133話 二人の相性は?
「……やはり、ちょっと食べ過ぎたかもしれないな」
二人で買ったものは全部食べたのだけど、やや胃の辺りが重く感じる。
「大丈夫、アルト? ボクが膝枕しようか?」
「そこまでのものじゃないさ。歩いていれば、そのうち消化されて楽になると思う」
「ちぇ」
膝枕、したかったのだろうか……?
ただ、今日はせっかくの竜友祭だ。
時間があるのならば、各クラスを見て回りたい。
「見てみたいところは?」
「うーん……色々あるから迷っちゃうよね」
展示に始まり、簡単なゲーム、お化け屋敷、演武、演劇……多種多様な出し物がある。
さすがに全部見て回るのは厳しいだろうから、ある程度、絞らないと。
「とりあえず近くにあるところを見て回って、時間になったら演劇を見に行く、っていうのはどうかな?」
「うん、いいんじゃないか」
「よしっ、決まりだね! それじゃあ、アルトと学校デートだね」
デート……なのだろうか?
疑問に思うものの、ユスティーナはにこにこ顔なので、口を挟むような野暮はしないでおいた。
まずは、目についた教室へ。
そのクラスでは竜騎士についての展示が行われていた。
基本的な説明から始まり、勲章を授かった歴代の竜騎士の紹介。
俺も知らないような豆知識などもあり、なかなかに勉強になる展示だ。
ユスティーナも興味深そうにしつつ、二人で展示を見た。
その次は、ゲームを開催しているクラスに。
離れた位置からボールを投げて、見事的を倒すことができれば商品を得ることができる、という簡単なゲームだ。
俺たちのような生徒が狙いではなくて、竜友祭を訪れた親子連れがターゲットなのだろう。
ユスティーナは意気込んで参加しようとしたものの、竜の王女がボールを投げればとんでもないことになるため、全力で止めておいた。
その次は、お化け屋敷。
光を完全にシャットアウトしているらしく、中は最低限の明かりしかない。
演出なども凝っていて、本気の悲鳴が聞こえてくるほどに本格的なのだけど……
竜であるユスティーナがお化けを怖がるはずもなく、終始、不思議そうにしていた。
「うーんっ、楽しいね、アルト!」
色々と見て回り……
ユスティーナはきげんよさそうに笑顔だった。
しっかりと楽しめているようでなにより。
「ボク、学院に来る前はずっと山にいたから、こんなに楽しいことがあるなんて知らなかったよ」
「時々、抜け出していたんじゃないのか?」
「うっ……しっかりと覚えているんだね」
「なかなかに衝撃的な台詞だったからな」
竜の王女がこっそりと街に降りていたなんて、今まで聞いたことがない。
当時の衝撃はかなりのものだ。
そっか……でも考えてみれば、あれから数ヶ月が経っているんだな。
ついこの間のようにも思えて……
矛盾しているが、すごく長い年月が経っているようにも思える。
間違いなく言えることは、ユスティーナと出会ってからの数カ月は、今まで生きてきた中で一番充実しているということだ。
「あっ。ねえねえ、アルト。あそこに行ってみない?」
「えっと……二人の相性を占います?」
教室の入り口に、そんな看板が立てかけられていた。
このクラスは占い屋をやっているみたいだ。
軽く覗いてみると、さきほどのお化け屋敷と同じように、外からの光をシャットアウトしている。
代わりに、淡い紫色の光を放つ照明が少し。
客を待たせないためなのか、それとも占いの内容によって異なるのか、三つのブースが。
間に仕切りがあり、向こうが見えないように工夫されていた。
「ねえねえ、アルト。行こう? ボクたちの相性が最強無敵で文句なしのカップルっていうことを教えてもらおう?」
「まだ占ってもらっていないのに、そこまで断言できるのはユスティーナくらいだろうな」
特に反対する理由はない。
苦笑しつつ、一緒に教室の中へ。
「いらっしゃいませ。ウチのクラスでは、相性占いから未来の運命を占いなど、色々なことを占うことができますよ。なにを求めますか?」
「ズバリ、相性占いで!」
「はい、相性占いですね。では、こちらへどうぞ」
生徒の案内で一番奥のブースへ。
深いローブを着て、水晶玉を持つ生徒が迎えてくれる。
なかなかに本格的だ。
「相性占いですね?」
「うん。ボクとアルトの相性を占ってほしいんだ。すごくいいか、ものすごくいいか、とんでもなくいいか、それ以外にありえないと思うけどね!」
「……よくよく見てみれば、竜のお姫さまだし」
驚いていた。
やはり、ユスティーナは有名らしい。
「えっと……こほんっ。それじゃあ、互いに手を握ってもらえますか?」
「こうかな?」
言われた通り、ユスティーナと手を繋ぐ。
「はい、そのままじっとしていてください。むぅーん」
唸るような声がこぼれると、水晶玉が淡く輝いた。
魔法を応用した、本格的な占いなのかもしれない。
「なるほど、見えてきました。これは……うーん」
なんともいえない声がこぼれた。
ユスティーナが言うような明るい未来ではないのだろうか?
その反応を受けて、隣で不安そうな顔になる。
「え? え? ……もしかして、悪いの……? えええぇ……」
ユスティーナが絶望的な表情になる。
占いなどを信じるタイプなのだろうか?
まあ、女の子だから、気にするのが普通なのかもしれない。
……女の子が占い好きというのは、俺の偏見かもしれないが。
「悪い、というか……たくさんの障害があるみたいです」
「障害……?」
「恋のライバル、事件事故、二人を引き裂くような運命……色々な障害が待ち受けているみたいです」
「えぇ……」
「ですが、それはマイナスばかりではありません」
「どういうこと?」
「それらの障害を乗り越える度に、二人の絆は強く固くなります。そうして鍛え上げられていって……最後には、完全無欠の絆が生まれることになります。そのことを考えると、ある意味では、二人の相性は最高ですね」
「おぉ!」
ユスティーナは途端に元気を取り戻した。
完全無欠の絆というものを想像しているらしく、目がキラキラと輝いている。
「しかし、障害というのは気になるな……」
「大丈夫だよ、アルト!」
俺のつぶやきに、ユスティーナが反応する。
さきほどまで落ち込んでいたのはどこへやら、俺の不安を笑顔で吹き飛ばす。
「なにがあろうと、どんなことが起きたとしても、ボクが全部全部ぜぇーんぶっ、吹き飛ばしてあげるからねっ! だから、アルトは安心してボクのことを好きになっていいよ!」
「ははっ」
ユスティーナらしい台詞に、ついつい笑みがこぼれてしまう。
そうだな。
彼女と一緒ならば、どんな壁も乗り越えられるような気がした。
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