110話 まずは竜友祭の準備を
テロ予告に対して、潜入捜査及び警備をすることになったククルだけど、今すぐにできることというのは少ない。
情報が足りていないのだ。
敵である、アベルという謎の背教者。
その姿はわからず、どこにいるのか、まったく掴めていない。
目的もいまいち不透明で、本当に学院が狙われているのかも怪しい。
そんな状況で、ククルにできることは少なくて……
今は、情報が集まるまでの間、学院で目を光らせておくことしかできない。
「思うように動けないというのは、歯がゆいであります……」
ククルは悔しそうに言うのだけど……
俺から言わせると、少し肩の力を抜いた方がいい。
もちろん、彼女が背負う任務は重大だ。
ミスは許されない。
ククルは責任感も強いし、気負う気持ちはわかる。
でも、無理をしてもいいことはない。
かつて、俺がそうしていたように……
考えすぎてしまうと、逆に視野が狭まり、いざという時に動けなくなってしまうものだ。
だから、
「今は、竜友祭の準備を一緒に楽しまないか?」
「しかし、そのようなことをするなんて……」
「もちろん、警戒はするさ。俺たちも協力する。でも、ずっと張り詰めていたら疲れてしまうし、いざという時に動けない。適度に気を抜くことも必要だと思う」
「そう言われると……そうかもしれないのであります」
そのような感じでククルに納得してもらい……
彼女も一緒に、竜友祭の準備に参加することになった。
――――――――――
翌日。
1限目の授業は、特別にホームルームに変更された。
議題は、竜友祭の出し物について。
竜友祭は一ヶ月後だけど、準備などがあるため、そろそろ決めておかないと間に合わないのだ。
「まずは、竜友祭の実行委員を決めたいのですが……立候補はいますか? ちなみに、男女問わず三人です」
壇上に先生が立ち、クラスメイトたちを見回した。
手を上げる生徒はいない。
竜友祭は楽しみではあるが……
初めての経験なので、運営する側に回るとなると、どうしても不安が出てしまう。
それ故に、みんな、迷っているのだろう。
「はい!」
停滞する空気を打ち破るように、凛とした声が響いた。
ユスティーナだ。
とても楽しそうな顔をして、高く手を挙げている。
「えっと……エルトセルクさん、立候補ということですか?」
「はい、立候補します! 竜友祭とか、すっごく楽しそう!」
「えー……はい、わかりました。では、お願いします」
先生は迷うような声を漏らしたものの、結局、ユスティーナにお願いすることにした。
竜の王女ということで迷ったのかもしれないが、良い機会であるとも考えたのだろう。
「では、あと二人ですが……他にいませんか?」
「じー」
隣の席のユスティーナが、キラキラとした目でこちらを見てきた。
犬のように尻尾がついていたら、ぶんぶんと左右に揺れていたと思う。
喜んでいるのではなくて、おねだりするような感じ。
初めてのことに不安があるにはあるのだけど……
でも、そんなことを言っていたら、どんな物事にも挑戦はできなくなるか。
逆に、初めてだからこそ新鮮な気持ちを味わうことができる、という見方もある。
それに……ユスティーナと一緒なら楽しそうだ。
「はい、やります」
「エステニア君も立候補ですね。わかりました。よろしくおねがいします」
「がんばります」
「あと一人ですが……」
「では、自分もやるのであります」
最後にククルが挙手をした。
任務があるのに、大丈夫なのだろうか?
実行委員になると、時間をとられてしまうが……
いや、そう悪いことばかりでもないか。
実行委員になることで、全体を把握しやすくなるという利点もある。
色々な情報を手に入れることもできるだろうし、デメリットばかりではなくて、きちんとメリットも存在するか。
それを考えた上で、ククルは立候補したのだろう。
「えー……他に立候補はいませんか?」
念の為にという感じで、先生は教室を見回した。
誰も手を挙げないのを確認した後、言葉を続ける。
「では、竜友祭の実行委員は、エルトセルクさん。エステニア君。ミストレッジさんの三人で決まりですね」
先生がパチパチと拍手をして、クラスメイトたちもそれに続いた。
ちょっとだけ照れくさい。
「では、さっそく仕事をお願いできますか? クラスの出し物を決めるための話し合い……その進行役をお願いします」
「わかりました」
竜友祭は、学生主導で行われるため、俺たちが進行役を務めるのは当たり前の話だ。
俺、ユスティーナ、ククル……三人は壇上に出て、先生と交代する。
ユスティーナが右に、ククルが左に立つ。
俺が真ん中になり、自然と代表的な立場に。
二人がそれを望んでいるようなので、引き受けることにした。
「えっと……」
先生から、竜友祭の出し物についての概要が書かれた紙を渡されて、目を通す。
基本、なんでもあり。
ただし、自力でできる範囲のものに限る。
予算は出るけれど、上限アリ。
「ふむ」
大体の内容は理解したが……
わりと自由なんだな。
展示物でもいいし飲食店でもいいし、いっそのこと、大がかりな演武でも演劇でも構わない。
ここまで自由だと、なにをしていいかわからないという、混乱しそうにもなるが……
その反面、なんでもできるという、わくわくとした気持ちにもなる。
「……ということだけど、なにかやりたいものはないか?」
ひとまず、クラスのみんなに説明をした後、アイディアを募集する。
「ひとまず、できるできないは置いておいて、やりたいものを挙げてほしい。その中から、絞り、決めていく形にしよう」
「というわけで、さっそくアイディアを募集するよー!」
「これがいい、というものがあれば、どんどんお願いするのであります」
クラスメイトの三分の一くらいが一斉に手を挙げた。
実行委員はともかく、みんな、竜友祭そのものはやる気たっぷりみたいだ。
こういう反応があると、実行委員になってよかったと思う。
クラスメイトたちの反応をうれしく思いながら、みんなの意見をまとめていく。
その結果……
喫茶店、模擬店、資料の展示、演劇、神竜の握手会……などなど、色々な意見が出た。
おかしな内容も混じっているが、どれも楽しそうだ。
その後、みんなで話し合い、検討を重ねた結果、俺たちのクラスは喫茶店を開くことになった。
きっと、楽しい思い出になるだろう。
ククルの任務の件は気になるが……
それはそれ、これはこれ。
緊張しすぎないように適度にリラックスして、楽しめる部分は楽しんでいきたいと思う
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