126話 アベルの力と聖騎士の力
「ごほっ、ごほっ……いったい、なにが……?」
粉塵が辺り一帯に舞い上がり、視界が完全に塞がれてしまっている。
強烈な爆音が響いたこともあり、耳もうまく聞こえない。
そんな中、温かく優しい感触がした。
「アルト、大丈夫?」
「ユスティーナ……?」
ユスティーナに守られていたみたいだ。
怪我ないことをアピールするように、軽く頷いてみせる。
「なんか危ない感じがして、咄嗟に防御したんだけど……なにが起きたのかな?」
「アベルは待ち伏せに気づいていたみたいだ」
「それで自爆を?」
「自爆なんてするヤツじゃないな。おそらく……」
包囲されることを嫌い、魔法かなにかしらの道具を使い、廃屋を爆破。
その混乱に乗じて逃走。
あるいは、優位な位置に移動。
「……そんなところだろうな」
「おー、さすがアルト。こんな時なのに、よくそこまで分析できるね。ボク、そこまで考えることはできないよ」
「外れている可能性もあるが……」
「とりあえず、あの生意気な子を探そうか?」
「そうだな」
可能ならば、アベルをここで捕まえておきたい。
未だ埃や土煙が舞い上がる中、俺たちは周囲の様子を探り……すぐに、それに気づいた。
「おおおおおぉっ!!!」
獣のような、鋭く力強い声が聞こえてきた。
そちらの方向に視線をやると、ホークさんの姿が。
巨大な斧を己の手足のように使い、次々と重撃を繰り出している。
その対象は……アベルだ。
「へぇ、やるね。これが聖騎士の実力というわけか。なかなかだね」
「その生意気な口、すぐに閉ざしてやるよ!」
「できるものなら、ね」
さすがというか、ホークさんはアベルを逃がすことなく、捕捉していたみたいだ。
手加減は一切考えていないらしく、自慢の斧で猛撃を叩き込んでいく。
相手は子供ではあるが、国を跨いで指名手配されるような輩。
この際、生死は問わないのだろう。
「アルト殿! エルトセルクさん! ご無事でありますか!?」
こちらに気がついて、ククルが駆け寄ってきた。
怪我をした時のことを考えていたらしく、その手にはヒーリングキットが下げられている。
ヒーリングキットというのは、ポーションや薬などが入った、兵士のための救急箱のようなものだ。
「俺は問題ない。ユスティーナは?」
「ボクも平気だよ。あの程度の爆発で、竜の鱗は突破できないからね!」
どことなく誇らしげに、ユスティーナはそんなことを言うのだった。
「そうですか、よかったです」
怪我がないと知り、ククルはほっとした様子だ。
「それよりも、俺たちも一緒に戦った方がいいのでは?」
見たところ、相手はアベル一人。
こちらは複数人。
ククルだけではなくて、他に数人の聖騎士らしき人が見えた。
「そうしたいところなのですが……」
ククルは困った顔をして、ちらりと戦うホークさんを見た。
「うらぁあああああっ!!!」
ホークさんはその豪腕で、巨大な斧を振り回している。
断撃の嵐というべきか。
近づくもの全てを叩き伏せるような感じだ。
「ホーク殿は戦闘になると、周囲のことが目に入らなくなるといいますか……あのような感じで、近づくことができないのであります」
「それはまた、なんというか……」
「それに、ホーク殿は、自分たち聖騎士の中で、特に優れた力を持っているのであります。戦闘はホーク殿に任せて、自分たちはアベルを逃さないように、しっかりと包囲網を形成しておくことが大事かと」
「なるほど」
俺もあの戦いに割って入る度胸はない。
今は、おとなしく戦いを見守ることにしよう。
「まとめてブレスで吹き飛ばしたりしたらダメかな?」
「ダメに決まっているだろう」
「むう、残念」
戦いの雰囲気にあてられているのか、ユスティーナがちょっと凶暴になっていた。
「ちょこまかと避けてるんじゃ……ねぇえええええっ!」
「いや、避けるに決まってるでしょ。当たると痛そうだし」
ホークさんは休むことなく攻撃を繰り出しているが、未だ、アベルを捕らえられない。
アベルはアベルで、反撃に出ることはなく、攻撃を避けるだけだ。
あれだけの猛攻を避け続けるなんて、並大抵のことじゃない。
俺も、とてもじゃないけれど無理だろう。
アベルの実力を垣間見たような気がした。
それにしても……なんだろう?
うまく言葉にできないが、なにかしらの違和感を覚えた。
「聖騎士の力、そんなものかい?」
「なら、とっておきを見せてやるよ」
ホークさんが距離を取り、斧を上段に構えた。
天に捧げるかのように、刃を上に向けている。
「おおおおおぉっ!!!」
獣のような咆哮を発して、ホークさんが力を溜める。
魔力も練り上げているらしく、斧とそれを持つ手が輝く。
「こ・れ・で・も……くらえやぁあああああっ!!!!!」
本日二度目の大爆発。
閃光が視界を埋め尽くして、爆風に吹き飛ばされてしまう。
「ほ、ホーク殿……味方も巻き込むなんて、やりすぎなのであります……」
隣でククルがそんなぼやきをこぼしていた。
反対側を見ると、
「……きゅぅ」
ユスティーナが目を回していた。
余波で竜を気絶させるなんて、すさまじい威力だ。
改めて、聖騎士の力というものを知る。
「アベルは……」
土煙が晴れた後、アベルの姿を探すが、どこにも見当たらない。
さすがに、粉微塵に吹き飛んだということはないだろうから、逃げられたのだろうか……?
その一方で……
「ホーク殿っ!?」
ククルの悲鳴のような声。
見ると、ホークさんの脇腹の辺りが血に濡れていた。




