112話 夜の語らい
「ふむ、男女逆転喫茶か……おもいきったことをしたね」
夜。
寮のラウンジに集まり、みんなで竜友祭の話をしていた。
まず最初に、俺達のクラスのことを話して……
それから、テオドールのクラスの出し物についての話になる。
「僕たちは、お化け屋敷を開くことになったよ」
「へぇ、お化け屋敷か。おもしろそうだな」
「本格お化け屋敷を目指していてね。今は、野良のゴーストを捕獲して、調教を考えているところさ」
それはお化け屋敷ではなくて、魔物屋敷になるのではないか……?
「しかし、うむ……男女逆転というのは、本当におもしろいね。エルトセルク嬢やイシュゼルド嬢、ステイル嬢の男装執事はなかなかに楽しみだよ」
「まだアイディアの段階だから、本当に似合うかどうかわからないけどねー。でもでも、ボクはけっこう楽しみにしているんだ」
「私も楽しみにしていますわ。男装なんて、初めてなので」
「あたしは……ぶっちゃけ、ちょっと恥ずかしいかな? 自分で言うのもなんだけど、ものすごく様になりそうな気がして……女の子としての自信が失われそう」
ジニーは少し後ろ向きな意見を口にするが……
なんだかんだで楽しそうにしている。
初めての竜友祭。
絶対に成功させたいところだ。
「しかし、男女逆転ということは……アルトとグランは、女装をするのかい?」
「うっ……嫌なことを思い出させてくれるぜ……」
グランがげんなりとした様子になる。
たぶん、俺も似たような感じになっていると思う。
最初は良いアイディアだと思ったのだけど……
よくよく考えてみれば、俺たちは女装をすることになる。
冷静になると、なかなかにキツイ展開だ。
「当日が楽しみだな。そうだ、画家を雇い、君たちの晴れ姿を描いてもらおうか?」
「やめてくれ……」
テオドールは実に楽しそうだ。
「俺が女装とか、マジで誰得なんだよ……」
「ホント、それね。兄さんの女装なんて見たら、目が潰れちゃうわ。当日は、治癒院の手配をしておいた方がいいかもしれないわね」
「おいこら、そこまで言うか?」
「なら兄さんは、自分の女装に自信があるとでも?」
「すいません、ありません……」
妹に弱いグランであった。
「でもでも、ボク、アルトはけっこういけるんじゃないかなー、って思っているんだよね」
「どういうことだ? 俺に、女装が似合うとでも?」
「うん」
ものすごくハッキリと頷かれてしまい、なんともいえない気分になる。
俺は、そういうタイプに見えていたのだろうか……?
ついつい、長時間かけて考えてしまいそうになる。
「だって、アルトは顔がスッキリとしているじゃない? お化粧をすれば、けっこういい感じになると思うんだよね。背は高いけど、そういう女の子もいるし」
「言われてみると、エルトセルクさんの言う通りかもしれませんわね……」
「ホント。アルト君ってば、意外と女の子になれる素質があるのかも?」
そんな素質はいらない。
心の底から拒否させてもらうぞ。
「でしたら、今、試してみるのはいかがでありますか?」
ククルが恐ろしいことを言い出した。
俺はすぐに拒否しようとするが、それよりも先に、女性陣が反応してしまう。
ユスティーナを始め、みんな目をキラキラとさせて頷く。
「うんうん。それ、いいね!」
「あたしの部屋に行きましょう」
「なら、私は化粧品を持ち込みますね」
「いや、待て。俺はそんなことをするとは、一言も……」
「ほらほら、アルト。早く早く。みんなを待たせたらダメだよ」
「お、おい、ユスティーナ……?」
ユスティーナがぐいぐいと俺を押す。
竜の力が思う存分に発揮されていて、抗うことができない。
「ぐ、グラン!」
助けを求めるが、
「……がんばれよ」
自分にとばっちりが及ぶことを恐れたらしく、見捨てられてしまう。
この世は無情だ。
そんな絶望を覚えつつ、俺はジニーの部屋に連行されるのだった。
――――――――――
1時間ほど女性陣のおもちゃにされて……
俺は、再びラウンジに戻った。
グランとテオドールの姿が見えるが、二人共こちらに背を向けている。
女性陣の指示だ。
びっくりさせたいらしい。
「……ユスティーナ」
「うん、なに?」
「俺は今、どんな風になっているんだ……?」
女の子の服を着て、カツラをつけたことはわかる。
ただ、肝心の顔がどうなっているのか、それがわからない。
何度頼んでも、鏡は見せてくれなかったのだ。
ユスティーナは、ニヤニヤとものすごく楽しそうな笑みを浮かべる。
「アルト、すっごく綺麗だよ♪」
「それは、本心なのか? それとも、笑えるという意味なのか?」
「さあ、どっちでしょう?」
とぼけられてしまう。
そんな態度を見ていると、ますます不安になってきた。
俺は今、どんな姿をしているんだ……?
鏡を見れないだけで、こんなにも心細くなるなんて。
「それじゃあ、お披露目といこうか」
「二人共、合図で振り向いてくださいね」
「というわけで……3、2、1……ゼロ!」
ゼロの合図と共に、グランとテオドールが振り返る。
その視線がこちらを向いて……
「「っ!?」」
二人共、ものすごく動揺した。
目を大きくして、口を開いて、唖然としている。
なんだ? それは、どういう意味の反応なんだ?
やはり、ゲテモノを見た、という感じなのだろうか。
ものすごく恥ずかしい。
気分としては、く……殺せ、というものだ。
「これは……」
「うむ……」
「……二人共、言葉を濁していないで、ハッキリと言ってくれて構わないぞ。似合っていないとか笑えるとか、そういう言葉が飛び出すことは覚悟しているからな」
「「綺麗だ」」
「……なんだって?」
俺をからかっているのだろうか?
そんなことを考えるのだけど、二人の顔はいたって真面目だ。
いや、真面目というか……
頬を染めている?
視線もどこか熱がこめられていて、じっとこちらを見つめている。
「なんていうか、うん……すごく綺麗で可憐だね。アルト、君は本当に男なのかい?」
照れた様子でそんなことを言わないでほしい。
「いや、マジですげえわ……俺、今のアルトならいけるかも」
なにがいけるんだ?
そういうことは言わないでほしい。本当に。
「ボクたちの言った通りでしょ?」
ユスティーナが、一仕事やり遂げたというような顔をして、にっこりと笑う。
「今のアルト、すごくかわいいよ♪」
「そんなことを言われてもな……本当なのか?」
「本当だよ。はい、鏡」
手鏡を渡された。
恐る恐る覗き込んでみると……美少女がいた。
いや、自分で言うなとツッコミを入れられるかもしれないが、他に表現できないのだ。
鏡に映っているのは、紛れもない女の子で、しかも美少女。
「これ……本当に俺なのか?」
「本当だよ。ふふっ、これからはその格好をしてみようか? きっとモテモテだよ」
「勘弁してくれ……」
これはこれで反応に困る。
あと、スカートがものすごく落ち着かない。
披露はしたので、早いところ元の姿に戻ろう。
そんなことを思った時、ノルンが現れる。
昼寝をしていたため、部屋に残してきたのだ。
「あうっ!」
雰囲気と匂いで俺と判断したらしく、ノルンがこちらへ。
ただ、俺の顔を見ると、ビクッと体を震わせて困惑する。
「あ……あぅ……?」
俺のはずなのに、顔が違う。
そのことにとても困惑しているらしい。
何度もこちらの顔を見て……
やがて、混乱の極みに達したらしく、じわりと涙が浮かぶ。
「あう、あうううううっ!」
「の、ノルン!?」
「わぁっ、な、泣かないで! アルトなら、ちゃんとここにいるから!?」
その後……
混乱するノルンをなだめるのに、数十分を費やすことになった。
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