132話 楽しい時間
「自分も……ですか?」
「うん。どうかな?」
「いえ、しかし……エルトセルクさんは、それでよろしいのですか?」
「よくないけどね。でも、フェアじゃない気がしたんだ。ボクはアルトのこと好きだけど、でも、正式な彼女ってわけじゃないし……だから今は、なるべく抜け駆けのようなことはしたくないんだ」
「じ、自分は……」
ククルは迷うような顔をして……
ややあって、穏やかに笑う。
「自分のことを気にかける必要はないのです。というか、自分は、そ、そういうわけではないですし……大丈夫であります」
「うーん……まあ、ククルがそう言うならいいか」
「それに、自分はこれから店に出ないといけませんから」
「あ、そういえばそっか」
「お気持ちだけ受け取っておくのであります。では!」
ククルはにこやかに笑い、この場を後にした。
「それじゃあ、アルト。行こっか」
「そうだな」
ククルだけに任せるつもりはないが……
ユスティーナの言う通り、休める時に休んでおいた方がいい。
「どこから見たいか、希望はあるか?」
「うーん、そうだなぁ……」
生徒会が作成したパンフレットを二人で見る。
全クラスの出し物が記載されていて、さらに、グラウンドや屋内訓練場、講堂などで行われる演目の時間も詳細に記されていた。
二人でじっとパンフレットを見つめて……
きゅう。
「あっ」
やけにかわいらしい音がした。
ユスティーナがみるみるうちに赤くなり、お腹を両手で押さえる。
ぷるぷると震えながらこちらを見る。
「……聞こえた?」
「……聞こえた」
バレているだろうと思い、素直に告白する。
ユスティーナは耳まで赤くなり、その場にしゃがみこんでしまう。
「あーうー……!? お腹の音が、よりにもよってアルトに聞かれちゃうなんてぇ! 恥ずかしすぎる、恥ずかしすぎるよぉっ!」
「えっと……俺は気にしないが」
「ボクが気にするのっ! 乙女心の問題なのっ!」
「……すまない」
「謝られると、もっと複雑な気分になっちゃうぅううう!?」
5分ほど、ユスティーナは頭を抱えるようにして悶えるのだった。
――――――――――
時刻は、太陽が頭上に登る頃。
ユスティーナのお腹がかわいらしい音を立てるのも仕方ないわけで……
俺たちは、まずは昼を食べるべく、食べ物系の出し物をしている区画を見て回る。
「ホットドッグ、ホットサンド、パンケーキ、肉串、かき氷……色々あるね! アルトはなにを食べたい?」
「一つで満腹になるものじゃないから……色々と買って、それを二人で食べ比べしてみる、っていうのはどうだろう?」
「うんっ、いいと思うな。ナイスアイディアだよ、アルト」
いくつかのクラスを見て、外で食べられそうなものを購入して回る。
本格的なレストランをやるところはなくて、どこも軽食ばかりだ。
まあ、一日限りのお祭りなので、それは当たり前のことではあるが。
両手がふさがるほどの量を購入したところで、屋上へ。
ベンチに座り、間に戦利品を置く。
「フランクフルト、焼きそば、イカ焼き、肉串、たこ焼き、パンケーキ、りんご飴……買いすぎただろうか?」
「これくらいなら、二人で食べられるよ!」
「まあ、がんばるしかないか」
フランクフルトなどを串から外して、割り箸で二人分に切り分ける。
「そのままでもいいんじゃない?」
「どうやって分けるんだ?」
「間接キスで」
ユスティーナは、いたずらっぽく言い、
「あっ、待って。アルトとそんなに間接キスしたら、ボク、うれし恥ずかし幸せすぎてどうにかなっちゃうかも。ちょっと残念だけど、やっぱりこのままでいいや」
すぐに撤回した。
乙女心は複雑らしい。
「それじゃあ……」
「いただきまーす!」
青空の下、ユスティーナと二人でごはんを食べる。
まず最初に、フランクフルトから。
口をいっぱいに開けてかじりつくと、じゅわりと肉汁があふれる。
学生が出しているものとは思えないほどジューシーで、濃厚な味だ。
「おぉ、おいしいね!」
「これ、かなり良い肉を使っているんじゃあ……?」
こんなものを商品にして、黒字になるのだろうか?
「人気ナンバーワンに選ばれるために、赤字覚悟でやっているところもあるみたいだよ」
「そうなのか?」
「足りない分は自腹を切っているところも、そこそこあるらしいよ。人気ナンバーワンに選ばれると、学食の割引券とかもらえるみたいだから、そういうのを目的にしているクラスもあるみたい」
「なるほど。とはいえ、自腹は切りたくないなあ……」
裕福ではないため、なるべくならば出費は避けたいところだ。
ウチのクラスは同じ考えが多いらしく、自腹を切ることはなく、黒字を目指してがんばっている。
午前中はわりと盛況だったが、午後はどうなっているだろうか?
後で顔を見せてもいいかもしれない。
「アルト、アルト。次、食べよ?」
「ああ」
焼きそば、イカ焼き、肉串を食べていく。
そして、たこ焼きに手を伸ばして……
「あつ!? あふっ、あふぅ」
それなりの時間は経っているのだけど、中はまだアツアツだったらしく、ユスティーナがたこ焼きを舌の上で転がした。
耐えるように目をぎゅーっとつむり……
はふはふと吐息をこぼしながら、なんとかたこ焼きを飲み込む。
「あぅ……」
よほど熱かったらしく、ちょっと涙目になっている。
「大丈夫か?」
「舌、やけどしたかも……アルト、見てくれる?」
べーっと舌を出しつつ、ユスティーナが顔を近づけてきた。
「っ……!?」
ユスティーナは瞳を潤ませている。
たこ焼きの熱のせいか、頬は桜色に。
そんな状態で舌を差し出して、顔を近づけていて……
なんというか、これは……妙な気分になってしまう。
「アルト?」
「あ、いや……なんでもない」
これも、俺の心を掴むための作戦なのだろうか?
それとも、意識しない天然なのだろうか?
もしも後者だとしたら、将来、ユスティーナはとんでもない魔性の女性になるような気がした。
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