表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/459

122話 対抗策は?

「アベルに会ったのでありますか!?」


 夜。

 ユスティーナと二人でククルの部屋を尋ねて、アベルのことを話した。


 こんな時間になってしまったのは、ククルが聖騎士の仕事で席を外していたからで……

 できることなら、もっと早くに報告を……と思う。


「そ、それは本当なのでありますか? 瓜二つの他人とか、あるいは、名を騙る偽物とか……」

「それはないと思う。そもそも、俺たちはアベルの顔を知らないから、瓜二つとか言われてもわからない」

「ボクもアルトに同感かな。ボクは積極的に話はしていないけど、あれ、普通の子供じゃなかったよ。ボクでさえ、警戒するような相手なんて、なかなかいないからね」

「む、むうう……」


 ククルは頭を抱えて、悩ましげに唸る。

 よほど、衝撃的だったのだろう。


 まあ、当たり前か。

 正体不明で、行方不明の神出鬼没。

 そんな犯罪者が、友達のところにいきなり顔を見せた。

 普通、信じられる話ではないと思う。


「というか、なぜ自分に相談してくれなかったのでありますか!?」

「それに関しては、すまないとしか……」


 聖騎士であるククルが同行すれば、アベルは姿を見せない気がした。

 また、その場で武力衝突に発展する可能性があり、事件になってしまう。


 そんなことを考えて、真偽を確認するまでは……と思い、伏せていたのだけど。

 やはり、一言くらいは言っておくべきだったかもしれない。

 アベルを捕まえる絶好の機会を自分から手放したようなものだからな。


「まあ……アルト殿の言うことも、わからないではありません。おそらく、自分が同行すれば、姿を見せなかったでしょう。それくらいに、ヤツは狡猾ですから」

「次のコンタクトがあれば、その時は必ず連絡すると約束をする」

「よろしくお願いするのです。ただ、その機会はなさそうですが」


 だよな。

 アベルも、こちらが警戒していることくらい簡単に想像できるはずだ。

 そんな中、のこのこと顔を見せるようなことはしないだろう。


「背教者が所属する反竜組織『リベリオン』でありますか……ウロボロス商会といい、頭の痛い話題が尽きないのです……」

「ウロボロス商会? なんだ、それは?」

「国境をまたいで、各国で暗躍する死の商人なのです。金さえ積めば、どんな武具も用意するという、悪質極まりない相手です」

「それが動いている……と?」

「はい。最近は、アルモートを拠点に活動しているらしく……大きな動きが見られました。アベルとなにかしらの関わりがあると考えた方が、自然でしょう」

「そうだな」


 ひょっとしたら、関係ないかもしれない。

 単なる偶然で、両者の動きがたまたま一致しているだけかもしれない。


 しかし、気をつけるに越したことはない。

 もしも両者が手をくんでいたら……

 厄介極まりない事態に発展するだろう。


「捜査の方は?」

「詳細は話せないのですが……連中のアジトをいくつか発見して、複数人の関係者を捕縛しました。ただ、アベルに繋がる手がかりは皆無なのであります。本当に、先の機会を失ったことが惜しいのです……」

「いや、その……本当にすまない」

「あ、いえ……こちらこそ、ネチネチとした感じになってしまい、申し訳ないのであります。相手は背教者。例え姿を見せることが事前にわかっていたとしても、一筋縄ではいかないでしょうし……アルト殿の言う通り、周囲への被害を考えれば、なにもできなかったでしょう」


 ククルはフォローしてくれるものの……

 やはり、事前に連絡はいれておくべきだったな。

 俺の勝手な判断で、絶好の機会を逃してしまった。

 そのことが、ひたすらにもうしわけない。


「ううん、アルトは気にする必要はないよ」


 こちらの心中を察した様子で、ユスティーナがそうフォローを入れてきた。


「しかし、俺の判断は間違っていたからな……」

「そうとも言い切れない……というか、むしろ逆だよ。アルトの判断は、すごく正しいの」

「どういうことだ?」

「もしかして、エルトセルク殿は、なにか掴んでいるのですか?」

「掴んでいる、っていうほどじゃないんだけど……あの場では、色々と見てきたかな」


 ユスティーナは、俺が気づいていない事実を口にする。


「あいつ……下手に手を出していたら、爆弾かなにかを使っていたと思う」

「「なっ!?」」


 俺とククルの驚きの声が重なる。


「ボクは竜だから、鼻はいいんだよね。犬ほどじゃないけど。で……あいつの周囲から火薬の匂いがしたの。火薬がそこらに転がっているわけないから、あいつが用意したもので間違いないと思う」

「つまり……アベルが望まない行動をとっていたら」

「ぼんっ、といってたと思うよ。他人を巻き込むことに、躊躇を感じるような人間には見えなかったからね」


 なんてことだ。

 そこまで危険な相手だったとは……

 俺は、アベルという少年を過小評価していたみたいだ。


「だから、アルトの行動は正解。ククルなんかを連れて行ったら、どんな行動に出ていたか」

「なるほど……それなら、仕方ないのでありますね」


 ひとまず、俺のアベルに対する行動についての話は、これで終わりに。

 過ぎたことをいつまでも話していても仕方ない、という感じだ。


 ここから先は、これからどう動くのか? についての話だ。


「背教者に死の商人……それに、襲撃予告。頭の痛い話ばかりだな」

「予告の日、アルモートは国中に竜騎士や憲兵隊を配置して、最大限の警戒にあたる模様です。自分たち聖騎士も、その警護に加わることになります。自分は、学院を担当するのであります」

「ククルがいてくれれば、心強いよ」

「はい。その期待に応えられるように、がんばるのであります」

「でもさー」


 ユスティーナが苦い顔をして口を挟む。


「結局のところ、後手後手に回っているよね? なにかこう、先手を打つことはできないの?」

「そこが悩みの種なのであります……」


 ククルは親指と中指でこめかみの辺りを揉む。


「さきほど、アジトをいくつか潰したと言いましたが……そのほとんどが偶然による産物。他の事件の捜査の最中に、偶然、浮上してきた情報でして……敵の情報を掴むことはできていない、というのが現状であります。まったくもって、情けない話なのです……」


 聖騎士はククルだけじゃなくて、他にもアルモートに入ってきているという話だ。

 それに、竜騎士や憲兵隊も協力しているだろうし……

 それなのに尻尾を掴ませない敵は、素直にすごいと言わざるをえない。

 いったい、どのようにして捜査の手を逃れているのだろう?


「いっそのこと、ボクたちも協力しようか?」


 ユスティーナがそんなことを言い出した。


「たち、っていうことは……竜族そのものっていうことか?」

「うん。ボクたちが動けば、ある程度、事態は進展すると思うよ」

「そうかもしれないが……でも、そんなことできるのか? 国が攻め込まれるなどの重大な非常時でなければ、竜は動かないだろう」


 それは、人と竜との間で結ばれた協定にある内容だ。

 なんでもかんでも竜に頼っては、人は上に行くことができないし、それどころか衰退してしまう。

 故に、竜はここぞという時しか力を貸してくれない。


「全員、っていうのはさすがに無理だけど……ボクが言えば、半分くらいは動いてくれると思うよ? 一応、竜の王女さまだからね!」

「そんな勝手をしていいのか? 後で問題にならないか?」

「パパ、ごめんなさい♪ って言えば、お父さんがなんとかしてくれると思うから」


 あ、あざといな……

 ついついユスティーナの父親に同情してしまう。


「ククル、どうする?」

「……では、お願いしたいのであります。できれば、あまり大事にはしたくないのですが……この事件、放っておけばとんでもないようなことになる予感がするのです。できることがあるのならば、今のうちに手を打っておくべきだと思うのです」

「りょーかい! じゃあ、さっそく山に戻って……」

「あっ、その前に、二人にお願いしたいことがあるのです」

「うん?」


 ユスティーナが足を止めて、なんだろう? と振り返る。

 たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。


「明日、他の聖騎士と顔を合わせ、会議を開くのですが……アルト殿とエルトセルクさんにも参加いただけないでしょうか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] ユスティーナはそんなことをして、最終的にはお母さんの雷が父親もろとも落ちるというところまで、考えないのだろうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ