108話 転校生は聖騎士
「ククル・ミストレッジといいます! 出身は、フィリア。訳あって、こちらの学院に通うことになったのであります。右も左もわからぬ未熟者故、ご指導ご鞭撻、お願いするのであります!」
壇上で元気な声を発して、ククルはぺこりとお辞儀をした。
そんな彼女を、クラスメイトたちは拍手で迎え入れる。
ただ、俺とユスティーナ、ジニーとアレクシアはというと……
「「「……」」」
こんな偶然、あるものなのか……と、ぽかんとしていた。
ちなみに、ノルンは深く考えていない様子で、単純に再会を喜び、ククルに笑顔で手を振っていた。
――――――――――
「アルト殿! エルトセルクさん! ジニーさん! アレクシアさん! グラン殿! お久しぶりであります」
もしかして他人の空似? なんてことを思ったのだけど……
転校生のククルは俺たちの知るククルだった。
休み時間。
クラスメイトたちといくらか話をした後、ククルがこちらにやってきて、にっこりと笑うのだった。
「久しぶり、ククル」
「はい!」
笑顔を交わすと、ククルはとてもうれしそうな顔をした。
見ているこちらも微笑ましくなるような感じ。
「まさか、こんなところでミストレッジさんと再会するなんて、思ってもなかったわ……」
「ええ、ホントですわ……」
「自分も同じ意見であります」
ジニーとアレクシアが驚きの言葉を口にして、ククルがそれに同意する。
その話を聞く限り、ククルが望んで転校したわけじゃなさそうだ。
そういえば、フィリアの出身であることは口にしても、聖騎士であることは明かしていないな?
もしかして、極秘任務かなにかなのだろうか?
しかし、そうなると気軽に聞いていいものかどうか……
「ねえねえ、ククルはどうしてここに?」
俺の悩みをよそに、ユスティーナはあっさりとそんなことを尋ねていた。
「もしかして、聖騎士の任務かなにか?」
「おいおい」
「はい、そうであります!」
ユスティーナの発言に慌てる俺だけど、ククルは気にした様子はなく、素直に認めていた。
どうやら聖騎士であることを隠していたわけではなくて、ただ口にしなかっただけみたいだ。
問われれば答える、という感じだろうか。
「それは、どのような任務なのですか?」
「もうしわけないのであります。それは公言することはできず……」
「いえ、こちらこそもうしわけありません。ミストレッジさんの立場からしたら、言えないことが多いのは当たり前。そのことを考えず、不躾なことを聞いてしまいました」
「そう言っていただけると、助かるのであります」
なにかの任務を帯びて、ククルは学院にやってきた。
聖騎士であることは公言できても、任務の内容は口にできない。
……いったい、どのような任務なのだろうか?
秘密のありそうな内容に、少しだけ興味がそそられてしまう。
「任務ってことは、少ししたらどこかに行っちゃうとか?」
「うーん……可能性はなくはないのですが、たぶん、しばらくは滞在することになると思います」
「そっか、よかった。任務だとしても、せっかく一緒になったんだもの。仲良く楽しくやりたいものね」
ジニーらしい考え方だ。
とても共感できる。
「あ、これからは自分のことは、ククルと名前で呼んでくれたらありがたいのであります! 同じ学舎で学ぶ者同士、変な距離は作りたくないのであります」
「それじゃあ遠慮なく……これからよろしくね、ククル」
「よろしくお願いします、ククルさん」
「よろしくな、ククル!」
「はい、よろしくであります!」
見ての通り、ククルはとても素直で真面目な女の子だ。
この調子なら、すぐにクラスに溶け込めるだろう。
ククルの任務がどういうものか、それはわからないが……
ひとまず、楽しい学院生活を送ってほしいと思う。
「ところで、アストハイムさんはいないのでありますか?」
「あいつだけ別のクラスなんだよ」
「それは残念であります……後で挨拶に行かないと」
そんなことを話している間に休憩時間が終わり、次の授業が始まるのだった。
――――――――――
「ねえねえ、ミストレッジさん。お昼はどうするの? よかったら、食堂で一緒に食べない?」
「今日は私たちがおごってあげる。なんと、おかずは二品までOK!」
「エステニア君たちの話が聞こえてきたんだけど、ミストレッジさんって聖騎士なの? 色々と話を聞かせてくれない?」
昼休み。
ククルのところに、たくさんのクラスメイトが集まっていた。
彼女ならすぐに溶け込めるだろうと思っていたが……
予想以上に早く馴染んでいて、すでに人気者になっていた。
「むう」
そんな光景を見て、ユスティーナが微妙な顔になる。
「ボクの時は、あんな風にならなかったのに」
「それは……」
あの時は、まだセドリックがいて、クラスがなんともいえない雰囲気に包まれていたからな。
それに、俺ばかりに構っていたからか、クラスメイトたちも声をかけづらいところがあったのだと思う。
「まあいいや。ボクは、アルトがいればそれでいいからね! アルト、ごはん、食べに行こう」
「ああ」
いつもはユスティーナが弁当を作ってくれているのだけど、今日はなしだ。
毎日作ってもらうのは、手間をかけてもうしわけないという理由と……
あと、たまに学食が恋しくなるんだよな。
とてもおいしいというわけじゃない。
ただ、どこか懐かしい味がするものだから、たまに無性に食べたくなる味だ。
「アルト殿」
クラスメイトの輪から抜け出して、ククルが声をかけてきた。
「よければ、自分も一緒してもいいですか?」
「え? それは構わないが……誘われていたんじゃないのか?」
「クラスメイトたちの好意はとてもうれしいのですが……できれば、アルト殿たちに話したいことがありまして」
「……もしかして、それは聖騎士の任務絡みなのか?」
「はい。今朝は、クラスメイトたちの耳がある故、ああ言いましたが……実は、アルト殿たちに協力を要請するつもりでいました」
「なるほど」
だから、この学院に……俺たちのクラスに転校してきた、というわけか。
「じゃあ、購買でパンでも買って、屋上で話をしようか」
「助かるのであります。ありがとうございます」
ユスティーナは、食堂のごはんがいいのに……とつぶやいていたが、今日は我慢してほしい。
ククルの顔はとても真面目なもので、わずかに焦燥感すらもにじませていた。
聖騎士で、とんでもない力を持つククルに、そんな顔をさせてしまう。
いったい、どんな任務を抱えているのか?
どんなことができるかわからないが、力になりたいと思った。
その後……
学食で昼ごはんを購入して、みんなで屋上へ移動した。
途中でテオドールも加わり、フルメンバーだ。
「はぐはぐはぐっ」
「あーもう。もっとゆっくり食べないと、口元が汚れちゃうって何度も言ってるじゃない」
「あうー」
我慢できないというように、ノルンはすぐにサンドイッチを口に運んでいた。
そんな彼女を、我が子に接するような感じで、ユスティーナは口元をナプキンで拭いてやる。
あちらはユスティーナに任せて、俺はククルの話を聞くことにしよう。
「どういうことなのか、聞かせてもらってもいいか?」
「はい、こちらこそお願いするのであります」
ククルは神妙な顔つきになり、一度、みんなを見回した。
それから俺のところで視線を固定して、静かに口を開く。
「自分に与えられた任務は……フィリアを裏切り、民を傷つけた背徳者の捕縛であります」




