表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/459

132話 楽しい時間

「自分も……ですか?」

「うん。どうかな?」

「いえ、しかし……エルトセルクさんは、それでよろしいのですか?」

「よくないけどね。でも、フェアじゃない気がしたんだ。ボクはアルトのこと好きだけど、でも、正式な彼女ってわけじゃないし……だから今は、なるべく抜け駆けのようなことはしたくないんだ」

「じ、自分は……」


 ククルは迷うような顔をして……

 ややあって、穏やかに笑う。


「自分のことを気にかける必要はないのです。というか、自分は、そ、そういうわけではないですし……大丈夫であります」

「うーん……まあ、ククルがそう言うならいいか」

「それに、自分はこれから店に出ないといけませんから」

「あ、そういえばそっか」

「お気持ちだけ受け取っておくのであります。では!」


 ククルはにこやかに笑い、この場を後にした。


「それじゃあ、アルト。行こっか」

「そうだな」


 ククルだけに任せるつもりはないが……

 ユスティーナの言う通り、休める時に休んでおいた方がいい。


「どこから見たいか、希望はあるか?」

「うーん、そうだなぁ……」


 生徒会が作成したパンフレットを二人で見る。

 全クラスの出し物が記載されていて、さらに、グラウンドや屋内訓練場、講堂などで行われる演目の時間も詳細に記されていた。


 二人でじっとパンフレットを見つめて……


 きゅう。


「あっ」


 やけにかわいらしい音がした。


 ユスティーナがみるみるうちに赤くなり、お腹を両手で押さえる。

 ぷるぷると震えながらこちらを見る。


「……聞こえた?」

「……聞こえた」


 バレているだろうと思い、素直に告白する。

 ユスティーナは耳まで赤くなり、その場にしゃがみこんでしまう。


「あーうー……!? お腹の音が、よりにもよってアルトに聞かれちゃうなんてぇ! 恥ずかしすぎる、恥ずかしすぎるよぉっ!」

「えっと……俺は気にしないが」

「ボクが気にするのっ! 乙女心の問題なのっ!」

「……すまない」

「謝られると、もっと複雑な気分になっちゃうぅううう!?」


 5分ほど、ユスティーナは頭を抱えるようにして悶えるのだった。




――――――――――




 時刻は、太陽が頭上に登る頃。

 ユスティーナのお腹がかわいらしい音を立てるのも仕方ないわけで……


 俺たちは、まずは昼を食べるべく、食べ物系の出し物をしている区画を見て回る。


「ホットドッグ、ホットサンド、パンケーキ、肉串、かき氷……色々あるね! アルトはなにを食べたい?」

「一つで満腹になるものじゃないから……色々と買って、それを二人で食べ比べしてみる、っていうのはどうだろう?」

「うんっ、いいと思うな。ナイスアイディアだよ、アルト」


 いくつかのクラスを見て、外で食べられそうなものを購入して回る。

 本格的なレストランをやるところはなくて、どこも軽食ばかりだ。

 まあ、一日限りのお祭りなので、それは当たり前のことではあるが。


 両手がふさがるほどの量を購入したところで、屋上へ。

 ベンチに座り、間に戦利品を置く。


「フランクフルト、焼きそば、イカ焼き、肉串、たこ焼き、パンケーキ、りんご飴……買いすぎただろうか?」

「これくらいなら、二人で食べられるよ!」

「まあ、がんばるしかないか」


 フランクフルトなどを串から外して、割り箸で二人分に切り分ける。


「そのままでもいいんじゃない?」

「どうやって分けるんだ?」

「間接キスで」


 ユスティーナは、いたずらっぽく言い、


「あっ、待って。アルトとそんなに間接キスしたら、ボク、うれし恥ずかし幸せすぎてどうにかなっちゃうかも。ちょっと残念だけど、やっぱりこのままでいいや」


 すぐに撤回した。

 乙女心は複雑らしい。


「それじゃあ……」

「いただきまーす!」


 青空の下、ユスティーナと二人でごはんを食べる。

 まず最初に、フランクフルトから。

 口をいっぱいに開けてかじりつくと、じゅわりと肉汁があふれる。

 学生が出しているものとは思えないほどジューシーで、濃厚な味だ。


「おぉ、おいしいね!」

「これ、かなり良い肉を使っているんじゃあ……?」


 こんなものを商品にして、黒字になるのだろうか?


「人気ナンバーワンに選ばれるために、赤字覚悟でやっているところもあるみたいだよ」

「そうなのか?」

「足りない分は自腹を切っているところも、そこそこあるらしいよ。人気ナンバーワンに選ばれると、学食の割引券とかもらえるみたいだから、そういうのを目的にしているクラスもあるみたい」

「なるほど。とはいえ、自腹は切りたくないなあ……」


 裕福ではないため、なるべくならば出費は避けたいところだ。

 ウチのクラスは同じ考えが多いらしく、自腹を切ることはなく、黒字を目指してがんばっている。

 午前中はわりと盛況だったが、午後はどうなっているだろうか?

 後で顔を見せてもいいかもしれない。


「アルト、アルト。次、食べよ?」

「ああ」


 焼きそば、イカ焼き、肉串を食べていく。

 そして、たこ焼きに手を伸ばして……


「あつ!? あふっ、あふぅ」


 それなりの時間は経っているのだけど、中はまだアツアツだったらしく、ユスティーナがたこ焼きを舌の上で転がした。

 耐えるように目をぎゅーっとつむり……

 はふはふと吐息をこぼしながら、なんとかたこ焼きを飲み込む。


「あぅ……」


 よほど熱かったらしく、ちょっと涙目になっている。


「大丈夫か?」

「舌、やけどしたかも……アルト、見てくれる?」


 べーっと舌を出しつつ、ユスティーナが顔を近づけてきた。


「っ……!?」


 ユスティーナは瞳を潤ませている。

 たこ焼きの熱のせいか、頬は桜色に。

 そんな状態で舌を差し出して、顔を近づけていて……


 なんというか、これは……妙な気分になってしまう。


「アルト?」

「あ、いや……なんでもない」


 これも、俺の心を掴むための作戦なのだろうか?

 それとも、意識しない天然なのだろうか?


 もしも後者だとしたら、将来、ユスティーナはとんでもない魔性の女性になるような気がした。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ