120話 仲間になろう
「なっ……」
あまりに唐突で、かつ、予想すらしていなかった提案に絶句してしまう。
俺を反竜組織の仲間に?
それは、本気で言っているのだろうか?
そんなことが実現すると、そう考えているのだろうか?
思わず、まじまじとアベルの顔を見つめてしまう。
「どうかな?」
「どうかな、と言われても……それは本気なのか? 冗談ではなくて?」
「もちろん本気さ」
アベルがなにを考えてこのような発言をしているのか、わからない。
単純に、俺の力を買っているのか。
それとも、ユスティーナに好意を寄せられているというポイントを気にしているのか。
あるいは、まったく別のところに目をつけているのか。
その真意が読めず、混乱してしまう。
「ちょっと!」
たらまずという感じで、ユスティーナが会話に割り込む。
「ボクのアルトが反竜組織なんかに加わるわけないでしょ! 寝言は寝てから言ってくれる!?」
まだユスティーナのものになったつもりはないのだが……
「竜の王女さまは反対なの?」
「当たり前でしょ! そんなことになったら、ボクたち、離れ離れになっちゃうじゃない! アルトがいないと、ボク、もう生きていけない体になっているんだから!」
その言い方、誤解を生みそうだからやめてほしい。
「アルトさんは、どう思うのかな?」
「アベルがなにを望み、どんなことを考えて俺を仲間にしようとしているのかわからないが……反竜組織の仲間になるなんてことは、欠片も考えていない」
「それはどうして?」
「竜は、俺たちと共に道を歩む友達だから」
「友達……か」
アベルは、どこか寂しそうな顔を見せた。
その顔は、すごく人間味にあふれていて、とてもじゃないけれどテロリストとは思えない。
なぜ、そんな顔をする?
なぜ、竜を敵視する?
本当はいけないのかもしれないが……
アベルに対しての興味が湧いてきた。
話を聞くだけならば、聞いてもいいかもしれない。
仲間になるということはないのだけど……
単純に、アベルのことを知りたいと思う。
「どういうことなのか、詳しい話をしてくれないか?」
「おっ、考え直してくれる気に?」
「いや。反竜組織に入るということは、どう転んでもないと思う」
「なんだ、残念」
「でも……キミのことは知りたい」
「へぇ……」
アベルがおもしろそうな顔になる。
「てっきり、断られてそこで終わり、って思っていたんだけど……そっか、なるほど。僕に興味を持ってくれたんだ。うんうん、よかった。こうして、直接足を運んで、顔を見せた甲斐があったよ」
「その言い方だと、俺がキミに興味を持つことを予想していたのか?」
「ある程度はね。まあ、100パーセントの確信があったわけじゃないから、そこは賭けになるんだけど」
「俺は、まんまとキミの話術の乗せられた、ということか」
やはり、侮れない。
見た目は子供だけど、心は大人のように成熟していて……
その思考や知恵は、俺を遥かに上回る。
「むううう……」
ユスティーナは不満そうにしていたが、おとなしくしてくれた。
俺の意向を尊重してくれているのだろう。
後でお礼をしないと。
「それじゃあ、僕の話をしようか。うーん、どんなことを話したものかなあ?」
「俺から質問をいいか?」
「どうぞ」
「なぜ、反竜組織に?」
アベルのような少年が反竜組織に加わるなんて、かなり異常なことだ。
どんな経緯で、なにを考えているのか?
そこを知ることで、アベルという少年のことを深く知ることができるような気がした。
「うーん、そうだね。それを語ることは別にいいんだけど、けっこう長くなっちゃいそうなんだよね。ほら、僕って裏では指名手配されているじゃない? 下手したら、今すぐにでも見つかるかもしれないし、あまり長いこと、表に顔を出すことはしたくないんだよね」
「その割に、俺に会いに来たんだな」
「それだけ、僕はアルトさんのことを評価しているのさ」
わからない。
いったい、俺のどこを評価しているというのか……
個人の調査をすることは、今の時代、わりと簡単なことだ。
魔法や魔道具を使えば監視はできるし、そんなことをしなくても、聞き込みをすればいい。
俺は身分を公にしているのだから、隠れることはできず、大体の情報は引き出すことが可能だろう。
だから、アベルは俺について、だいたいのことは知っているはずだ。
反竜組織になんて加わらないと、容易に想像できたはずだ。
それなのに仲間に誘う理由。
そこがわからない。
「だから、長々と説明することはできないんだ。そこは勘弁してほしいな」
「要約しても構わないから、アベルが反竜組織にいる理由を教えてくれ」
「うん、いいよ」
アベルは笑いながら言う。
「竜との共存は、いずれ人の世界を壊すことになる。だから、僕は竜を排除したい。理由としては、そんなところかな?」
「人の世界を壊す……?」
それはどういう意味なのか?
街などが破壊されるという、物理的な意味なのか。
あるいは、心が衰退するというような、精神的な意味なのか。
どちらにしても、かなり物騒な話だ。
真偽のほどはわからないが……
今の話を信じるならば、アベルは人のために動いている、ということになるわけか。
「信じられない?」
こちらの心中を覗いているような感じで、アベルは問いかけてきた。
「まあ、な」
「だよねー。でもでも、それは正しい反応だよ。いきなり人の世界が壊れます、なんて言われて信じる方が、逆にどうかしてるからねー。そういう意味では、アルトさんの反応は正しいと思うよ。うん、問題なし」
「自分の話を信じてもらえないのに、ずいぶんと気楽なんだな」
「最初から、いきなり信じてもらえるとは思っていないからね。協力をとりつけるにしても、もっと色々なことを説明しないといけないと思っているし……まあ、今は僕のことを多少でも気にかけてくれればオッケー、っていう感じかな」
ホント、わからないな……
この少年は、いったいなにを考えているのだろう?
言動から悪意のようなものは感じないのだけど……
しかし、その言葉は穏やかなものではなくて、ともすれば今の社会を壊すような内容だ。
心を許していい相手ではないと思うが……はたして?
「とりあえず、今日はこれで帰るね。これ以上長居したら、さすがに竜騎士とか、そこらに入り込んでいる聖騎士とかに見つかっちゃいそうだから」
「話は終わりなのか?」
「言ったでしょ。今日は顔合わせのようなもの」
アベルはニヤリと、なにかを企むような笑みを見せる。
「アルトさんは、僕の言葉の意味を考えておいてほしいな。次、会う時は、もっと詳しい説明をするから……その時に、改めて返事を聞かせてくれればいいよ」
「どんなことを説明されたとしても、俺の考えは変わらない」
「うんうん、その頑固なところもアルトさんらしいね。でも……本当に考えが変わらないか。人と竜の真の関係を知った時も同じことを言えるかどうか……楽しみにしているよ」
「真の関係……? それは、いったい……」
問い返そうとするが、すでにアベルの姿はなかった。
いったい、アベルはなにを知っているのか?
そして、なにを考えているのか?
嵐の予感がした。
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