125話 囮捜査、決行!
三日後。
竜友祭の準備もいよいよ切羽詰まってきたのだけど……
そんな中、俺とユスティーナは王都の外に出ていた。
竜友祭は大事だけど……
アベルを捕まえて、未然にテロ計画を防ぐことの方が大事だ。
「アルト、ここでいいのかな?」
「ああ、間違いないだろう」
ホークさんの提案した作戦に従い、王都の外にある廃屋にやってきた。
昔は、この辺り一帯も住宅街が広がっていたらしいが……
大規模な災害が起きて、復興は無理と判断されて放棄されたらしい。
この廃屋は、その時の名残だ。
「外から見たらボロボロだったけど、意外と丈夫そうだね」
ユスティーナがこんこんと廃屋の柱を叩いた。
しっかりとした音が響くところを見ると、柱としての機能はしっかりと保たれているのだろう。
「こんなところがあったなんて、意外だな」
「アルトも知らないの?」
「王都に来て、まだ数ヶ月だからな。王都の中ならともかく、外のことなんてぜんぜん知らないさ」
ホークさんによると、俺たちをエサにして、アベルがこの廃屋に現れるように情報操作をしたという。
一見するとボロボロの廃屋だけど、中はしっかりとした作りで、壁に穴が空いているということはない。
これなら周囲に身を潜めていたとしても、そうそう簡単にはバレないだろう。
そして、いざという時は、俺たちが脱出した後、廃屋ごと潰してしまう……なんていう荒っぽい方法もとることができる。
なかなかに考えられた作戦だった。
「でも、あの子供、本当に来ると思う?」
「どうだろうな……根拠のない勘になるが、アベルはこういう罠には引っかからない気がする」
どのような情報を流したのか、それはわからないが……
アベルはとても賢い子供だ。
子供の範疇に遥かに超えた知能を持っているような気がする。
そんなアベルが、のこのこと罠に顔を出したりするだろうか?
ホークさんの手腕を疑うわけではないのだが……
この作戦、なかなかに難しい気がした。
「……アルト、人の気配がするよ」
「本当か?」
「うん。まっすぐ、この廃屋に近づいているよ」
ユスティーナの言うことだから、間違いはないだろう。
俺は槍を手にして、ユスティーナはいつでも動けるように構える。
そして……廃屋の扉が開く。
「やあ」
気が抜けるほどに気楽な挨拶をしつつ、アベルが現れた。
魔法などで他人が化けている……という感じはしない。
見た目は普通の子供なのに、猛獣と相対しているような鋭い気配……
これは、間違いなくアベルだ。
俺の勘は、外れたのだろうか……?
「久しぶり……っていうほどでもないか。こんにちは、アルトさん」
「あ、ああ……」
「どうしたの? キョトンとして。アルトさんが僕を探しているって聞いたから、こうして姿を見せたのに。場所も、わざわざそっちが指定してきたんじゃないか」
「それはまあ、そうなんだけどな」
アベルが現れた時は、とにかく時間を稼げと言われている。
ただ、アベルがどんな言動に出るか、それはホークさんも予想がつかないらしい。
なので、台本なんてものはない。
ぶっつけ本番で、全てアドリブだ。
適当に話を合わせつつ、引き伸ばしを計る。
「本当に姿を見せるとは、思っていなかったんだ」
「そうなの? 僕が現れるという確信があったから、あんな話をバラまいたんじゃないの?」
あんな話って、どんな話だ?
ホークさん、あなたは、どういう作戦を練ったんですか……
少しでも聞いておけばよかった。
アドリブをする方としては、いつボロが出るんじゃないかと、たまったものじゃない。
「まあ……なにはともあれ、また会えてよかった。アベルとは、もう一度、話をしたいと思っていたんだ」
「僕は、それはもうちょっと後になるかな、と思っていたんだけど……あの話をされたりしたら、さすがに困るからね。こうして、わざわざ姿を見せた、っていうわけさ」
なんだろう……?
なにか違和感を感じる。
持って回ったような言い方は、アベルが好んで使う。
だとしても……
どこかでなにかが違うと、違和感を覚えていた。
この感覚は……
「竜のお姉さんも、元気だったかな?」
「もちろん。今すぐにでも、キミをボッコボコにできるくらいに元気だよ」
「なんでそんなに好戦的なのかなあ……」
「ボクのアルトに、変なちょっかいをかけるからに決まってるじゃない! ボクのアルトをたぶらかすヤツは、みーんな敵っ!」
何度も言うが、俺はまだユスティーナのものではない。
というか……
ユスティーナのヤツ、演技ではなくて、素で話をしているな。
まあ、よくも悪くもまっすぐな子だから、演技はちょっと難しいだろう。
ユスティーナはユスティーナが思うまま、行動すればいいか。
「アルトさんをたぶらかすつもりなんてないんだけどね」
「白々しい。アルトを反竜組織なんかに誘っておいて、よくそんなことが言えるね」
「言ったよね。それには、きちんとした理由がある。竜との共存は、いずれ人の世界を壊す。だからこそ、僕は反竜組織に参加しているんだよ」
「で……アルトにもそれを強要するの?」
「強要はしないさ。自発的に動いてくれないと、意味ないからね。アルトさんみたいな人に無理強いしたら、後で痛い目に遭うよ」
「……次会った時、詳しい話をしてくれると言っていたな? それについては」
話を引き伸ばすためでもあるが……
それ以上に、アベルの話が気になった。
なにを考えているのか?
そして、竜との共存が人の世界を壊すという、その言葉の意味は?
それを知りたい。
「うーん」
アベルはもったいつけるような感じで、悩ましそうな声をこぼす。
「確かに、約束したからね。それに、僕らのことをアルトさんに知ってもらうことは、望むことだ。詳細を話してもいいよ」
「本当か?」
「ただ……」
そこで言葉を止めて、アベルは壁を見る。
いや……
壁を見ているわけじゃない。
その向こうに潜んでいるであろう、ククルやホークさんたち、聖騎士を見ている!?
「こんなに人が多い中だと、ちょっと無理だなあ。僕、シャイなんだよね」
「っ……!? アルトっ!!!」
アベルがニヤリと笑い……
次いで、ユスティーナが俺を抱き寄せた。
そのまま、一部の変身を解除。
背中に竜の翼を顕現させると、盾のように俺たちを包み込む。
直後……
ゴォッ! と爆音が響いた。




