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106話 乙女の特訓

 その日のうちに、アレクシアは父親に頼み、山の遺跡に入る許可を得た。

 娘に甘いこともあり、許可はすぐに降りて……

 アレクシアとジニーは、すぐに遺跡に出発。

 深夜に遺跡に到着した。


「ここが、竜の遺跡……雰囲気たっぷりね」


 山の一角を切り崩すようにして、遺跡の入り口が顔を覗かせていた。

 扉は半分壊れていて、鍵がなくても中に入れるようになっている。


 もっとも、ここは竜の管理下だ。

 許可なく入るなどという無謀な真似は、例え盗賊でもしない。

 そのようなことをすれば、竜の逆鱗に触れて、死あるのみなのだから。


「ホントに大丈夫……?」

「大丈夫ですわ。きちんと話は通していますし、この遺跡を管理する竜にも許可はとっています。現に……」


 一歩、アレクシアは遺跡の中に足を踏み入れた。


「ほら、なにも起きないでしょう? これは、私たちが許可を得ている、という証拠になります」

「なるほど……そっか。じゃあ、ここで思う存分に、特訓できるわけね!」


 ジニーはその場で軽くジャンプをして、さらに横にステップを踏んでみせた。

 それから、己の体を見る。


「確かに、重力が増しているみたい。水の中にいるような感じで、体が動かしづらいわ」


 この環境下で特訓をすれば、いつもの倍は体が鍛えられるだろう。

 たとえ数日だとしても、それなりの効果が見込めるはずだ。

 そう考えて、ジニーはうれしそうな顔をした。


 そんな彼女を見たアレクシアは、子供がいたずらを企んでいるような顔をして、ニヤリと笑う。


「ふっふっふ」

「アレクシア?」

「実は、まだ隠し玉があるんですよ」

「え? どういうこと?」


 なにも聞いていないジニーはきょとんとした。


「私たちは、アルトさまに追いつくために引き離されないために、数日でできる限り強くならないといけません。そのために、この遺跡で特訓をすることにしました。ですね?」

「ええ。ここは重力が増しているから、良い特訓場になる、って」

「ですが、やはり数日では限度があると思うんです。聞いたところによると、アルトさまは一ヶ月以上をかけて、鍛えられたそうですから」

「それはわかっているわ。でも、あたしたちがとれる方法なんて他にないし……」

「いえ、他にないということはありませんよ? ちょっと反則的ではありますが……優秀な講師に戦い方を教わることにしましょう」


 ズンッ、と遺跡が鳴動する。


「なにこれ、地震……? ううん、違う。これは……」


 地震ではなくて、地響きだ。

 ズン、ズン、ズンとなにかとてつもなく大きなものが遺跡の奥から近づいてきている。

 この深く大きな振動は、それが発している足音なのだ。


 なにか、想像もできないような巨大なものが近づいている。

 ジニーは緊張に身を固くして……そして、ソレを目撃する。


「こんにちは」


 漆黒の竜が現れて、その恐ろしい見た目とは反対に、丁寧に挨拶をした。

 ひょこ、っと頭も下げている。


「え? あ、はい……こ、こんにちは?」


 あっけにとられたジニーは、ぽかんとしつつも、挨拶を返した。

 商売人の両親から礼儀を叩き込まれているからできたことであり、そうでなければ、いつまでもぽかんとしていただろう。


 そんなジニーを見て、竜は感心した様子でこくこくと頷いた。


「はい、合格です」

「え?」

「私を見ても我を忘れることなく、きちんと挨拶をすることができました。そんなことをできる人間は、なかなかいませんからね」

「えっと……ありがとうございます?」

「ごめんなさい、試すような真似をして。ただ、ユスティーナの友達がどんな子なのか、興味があって」

「あ……えっと、もしかして、エルトセルクさんのお姉さんですか?」


 ユスティーナのことを名前で呼んでいることに気がついたジニーは、そう尋ねた。

 すると、竜はうれしそうな声を出す。


「あらあら。お世辞が上手な子ですね。私はあの子の姉ではなくて、母ですよ」

「そ、そうなんですか……」


 お世辞ではなくて、素で間違えただけ。

 しかも、見た目からは区別がつかないため、わりと適当に言った……なんてことは口が裂けても言えないと思うジニーだった。


「よいしょ、っと」


 そんな年寄っぽい台詞と共に、ユスティーナの母……アルマは人形態に変身した。


 その姿を見て、なるほど、とジニーは思う。

 確かに、ユスティーナの母親みたいだ。

 彼女とよく似ていて、それでいて、母性のようなものを感じさせる。


「あの……どうして、エルトセルクさんのお母さんがこんなところに?」

「それは、私がお願いしたんです」


 アルマの代わりにアレクシアが答えた。


「実は、先の事件の後、特訓をつけてもらえないかエルトセルクさんに相談していまして……」

「そうだったの?」

「そういうことなら、うってつけの人がいるよ……と、こうしてエルトセルクさんのお母さまを紹介していただきました」

「それは、なんとまあ……」


 ということは、自分たちは竜の女王に稽古をつけてもらえるのだろうか?


 とてつもなく贅沢な話に、今夢を見ているのでは?

 なんてことを、ついつい考えてしまうジニーであった。


「娘から話を聞きましたが、二人は強くなりたいのですね?」

「は、はいっ」

「はい!」


 驚いていたため、ジニーはわずかな間をおきながらも、しっかりと頷いた。

 アレクシアもまた、強く頷いてみせる。


「いい返事ですね。娘と同じように、鍛え甲斐があります」

「え? エルトセルクさんに稽古をつけていたことがあるんですか?」


 ジニーは驚きのあまり、話の途中ではあるが、ついつい質問をしてしまう。

 すぐに自分の非礼に気がついて、頭を下げるものの、アルマは気にしなくていいというように微笑む。


「私はユスティーナの母ですからね。あの子が外の世界に出ても問題ないように、一通りの稽古はつけておきましたよ」

「「おー」」


 ジニーとアレクシアは、揃って感心するような声をあげた。


 ユスティーナの師匠とも呼べるアルマに稽古をつけてもらえるのなら、たぶん強くなることができる。

 いや、絶対に強くなることができる。


 そんな期待を抱かずにはいられない。

 二人は目をキラキラとさせた。


 そんな二人を諌めるように、釘を刺すように、アルマは厳しい声で言う。


「ただ……私の稽古は甘くないですよ。娘の友達であれ、加減をすることはありません。もうやめたいと思うほどに厳しいものになると思いますが、それについてこれる覚悟と自信は……」

「「あります!!」」

「あら」


 即答されて、アルマは軽く驚いた。


 普通、このようなことを言われれば、誰でもためらうものだ。

 しかも、アルマは竜の女王。

 過酷な訓練になることは火を見るよりも明らか。


 それなのに、ジニーとアレクシアは迷わずに頷いた。

 まっすぐな目は、強くなりたいと訴えている。


 若いっていいわね、なんてことをアルマは思った。

 ただ、数千年を生きる伝説のアルマからしたら、ほとんどの者が若者になるのだが。


「いい返事ですね。それでこそ、鍛え甲斐があるというものです」

「それじゃあ……」

「はい。私でよければ、特訓に付き合いましょう」

「やった!」


 小さくガッツポーズをとるジニー。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、喜びを表現するアレクシア。

 無邪気に喜ぶ二人は子供のようで、微笑ましくもあった。


 最初、アルマはジニーとアレクシアに優しい目を向けるが……

 ほどなくして、それは厳しいものに変わる。


「さて」


 アルマの雰囲気が鋭いものに変化して、ジニーとアレクシアはなにも言われていないのにピシリと背を伸ばして、敬礼のような体勢をとる。

 強者に対しての礼を。

 学院で鍛えられた故の行動だ。


「時間もないですし、さっそく稽古を始めたいと思います。いいですね?」

「「はいっ、よろしくお願いします!!」

「良い返事ですね。この私……アルマ・エルトセルクの名に賭けて、この数日で、あなたたちをできる限り鍛えると約束しましょう」


 こうして、アルマによる特訓が開始された。


 後に、ジニーとアレクシアは語る。

 地獄を見た……と。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 私はアルマの母 → ユスティーナの母 では?
[一言] ※嘘ネタ そして夏季休暇が終わり、学院で会った時のアレクシアとジニーは、まるで獣の様なオーラを感じさせる野生児の様になっていた。
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