴れっぷりだなあ。予想以上だ。まあ、元気なのはいいことだよね」


 これだけの事件を起こしておいて、アベルはそんな一言で済ませてしまう。


「とはいえ、国もバカじゃない」


 外の陽動に全軍を差し向ける、なんてことはありえない。

 必ず予備戦力を残しているはずだ。


 その推測は正しく、ほどなくして竜の咆哮が響いた。

 予備戦力として城に残っていた竜騎士のものだろう。

 暴れる魔物や傭兵たちを威嚇するために、あえて竜の咆哮を響かせたのだろう。


 あちらこちらで戦いの音が聞こえてくる。

 刃と刃がぶつかる音。

 魔法が炸裂する音。

 そして、悲鳴。


 王都アルモートは、一瞬にして戦場と化していた。


「でも、これだけで終わらないんだよね」


 外の陽動を使い、軍の大半を誘い出した。

 残りの予備戦力は、街中で暴れることで抑えた。

 以上のことで、国の戦力はほぼほぼゼロに陥っただろう。

 新しい事件が起きたとしても、それに対処できる余裕はない。


「これでやりやすくなった。さあ……本番といこうか」


 戦場と化した王都の中。

 アベルは、再び合図のための魔法を放つ。


 その魔法の意味は……竜騎士学院を潰せ、というものだった。

書籍化決定しました!

タイトル変更となり、「落ちこぼれ竜騎士、神竜少女に一目惚れされる」となり、

5月28日、発売予定です。

詳しくは活動報告にて。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
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