118話 背教者
翌日。
俺はユスティーナと一緒に、街へ繰り出した。
その目的は、昨日の男の子と会うためだ。
「ねえねえ、アルト。その子、本当に例の犯罪者なの?」
「……わからない」
アベルと名乗った男の子。
年齢は12くらい。
ククルから聞いている特徴と、ピタリと一致した。
しかし、それだけで判断するわけにはいかない。
そういう子は、探せばいくらでも出てくるだろう。
名前が同じというのは、さすがに珍しいかもしれないが……
やはり、決め手に欠ける。
とはいえ、まったくの無警戒で会いに行くというわけにはいかない。
いざという時に備えておかなければ。
ただ、ククルは聖騎士という身分のため、顔が割れている可能性がある。
なので、ユスティーナに同行をお願いすることにした。
「見た感じは普通の子供だ。年齢にしては落ち着いているような印象はあるが……まあ、そんな子供もいないわけではないと思う」
「なら、なんでボクを? いや、どんな理由であれ、アルトとお出かけできるのはうれしいんだけどね♪」
「……勘だな」
「勘?」
「根拠というものは、まったくないんだ。名前が同じという理由はあるが、そういう子も、探せば他にも見つかると思う。ククルの話を聞いているから、過敏になっているのかもしれない」
「実はなんでもありませんでした、っていう可能性が高い?」
「そうだな、高いと思う」
ただ……
俺の中で、なにかが警告を発しているのだ。
あの子供は普通じゃない。
なにかが隠されている。
それを、決して見過ごしてはいけない。
そんな勘が、俺を突き動かしている。
「そういうことなら、ボクもいつも以上に注意しておくよ」
「ただの勘なのだけど、信じてくれるのか?」
「んー……勘を信じるっていうよりは、アルトを信じるんだよ。だってだって、ボクの大好きな人だからね」
ちょくちょくと好意をぶつけてくるため、対応に困る。
うれしいとは思うが、どうしていいかわからないところがあり……
なあなあな返事になってしまう。
とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかない。
近いうちに、きちんと考えることにしよう。
とはいえ、今はアベルと名乗る男の子の件だ。
そちらを優先して考えなければ。
「いざという時は任せてね。ボクがなんとかしてあげる」
「男として情けないが……でも、頼りにさせてもらうよ」
「情けないなんてこと、ぜんぜんないと思うよ。むしろ、変に意地を張られて無茶な事をされる方がかっこ悪いと思うな」
「そうだろうか?」
「そうだよ。その点、アルトはそんなことはないし、素直に甘えてくれる。頼りにされてうれしいと思うのは、男の子だけじゃなくて女の子も同じなんだからね」
「そういうものなのか」
「そういうものなんだよ♪」
それで、今朝からずっと機嫌が良かったのか。
女の子……というか、ユスティーナの心は複雑だ。
その後、他愛のない話をしつつ、約束の場所へ。
周囲を軽く見回すが、まだアベルは来ていないみたいだ。
「その子はまだいない?」
「ああ。少し早かったかもしれないな」
「すっぽかされた、っていうことは?」
「……どうだろうな。向こうから会うことを望んできたから、それはないと思うが」
「うーん……聞けば聞くほど、妙な感じだよね」
ユスティーナも、言葉にできない違和感を覚えているらしく、微妙な顔になる。
アベルと名乗る男の子は、なにもない普通の少年なのか?
それとも、ククルが追う背教者なのか?
その点を、しっかりと見極めないといけない。
「やあ、アルトさん」
5分ほどしたところで、アベルが姿を見せた。
「ごめんね。ちょっと遅刻しちゃった」
「いや、大して待っていない」
「でも、お礼をするために来てもらったのに待たせちゃうなんて……あー、自己嫌悪しちゃいそうだよ」
本気で落ち込んでいるらしく、アベルはがっくりと肩を落としていた。
その姿だけを見るならば、ちょっとだけ大人っぽい、普通の男の子だ。
「それじゃあ……って、あれ? お姉さんは?」
「ボクは、ユスティーナ・エルトセルク。アルトの彼女だよ」
「違う」
しれっと彼女を自称するユスティーナ。
一応、そこは否定しておいた。
「えっと……どういうこと?」
「彼女は、俺の友達なんだ」
「そして、未来の彼女兼妻だよ」
「違う」
「えっと……?」
アベルがさらに混乱した顔になる。
話がややこしくなってしまうので、ユスティーナを下がらせた。
「まあ、色々とあって、ユスティーナが同行してもいいか? 要するに、今日は一緒に話をしたりするようなものだろう?」
「うん、構わないよ。遊ぶなら、人数が多い方がいいからね」
渋られることもなく、簡単に了承された。
この子が、本当に背教者だとしたら、人が増えることは望ましくないはずだ。
それに、ユスティーナのことも警戒するだろう。
しかし、そんなことはなくて……
同行を快諾してくれている。
背教者ではないのだろうか……?
「アルトさんとお姉さんは、もうごはんは食べた?」
「いや、まだだ」
「なら、ごはんを食べようよ。おいしいところを知っているんだ。もちろん、昨日のお礼として僕がおごるよ」
「それは……」
「お礼、させてくれるんだよね?」
「……わかった。ごちそうになろう」
こんな子供におごってもらうなんて、どうかと思うが……
そもそもの目的が、アベルがお礼をしたい、というところにある。
そこを否定するような行動をしては話が進まないと思い、ひとまず了承することにした。
さすがに、全額をおごってもらうのはもうしわけないので……
多少を負担してもらう形にして、最終的に納得してもらおう。
そんなことを考えつつ、アベルに案内されて、料理を提供する店へ。
店内にはたくさんの調度品が飾られている。
一つ一つにとても丁寧な細工が施されていて、かなりの値段がしそうだ。
そんな店でごはんを食べるなんて、なかなかにない経験だ。
というか、平民の学生ができることじゃない。
「アルトさん、なにを食べる? なんでもいいよ」
「えっと……」
「もしかして、値段の心配をしてる? それなら気にしなくていいよ。僕、それなりにお金を持っているからね」
貴族の子なのだろうか?
だとしたら、納得ではあるが……
怪訝に思いつつも、とりあえず注文を済ませた。
料理を待つ間、当初の目的である話をすることに。
「まず最初に……あらためて、昨日は助けてくれてありがとう。お兄さんのおかげで、無用なトラブルに巻き込まれないで済んだよ」
「どういたしまして」
「お礼に今日はごはんをごちそうするから、遠慮なく好きなだけ食べてね」
「……こんな店を気軽に利用できるなんて、すごいな」
「うーん」
俺の言葉を受けて、アベルは迷うような声をこぼす。
「やっぱり、予定を変更しようかな。このまま上辺だけの探り合いをしていても、話はぜんぜん進みそうにないからね」
「どういう意味だ?」
「改めて自己紹介するよ」
アベルは笑いながら言う。
「僕は、アベル。フィリアを追われた、背教者と呼ばれている犯罪者だ」
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